「賃貸の赤字は給与と相殺できる」と思っていませんか?——通算できない赤字で損しない3つの勘所
投稿日:2026年09月04日

朝4時起きの名古屋の税理士丸山です。
「アパートの減価償却で赤字を出せば、給与から天引きされた所得税が戻ってくる」。
書店に並ぶ本にも、そう書かれています。
実際、不動産所得の赤字は他の所得と通算できるのが原則です。
ところが、その赤字がまるごと使えるとは限りません。
使えない部分はその年に切り捨てられ、翌年に持ち越すこともできない。
今日は、通算できる赤字とできない赤字を分ける3つの勘所を整理します。
目次
1. まず前提——不動産所得の赤字は、原則として他の所得と通算できる
2. 勘所① 土地を買うための利息は、赤字でも切り捨てられる
3. 勘所② 海外の中古物件は、減価償却でつくった赤字が使えない
4. 勘所③ 切り捨てられた赤字は、翌年に繰り越すこともできない
1. まず前提——不動産所得の赤字は、原則として他の所得と通算できる
不動産所得は、総収入金額から必要経費を差し引いて計算します。必要経費には、固定資産税などの租税公課、火災保険料、修繕費、借入金の支払利息、そして建物や附属設備の減価償却費が含まれます。
この計算で赤字になった場合、給与所得や事業所得の黒字と相殺できます。
これが損益通算です。
会社員のオーナーであれば、源泉徴収された所得税の一部が還付される。
「不動産で節税」と言われるのは、この仕組みです。
ポイントは減価償却費です。
現金の支出を伴わない経費ですので、手元の資金はプラスなのに帳簿上は赤字、という状態がつくれます。
だからこそ、この赤字には二つの穴が空けられました。
順に見ていきます。
2. 勘所① 土地を買うための利息は、赤字でも切り捨てられる
不動産所得が赤字になった場合、その赤字のうち、土地等を取得するために借り入れた負債の利子に相当する額は、損益通算の対象になりません(租税特別措置法41条の4)。
誤解しやすいのは「支払利息が経費にならない」という理解です。
土地分の利息も必要経費には入ります。
制限がかかるのは、出来上がった赤字を他の所得とぶつける段階です。
たとえば不動産所得が△300万円、そのうち土地取得分の支払利息が200万円あったとします。
給与と通算できるのは差引き100万円のみ。
残る200万円は、その年に消えます。
土地の値段が張る都市部ほど、この切り捨ては大きくなります。
ここで効いてくるのが、借入金をどちらに充てたと考えるかです。
土地と建物を一括で取得し、借入金の額を土地分と建物分に区分することが難しい場合には、その負債はまず建物の取得に充てられたものとして計算することができます。
条件は、土地と建物を一つの契約で、同一の売主から取得していることです。
土地1億円・建物1億円の物件を、自己資金1億円と借入金1億円で購入したとします。
借入金を全額「建物分」と扱えれば、土地の負債利子はゼロ。
赤字は満額使えます。
逆に契約を分けてしまうと、この扱いが取れなくなることがある。
契約書の作り方が、そのまま税額に跳ね返ります。
ただし、新築を計画されている方には、もうひとつ申し上げておかなければならないことがあります。
この建物優先の充当が認められるのは、土地等を「その土地等の上に建築された建物とともに取得した」場合です(措置法施行令26条の6第2項)。
土地を買って自分でアパートを建てるプロジェクトは、土地の売主と建物の請負先が別であり、契約も別。
つまり、はじめからこの有利な扱いの対象外です。
実務も同じ方向に働きます。
土地の決済が先、建物の引渡しが後になりますので、金融機関は土地先行融資、いわゆるつなぎ融資として、土地代金専用の契約を建物とは別建てで組みます。
借入が土地分と建物分にきれいに分かれるほど、「区分することが困難であるとき」という要件からは遠ざかります。
救いがないわけではありません。
建物が完成して賃貸を開始するまでの期間に対応する借入金の利子は、必要経費ではなく取得価額に算入する取扱いがあります(所得税基本通達37-27)。
ですからこの問題が表に出てくるのは、賃貸を始めて減価償却がフル稼働し、赤字が立ちはじめた年からです。
融資を引く段階で、土地と建物の契約をどう組むかまで詰めておきたいところです。
3. 勘所② 海外の中古物件は、減価償却でつくった赤字が使えない
海外、とくに米国の中古住宅は、価格に占める建物の割合が高く、しかも日本の簡便法で耐用年数を計算できました。
法定耐用年数をすべて経過した中古建物なら、法定耐用年数×0.2。
木造なら4年です。
取得価額の大半を4年で落とせるため、大きな赤字を意図的につくれる。
これが節税商品として売られました。
現在は封じられています。
国外中古建物を賃貸して不動産所得を生む業務に使っている場合、その不動産所得に損失が生じても、国外中古建物の償却費に相当する部分の損失は、生じなかったものとみなされます(措置法41条の4の3)。
令和3年分以後の不動産所得から適用されています。
「生じなかったものとみなす」ですので、給与と通算できないだけでなく、他の国内物件の黒字とも相殺できません。
ただし、完全に消えるわけではない点は押さえておきたいところです。
生じなかったものとみなされた償却費相当額は、その物件を譲渡したときに、譲渡所得の計算上の取得費に加算されます。
毎年の所得税は減らないが、売却時の譲渡益は圧縮される。
つまり、税率の高い総合課税から、税率の低い分離課税へ移されたと読むのが実態に近い。
なお、この特例が働くのは簡便法または一定の見積法で償却している場合です。
国外の中古建物であっても、日本の法定耐用年数で償却しているのであれば対象外です。
「海外だから一律ダメ」ではありません。
もうひとつ、「売るときに取り戻せるなら実質トントン」とお考えの方に、必ずお伝えしていることがあります。為替です。
日本の税法では、海外不動産の譲渡所得も円建てで計算します。
売却代金は売却時のレートで、取得費は購入時のレートで換算する。
ですから米ドルベースではまったく値上がりしていなくても、購入時が1ドル110円、売却時が1ドル150円であれば、円換算では大きな譲渡益が立ちます。
保有中の赤字は封じられ、出口では為替が生んだ見かけの利益に課税される。
この順番になりかねません。
もちろん逆もあります。
円高に振れれば、為替は損失の側に働きます。
申し上げたいのは、海外物件の損得が物件の値動きだけでは決まらないということです。
取得費に加算される金額も円建てで固定されますので、出口の試算は為替レンジを複数置いて行ってください。
4. 勘所③ 切り捨てられた赤字は、翌年に繰り越すこともできない
青色申告をしていれば、使い切れなかった純損失は翌年以後3年間繰り越せます。ここを知っていると「今年通算できなくても、いずれ使える」と考えがちです。
しかし、上の二つで切り捨てられた部分は、そもそも純損失として認識されません。
なかったものとされた金額は、繰越の対象にもならない。
その年限りで完全に消えます。
ですから、この論点は申告のときに考えても遅く、物件を買う前、契約を交わす前に設計するものです。
私であれば、購入検討の段階で次の三つを確認します。
一つ目は、土地と建物の按分です。
契約書に区分価額を明記するのか、固定資産税評価額の比で分けるのか、建物の標準的な建築価額表を使うのか。
建物側の金額が増えれば減価償却費が増え、同時に土地の負債利子は減る。
二重に効きます。
二つ目は、借入と契約の組み方です。土地と建物を同一の売主から一つの契約で取得できているか。ここを外すと、建物優先の充当という有利な扱いが使えなくなります。
三つ目は、そもそも個人で持つべきかどうか。
土地の負債利子の切り捨ては所得税の規定であり、法人にはこの制限がありません。
法人には所得区分そのものがないため、赤字は他の事業の利益とそのまま相殺されます。
借入比率が高く、土地の割合が大きい物件ほど、法人で取得する合理性は上がります。
この話をすると、「では個人で買ってしまった物件を、今から自分の会社に売り直せばよいか」というご相談をいただきます。方向としては正しいのですが、移し替えには相応のコストがかかることは押さえておいてください。
法人側では、不動産取得税(土地と住宅は令和9年3月末までの取得なら税率3%、宅地は課税標準が2分の1)、登録免許税(土地は令和11年3月末まで1.5%、建物は2%)、司法書士報酬、印紙税。
個人側では、償却が進んで簿価が下がっていれば譲渡所得税がかかります。
個人が課税事業者であれば、建物の対価に消費税も乗ります。
1億円規模の物件なら、移すだけで数百万円のキャッシュアウトです。
数年分の節税効果は、これで簡単に飛びます。
ですから、動かすかどうかを決める前に、土地まで動かさない選択肢も並べてください。
建物だけを法人へ移し、土地は個人が持ったまま法人に貸して、土地の無償返還に関する届出書を提出する。
この形なら土地の流通コストはかからず、家賃収入は法人に移ります。
最初のボタンを掛け違えたときの掛け直し方は、ひとつではありません。
結び
赤字は、出せば必ず税金が戻るものではありません。
同じ△300万円でも、契約の書き方と借入の組み方で、使える金額がまったく変わります。
そして使えなかった分は、翌年に持ち越すこともできず、その年に消えていきます。
当事務所では、収益物件の購入をご相談いただいた際に、利回りや返済計画とあわせて、「その赤字は何割使えるのか」を購入前に試算するようにしています。
買ってからでは動かせない項目が多いためです。
すでにお持ちの物件でも、過去の申告書と借入契約を拝見すれば、通算できていたはずの赤字が眠っていないか確認できます。
経営理念に掲げる「ともに未来を描く」のとおり、目先の還付額ではなく、保有から出口までを見据えた組み立てを一緒に考えてまいります。物件の購入をご検討中の方は、契約前にお声がけください。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を行うものではありません。
税法は改正されることがあり、また個別の事情によって取扱いが異なる場合があります。
実際の申告や意思決定にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。
本記事の情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当事務所は責任を負いかねます。
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この記事の監修
税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。


