自社ビルや収益不動産、「持つか売るか」だけで考えていませんか?——不動産の“流動化”で手取りが変わる3つの分かれ道
投稿日:2026年07月22日

おはようございます。
朝4時起きの名古屋の税理士丸山です。
「不動産は持ち続けるか、売るかの二択」——多くの経営者やオーナーの方は、そう考えていらっしゃいます。
ですが、その中間に「流動化(証券化)」という選択肢があることは、意外と知られていません。
保有する収益不動産をSPC(特別目的会社)へ移し、資金化しながらバランスシートを軽くする手法です。
ただ、仕組みを誤解したまま進めると、「売ったつもりが会計上は売れていない」「二重課税が消えると思ったら残っていた」といった落とし穴にはまります。
今日は、流動化で手取りと財務を左右する3つの分かれ道を整理します。
目次
1. そもそも「不動産の流動化」とは——SPCに移して資金化する仕組み
2. 【分かれ道1】「売れば必ずオフバランス」ではない——リスク負担割合5%の壁
3. 【分かれ道2】二重課税は“自動では”消えない——導管性要件と90%超の配当
4. 【分かれ道3】現物か信託受益権か——入り口の流通税で差がつく
1. そもそも「不動産の流動化」とは——SPCに移して資金化する仕組み
不動産の流動化とは、保有する不動産をSPCという受け皿会社へ譲渡し、その不動産が生む賃料や売却益を裏づけに投資家から資金を集める仕組みです。
元の所有者(オリジネーター)は不動産を手放して資金を受け取り、負債を返済して財務諸表を圧縮できます。
SPCには特定目的会社(TMK)や投資法人、匿名組合(TK)を使う形などがあり、倒産隔離のために一般社団法人を絡めるのが実務の定番です。
ポイントは、単に「売る」のとは違い、①財務のオフバランス、②税務の二重課税回避、③入り口の流通税、という3つの論点がセットで動くこと。
ここを別々に理解したまま進めると、判断を誤ります。
2. 【分かれ道1】「売れば必ずオフバランス」ではない——リスク負担割合5%の壁
不動産をSPCに譲渡しても、それだけで会計上「売却」として処理できるわけではありません。
不動産流動化の実務指針では、流動化した不動産の「リスクと経済価値のほとんど全て」がSPCを通じて他の者へ移転していることを、売却認識の要件としています。
判断の目安が「リスク負担割合」で、譲渡時の適正な価額(時価)に対して譲渡人が負い続けるリスクの金額の割合が、おおむね5%の範囲内であれば、ほとんど全てが移転したものとして扱われます(同実務指針第13項)。
つまり、オリジネーター自身がSPCに出資したり、開発コストや損失の補填を負担したりして、このリスク負担割合が5%を超えると、売却処理=オフバランスは認められません。
「売って資金だけ受け取り、財務は軽くする」という狙いが崩れてしまうのです。
出資や保証を通じてどれだけリスクを残すかは、スキーム設計の入り口で必ず数字で検証しておくべき点です。
3. 【分かれ道2】二重課税は“自動では”消えない——導管性要件と90%超の配当
流動化のもう一つの狙いが、二重課税の回避です。
通常の会社であれば、不動産収益にまず法人税がかかり、配当を受け取った投資家にもう一度課税されます。
これを避けるため、特定目的会社(TMK)や投資法人には、「導管性要件」を満たせば支払配当を損金に算入できる仕組み(ペイスルー)が設けられています。
ただし、これも“自動”ではありません。
導管性要件には対象法人・対象事業年度・申告の各要件があり、その中核が「配当可能利益の90%超を配当すること」です(投資法人は租税特別措置法第67条の15)。
裏を返せば、利益を内部に留保すると、その部分には原則どおり法人税がかかります。
だから実務では、税負担を極小化するため、利益のほとんど全てを分配します。
ビークルを噛ませれば当然に非課税、ではなく、「毎期90%超を配当し続ける」運用があってはじめて二重課税が外れる——この前提を外すと、想定外の法人税が発生します。
+αの視点:オーナー一族だけで出資すると二重課税回避が吹き飛ぶ
「同族会社の罠」 二重課税を回避するための「導管性要件」には、90%超の配当要件のほかに「出資者の属性」に関する厳しい縛りがあります。
それは、事業年度終了時において特定目的会社(TMK)が「同族会社」に該当してはならないという要件です。
つまり、「外部の投資家を入れるのは面倒だから」と、社長一族や自社グループの出資だけでSPCを構成してしまうと、この導管性要件を満たせず、利益に対して通常の法人税が丸々課税されてしまいます。
機関投資家等を巻き込んだ出資比率のコントロールが不可欠なのです。
4. 【分かれ道3】現物か信託受益権か——入り口の流通税で差がつく
見落とされがちなのが、「入り口」の流通税です。
不動産をSPCへ現物で移すと、取得する側に不動産取得税(本則で、土地・家屋とも固定資産評価額に対して原則4%)と、所有権移転登記の登録免許税(本則で、売買は不動産価格の2%)がかかります。
規模が大きいほど金額も大きく、スキーム全体の採算を左右します。
ここで効くのが、「不動産そのもの」ではなく「不動産信託受益権」で動かす方法です。
信託受益権は地方税法上の「不動産」に当たらないため、その取得には不動産取得税が課されません。
また、委託者から受託者へ信託財産を移す段階の譲渡も、形式的なものとして不動産取得税は非課税とされています(地方税法第73条の7)。
さらにTMKやREITなど一定のスキームには、登録免許税や不動産取得税の時限的な軽減措置が用意されています。
ただし、軽減の税率や適用期限は毎年の税制改正で見直されるため、実行時点で最新の適用要件と期限を必ずご確認ください。
番外編:スキームの出口(解散時)に襲いかかる「消費税の中間納付」リスク
入り口の税金に加えて、流動化の「出口(物件を売却してSPCを解散する時)」にも強烈な落とし穴が待っています。
物件を売却した翌事業年度には、前年の多額の売却実績に基づく「消費税の中間納付」が発生します。
しかし通常、物件売却後は投資家に資金を分配して清算手続きに入るため、SPCにはこの多額の中間納付を支払うキャッシュが残っておらず、資金ショートを起こす危険があるのです。
これを防ぐためには、課税期間の短縮特例や仮決算による中間申告といった「消費税のタックスプランニング」を、解散スケジュールに組み込んでおくことが絶対に欠かせません。
おわりに——3つを同時に設計してはじめて効果が出る
不動産の流動化は、財務・税務・流通税の3つを同時に設計してはじめて効果が出ます。
どれか一つの理解が欠けると、「オフバランスにならない」「二重課税が残る」「入り口の税金で採算が合わない」といった形で、狙った手取りが得られません。
当事務所では、保有不動産の“次の一手”を検討される経営者・オーナーの皆さまと、スキームの入り口から出口まで、数字で検証しながら伴走しています。
私たちが大切にしているのは、経営理念「ともに未来を描く」。
目先の節税だけでなく、5年後・10年後の財務まで見据えた設計を、ぜひ一緒に考えさせてください。
【免責事項】
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務・法務上のアドバイスではありません。税制は改正される場合があり、実際の適用は個別の事情により異なります。具体的なご判断にあたっては、税理士等の専門家にご相談ください。
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この記事の監修
税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。


