これから不動産を買うなら、法人と個人どちらが得?——判断を誤らない3つの分かれ道
投稿日:2026年07月15日

おはようございます。
朝4時起きの名古屋の税理士丸山です。
「これから収益物件を買うなら、最初から法人にしておいた方が得ですよね?」——最近、こういうご相談が本当に増えました。
ネット記事の「法人は税率が低い」という一言だけを頼りに、勢いで会社を作ってしまう方も少なくありません。
ですが、法人か個人かは“税率の高低”だけでは決められません。
今日は、購入前に必ず押さえておきたい「税率と所得の合計」「赤字が出たときの損失の扱い」「売るとき・遺すときの景色」という3つの分かれ道を、Q&A形式で整理します。
目次
1. 「法人は税率が低い」は本当か——分岐点は“所得の合計”で動く
2. 赤字が出たらどうなる?——損益通算と繰越年数の落とし穴
3. 売るとき・遺すときで景色が変わる
4. 見落としがちな“入口と維持のコスト”
1. 「法人は税率が低い」は本当か——分岐点は“所得の合計”で動く
Q. 法人の方が税率は低いのですよね?
確かに、個人の所得税と住民税を合わせた最高税率は55%に達します。
所得税は5%から45%までの7段階の超過累進税率で、これに住民税の約10%が上乗せされるためです。
一方、資本金1億円以下の中小法人なら、年800万円以下の所得部分は法人税率15%、これを超えた部分も23.2%で、住民税や事業税を合わせても実効税率はおおむね33〜37%程度に収まります。
所得が大きくなるほど、一定税率の法人が有利になるわけです。
ただし、分岐点は「不動産所得だけ」では測れません。
目安は不動産所得で年600万円あたりですが、不動産所得は給与など他の所得と合算する総合課税の対象です。
たとえば給与だけで2,000万円の所得がある方なら、それだけで所得税率は40%。
この場合、賃貸の利益がわずかでも、最初から法人にした方が有利になり得ます。
逆に、他に所得が少なく物件も小規模なら、個人のままの方が税負担は軽くなります。
「自分の所得の“合計”はいくらか」——ここが最初の分かれ道です。
節税できても「社会保険料」で手残りが減る罠。
給与所得控除を使った家族への所得分散は強力ですが、ここで絶対に忘れてはいけないのが「社会保険料」の存在です。
法人から役員報酬を支給すると、たとえ社長一人の会社であっても社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が義務づけられます。
会社負担と個人負担を合わせると報酬額の約30%にも上るため、「税金は減ったのに、社会保険料を払ったら手残りがかえって減った」という本末転倒がよく起こります。
法人化の分岐点は、税金だけでなく社会保険料まで含めた「世帯全体の手残り」で見極めることが欠かせません。
2. 赤字が出たらどうなる?——損益通算と繰越年数の落とし穴
Q. 買った初年度は赤字になりそうです。損失はどう扱われますか?
ここは個人と法人で大きく差が出ます。
個人の場合、不動産所得の赤字は給与所得などと損益通算でき、その年の税金を圧縮できます。
ただし見落としが多いのが、土地を取得するための借入金の利子です。
この部分に対応する損失は損益通算の対象から外されます(いわゆる負債利子の制限)。
通算しきれなかった純損失は、青色申告なら翌年以降3年間繰り越せます。
「土地の借入金利子の赤字」は建物の利子から先に引ける。
前述のとおり、土地取得のための借入金利子に対応する赤字は損益通算できずに切り捨てられます。
しかし、土地と建物を一括の借入金で購入した場合、生じた赤字は「まず建物の借入金利子から生じたもの」として計算し、それでも引ききれない分だけを「土地の借入金利子」として切り捨てる、という納税者に有利な計算順序が認められています。
経費集計でこの順序を正しく踏むかどうかで、還付される税金が数十万円変わることもある実務上の重要ポイントです。
一方、法人は給与と通算するという発想はありませんが、事業で生じた欠損金を最大10年間繰り越せます。
長期保有で大規模修繕や空室が読みにくい物件ほど、この繰越期間の差が効いてきます。
「初年度の赤字を今の給与とぶつけたい」なら個人、「長い目で赤字を将来の黒字と相殺したい」なら法人——損失の使い方でも判断が変わります。
3. 売るとき・遺すときで景色が変わる
Q. 出口(売却)や相続まで考えると、どちらが有利ですか?
売却時の課税がまるで違います。
個人が5年超保有した不動産を売ると、長期譲渡所得として給与などとは切り離した分離課税となり、税率は20.315%(所得税15.315%+住民税5%)で済みます。
これは高所得の方ほど恩恵が大きい仕組みです。
対して法人は、売却益も他の事業損益と合算する総合課税。
含み損のある物件と同じ年にぶつければ節税になりますが、単独で大きな利益が出れば法人税がそのままかかります。
相続・承継の局面では法人に分があります。
個人所有の不動産は一棟まるごとで分けにくいのに対し、法人なら「株式」という細かい単位に変わるため、暦年贈与などで少しずつ次世代へ移しやすくなります。
「短期で売り抜けたい」のか「長く持って遺したい」のか——出口の設計図があるかどうかで、答えは反対に振れます。
4. 見落としがちな“入口と維持のコスト”
Q. 迷ったら、とりあえず法人にしておけば安心ですか?
そうとも言い切れません。
法人には入口と維持のコストがかかります。
設立には登録免許税などの初期費用が必要ですし、毎年の申告は個人より複雑で、税理士報酬も個人の確定申告より高くなりがちです。
さらに、たとえ赤字でも法人住民税の均等割(最低で年約7万円)は必ず発生します。
小規模なうちは、この固定費が節税メリットを食い潰してしまうこともあります。
逆に言えば、“これから買う”方には個人にはない利点もあります。
すでに個人で持つ物件を法人へ移す場合は譲渡税や登記費用といった移転コストがかかりますが、最初から法人名義で購入すれば、この移転コストは丸ごと不要です。
将来の規模拡大を見据えているなら、入口から法人という選択も十分に合理的です。
番外編:建物を法人に移すなら「無償返還の届出書」が必須。
個人の土地の上に法人の建物を建てる場合、法人が個人へ多額の権利金(借地権の対価)を支払わないと、税務署から「借地権という財産的価値を無償で受け取った(受贈益)」とみなされ、法人に多額の税金が課されるリスク(借地権の認定課税)があります。
これを合法的に避ける伝家の宝刀が、税務署へ提出する「土地の無償返還に関する届出書」です。
建物法人化スキームの実行にあたっては、この届出書の提出と適正な地代の設定が、切り離せないワンセットの実務になります。
むすびに
法人か個人かに、万人向けの正解はありません。
今の所得、赤字の見通し、出口の時期——この3つが重なる場所で、あなたにとっての最適解は決まります。
当事務所では、購入前のシミュレーションから設立後の運営まで、数字を一緒に見ながら「後悔しない入口」を設計しています。
私たちが大切にしているのは、経営理念「ともに未来を描く」こと。
物件を買う前の“たった一度の判断”が、10年後の手残りを大きく変えます。
迷ったら、契約前にぜひ一度ご相談ください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務・法務上の判断を保証するものではありません。
制度の適用可否や税額は個々の状況により異なりますので、実行にあたっては税理士等の専門家にご相談ください。
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この記事の監修
税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。


