不動産法人化、家賃収入だけで判断していませんか?――損益分岐・地代設計・通達6項の3視点
投稿日:2026年05月24日

朝4時起きの名古屋の税理士丸山です。
不動産の法人化をご検討されるオーナー様から最も多くいただくご質問が、「家賃収入がいくら以上なら法人化した方が得なのですか?」というものです。
確かにそうした目安は実務でも語られますが、家賃収入の額だけで判断すると、「思ったほど節税にならなかった」「相続のときに評価面で大きな問題が出た」と後悔されるケースが少なくありません。
今日は、不動産法人化を判断するうえで外していただきたくない「損益分岐の見方」「地代と借地権の設計」「家族役員報酬と通達6項リスク」の3つの実務分岐を、数字を交えて整理いたします。
目次
1. 法人化の損益分岐は「家賃」ではなく「課税所得」で見極める
2. 建物だけ法人へ移すなら、地代と借地権の設計が肝
3. 家族役員報酬は最強の節税ツール――ただし「実態」が前提
4. 評価圧縮の行き過ぎは危険――通達6項否認の4要素
1. 法人化の損益分岐は「家賃」ではなく「課税所得」で見極める
「家賃収入が年間1,000万円を超えたら法人化」といった目安をお聞きになったオーナー様は多いと思います。
ところが法人化の有利不利は、家賃収入そのものではなく、必要経費を差し引いた後の「課税所得」の水準で決まります。
個人は所得税が超過累進で住民税と合わせると最大55%程度となる一方、中小法人の実効税率は、年800万円以下の所得部分でおよそ22%、超過部分でも30%強にとどまります。
シミュレーション上の目安では、課税所得がおおむね600万円を超えてくると不動産所有方式が有利になり始め、税理士費用などのランニングコスト増を勘案して700万円超で実質的にプラスへ転じる、という整理が一般的です。
家賃収入が同水準でも、減価償却の進み具合、借入残高、ご家族構成によって課税所得は大きくぶれます。
法人化のご判断は、まず「3年から5年先までの課税所得の推移」を試算するところから始めていただくのが順序です。
2. 建物だけ法人へ移すなら、地代と借地権の設計が肝
法人化の実務では、土地はオーナー個人の所有のまま、建物のみを法人へ譲渡する「不動産所有方式」が多く採用されます。
このとき必ず生じるのが、土地に対する地代と借地権の処理です。
選択肢は、権利金収受方式、相当の地代方式、無償返還の届出方式の3つで、同族法人とのやり取りでは「土地の無償返還に関する届出書」を税務署に提出し、権利金の認定課税を回避するのが定石となります。
ここで注意していただきたいのは、地代の水準です。
固定資産税相当額しか地代を取らないと「使用貸借」とみなされ、相続時に土地は自用地評価となり、貸家建付地評価や小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等は200㎡まで50%減額)の適用が受けられなくなる恐れがあります。
実務では、土地の固定資産税・都市計画税の年額の2倍から3倍以上を地代として設定し、賃貸借と認められる水準を維持しておくのが安全策です。
届出を出して終わりではなく、毎年の地代の金額設計まで含めて初めて「法人化が完成した」とお考えください。
3. 家族役員報酬は最強の節税ツール――ただし「実態」が前提
法人化の効果が最も大きく出るのは、家賃収入を原資にご家族へ役員報酬を分散できる点です。
シミュレーション上、オーナーお一人に役員報酬を集中させた場合と、ご家族に分散させた場合では、30年累計の所得税・法人税で約2,200万円、相続税で約2,100万円、合計で4,000万円超もの差が生じる事例が示されています。
所得分散による超過累進税率の緩和と、相続財産そのものの圧縮が同時に効くため、効果が二重に積み上がるのです。
ただし、職務の実態が伴わないご家族への役員報酬は、法人税法施行令70条にいう「過大役員給与」に該当し、損金不算入として否認される恐れがあります。
配偶者の月2日から3日の関与で支給された役員報酬が高額に過ぎるとして否認された裁決例(平成20年11月14日裁決)もあります。
また定期同額給与の原則があり、期中の自由な増減はできません。
年度開始時に各人の職務を整理し、勤務実態と支給額の整合を記録に残しておくことが、税務調査での安心材料になります。
4. 評価圧縮の行き過ぎは危険――通達6項否認の4要素
もう一つお伝えしたいのが、財産評価基本通達6項の存在です。
これは「通達による評価が著しく不適当」と認められる場合に、税務当局が個別評価を行える伝家の宝刀で、近年の最高裁判決(令和4年4月19日)でも適用が肯定されました。
否認のサインとして共通するのは、ご高齢での不動産取得、評価額と取引価額の著しい乖離、相続発生前後の短期取引、そして相続税圧縮以外の経済合理性を説明しづらいスキームであることです。
「法人を絡めれば安心」というのは正確ではありません。
財産評価基本通達上、法人の株価を計算する際、法人が取得して3年以内の土地・家屋は路線価等ではなく通常の取引価額で評価されるという制約があるため一定の歯止めはありますが、過度な株価圧縮や短期の贈与スキームでは、法人を経由していても6項否認の対象になり得ます。
「節税は手段であって目的ではない」とのご認識のもと、保有期間中のキャッシュフローや収益改善といった経済合理性の説明をセットでご準備いただくことが、安全な法人化の前提条件です。
結びに
当事務所では、不動産法人化のご相談に際し、家賃収入の規模だけでなく、課税所得の推移、地代と借地権の設計、ご家族の役員報酬の組み立て、そして通達6項のリスク評価まで含めて、「数字」と「実態」の両面から最適なスキームをご提案しております。
法人化は一度仕組みをつくれば長く効くテーマだからこそ、初期設計の精度が将来の手取りと相続のかたちを大きく左右します。
経営理念に掲げる「ともに未来を描く」の言葉のとおり、オーナー様とご家族の10年・20年先の安心まで見据えて、一緒に最適解を組み立ててまいります。
法人化のタイミングや既存スキームの再点検をお考えのオーナー様は、どうぞお気軽にご相談くださいませ。
免責事項
本記事は、執筆時点における一般的な税制・実務の整理を目的としてお伝えするものであり、個別具体的なご相談に対する税務助言を行うものではございません。実際のご判断にあたっては、個別事情を踏まえた専門家のアドバイスをお受けくださいますようお願い申し上げます。また、本記事の内容は税制改正や通達の変更、判例の動向等により変動する可能性がございます。
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この記事の監修
税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。


