その出費、“経費”で落として大丈夫?——不動産の売買でつまずく『税金まわりのお金』3つ

投稿日:2026年08月31日

その出費、“経費”で落として大丈夫?——不動産の売買でつまずく『税金まわりのお金』3つ

おはようございます。

朝4時起きの名古屋の税理士丸山です。

 

不動産を売買したとき、「固定資産税の精算金は税金の立替えだから経費」「立退料を払ったのだから当然経費」と、反射的に費用処理していないでしょうか。
ところが税務の世界では、同じお金でも“何のために・誰に払ったか”で扱いが真逆になります。
一発で経費に落とせると思っていたものが取得価額に化けたり、逆に経費にできるものを取り逃していたり。

 
今日は、不動産の売買で経理担当者もベテラン大家も足をすくわれやすい「税金まわりのお金」を、3つの視点で整理します。

目次

1.固定資産税の「精算金」は、税金ではなく“代金”

2.土地と建物の按分は、あなたが自由に決められない

3.立退料は「誰に・何のために」で税務が真逆になる

4.共通するのは“目的から逆算する”という考え方

1.固定資産税の「精算金」は、税金ではなく“代金”

不動産の売買では、引渡し日を境に、その年の固定資産税・都市計画税を日割りして、買主が売主へ「未経過分」を支払う慣行があります。
多くの方はこれを“税金の立替精算”と受け止め、支払った買主はその年の経費、と考えます。
ここが最初の落とし穴です。

 

税務上、この精算金は税金そのものではなく、売買代金の一部(値段の調整分)と扱われます。
つまり買主にとっては物件の取得価額に上乗せする金額であり、その年の経費で一括処理はできません。
土地に対応する分は土地の取得価額へ、建物に対応する分は建物の取得価額へ回り、建物分は減価償却を通じて少しずつ費用化されていきます。

 

さらに見落とされがちなのが消費税です。
精算金は売買代金の一部ですから、建物に対応する部分は消費税の課税対象になります。
売主から見れば課税売上、課税事業者である買主から見れば仕入税額控除の対象になり得ます。
たとえば建物分の精算金が数十万円あれば、その消費税相当額を控除し損ねるだけで、実際に残るお金が変わってきます。
「精算金は税金だから消費税は関係ない」という思い込みは、そのまま損につながります

αの視点:「固定資産税評価額で按分すれば100%安全」という神話の崩壊

土地と建物の按分において、「役所が決めた公的な指標である『固定資産税評価額の比率』で分けておけば、絶対に税務署から文句は言われない」——もしそう思い込んでいるなら、今すぐその認識をアップデートしてください。

 
実は、国税不服審判所(令和6年12月13日裁決)において、非常に衝撃的な判断が示されました。
納税者側が固定資産税評価額の比率で合理的に按分・申告していたのに対し、国側(税務署)が個別事情(一体利用している隣接地の無道路地評価の見落としなど)を細かく考慮して行った「不動産鑑定評価」による按分比率を提示したところ、審判所は国側の鑑定評価額ベースでの按分を全面的に支持したのです。
「公的評価だから安心」という時代は終わりました。

 
特に、周辺の土地の状況が複雑な物件や、建物比率を有利に高めて大きな償却費を獲得したい高額物件の売買では、最初から客観性の高い「不動産鑑定評価書」を取得してエビデンスをガチッと固めておくことが、税務調査を無傷で乗り切るための唯一無二の防衛策になります。

2.土地と建物の按分は、あなたが自由に決められない

土地と建物を一括で購入すると、支払総額を土地分と建物分に振り分ける「按分」が必要になります。
土地は減価償却できない資産、建物は減価償却できる資産ですから、どう分けるかで、その後“毎年の減価償却費=利益”が変わります
「それなら建物を大きく取れば償却が増えて有利では」と考えたくなりますが、按分は納税者が好きに決めてよいものではありません

 

合理的な根拠のない恣意的な配分は、税務調査で否認されるリスクがあります。
実務では、鑑定評価による土地建物の構成比で按分する方法が原則とされ、そのほか固定資産税評価額の比率で按分する方法や、建物の再調達価額から経過年数分の減価を控除した残額を建物価額とする方法などが用いられます。
どれを採るにせよ、“客観的な物差し”に基づいていることが要です。

 

もう一段深い論点が、建物本体(躯体)と電気・給排水などの附属設備の按分です。
両者は耐用年数が異なり、附属設備のほうが短いのが一般的です。
ここを分けておくと、償却が早く回り、保有初期のキャッシュフローが効いてきます
実務上の防衛策はシンプルで、売買契約書に土地・建物の内訳と消費税額を明記しておくこと。
契約時のひと手間が、数年後の減価償却も、売却時の譲渡益計算も守ってくれます。

3.立退料は「誰に・何のために」で税務が真逆になる

テナントや借家人に支払う立退料も、扱いを誤りやすい代表格です。
立退料は、借地借家法28条が求める「正当事由」を補完するもので、その性質は、賃借人の移転費用の補償・休業期間中の利益の補償・借家権(利用権)の補償に整理されます。
問題は、同じ「立退料」でも支払う目的によって税務処理がまったく変わることです。

 

たとえば、いま所有している賃貸物件で、賃貸を続けるためにテナントを入れ替える、あるいは建物を取り壊す目的で払う立退料は、原則として損金(経費)になります。
一方、土地や建物を取得するために、その使用者へ立ち退いてもらう目的で払う立退料は、その不動産の取得価額に算入します(経費ではありません)。
さらに、更地にして売却するために払う立退料は、譲渡費用として譲渡所得の計算上で差し引きます

 

同じ支出が、経費にも・取得価額にも・譲渡費用にもなる
ここを一律「経費」で処理すれば否認されかねませんし、逆に、本来は取得価額や譲渡費用に乗せて将来の税負担を下げられるものを、名目だけで判断して取り逃すこともあります。
立退料は金額が大きくなりがちだからこそ、“何のために払うのか”を先に決めておくことが、そのまま税額を左右します。

4.共通するのは“目的から逆算する”という考え方

3つに共通するのは、「支出の名前」ではなく「目的と出口」で税務が決まる、という一点です。
同じお金でも、取得のためか・保有のためか・売却のためかで、経費・取得価額・譲渡費用への振り分けが変わります。

 

経営者の視点で言えば、支出する前に「この物件を最終的にどうしたいのか」を決めておくことが最大の節税策になります。
持ち続けるのか、数年で売るのか、建て替えるのか。
出口が定まれば、契約書の書き方、見積書の名目、支払いのタイミングまで、打つべき手が逆算で見えてきます
税務は、決算のときに帳尻を合わせる作業ではなく、意思決定の段階で仕込むものだと、私は考えています。

おわりに

当事務所では、目の前の一取引の処理にとどまらず、「その不動産を将来どこへ着地させたいのか」から逆算して、取得・保有・売却の各局面で打てる手をご一緒に設計しています。
精算金・按分・立退料のような“地味だけれど差がつくお金”こそ、事前のひと言で結果が変わります。
気になる取引がある方は、契約前・支払前のタイミングでぜひご相談ください。
私たちは「ともに未来を描く」を理念に、数字の先にある経営の意思決定まで伴走します。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の税務・法務上の助言を行うものではありません。
税制は改正され、また個別の事情によって取扱いが異なる場合があります。
実際のご判断にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。

 

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この記事の監修

丸山会計事務所 税理士 代表 丸山和秀

税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)

税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。

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