土地と建物、いくらずつで買いましたか?——「按分」を固定資産税評価額だけで決めると損をする3つの場面

投稿日:2026年07月23日

土地と建物、いくらずつで買いましたか?——「按分」を固定資産税評価額だけで決めると損をする3つの場面

おはようございます。

朝4時起きの名古屋の税理士丸山です。

 

不動産を一括で売買したとき、契約書には「土地・建物総額◯◯円」としか書かれていない。
そんなとき多くの実務では、固定資産税評価額の比率で分けます。
手間もコストもかからず、税務署とも揉めにくい。
ただ、この「とりあえず固定資産税評価額」という選択が、減価償却費や消費税、譲渡税にまで効いていることは、あまり意識されていません。
今日は、価額の決め方が税額を左右する3つの場面を見ていきます。

目次

1.一括売買の按分——固定資産税評価額は「原則」ではない

2.簿価1円の建物を法人へ——価額と耐用年数はセットで決まる

3.取得費が不明な不動産——5%で申告した後では、もう戻れない

4.「決め方」を決めるのが、いちばんの節税

1.一括売買の按分——固定資産税評価額は「原則」ではない

まず押さえるべきは、「一括で取得・譲渡した土地建物は固定資産税評価額の比率で按分しなければならない」と定めた法令・通達は存在しない、という事実です。
消費税法施行令45条3項や消費税法基本通達10-1-5が求めるのは「合理的に区分すること」
固定資産税評価額はその一手段にすぎず、国税庁の質疑応答事例では鑑定評価額の比率による按分も示されています。

+αの視点:契約書に「消費税額」の記載があれば、建物価額は一発で逆算できる

実は、固定資産税評価額や鑑定評価を使う前に、真っ先に確認すべきことがあります。
それは売買契約書に「うち消費税等〇〇円」という記載がないかどうかです。
土地には消費税がかからず、建物にのみ消費税がかかるというルールを利用し、この記載された消費税額を当時の税率(10%など)で割り返すことで、建物の税込価格を正確に逆算することができます。
当事者間で合意された消費税額に基づくこの計算は非常に強力であり、固定資産税評価額での按分よりも優先して適用される客観的な区分方法となります。

 

この点を正面から示した裁判例が近年2つ出ています。
ひとつは買主側(東京地判令和2年9月1日)。
競売で約25億9千万円の貸ビルと敷地を一括取得した法人の事案で、裁判所は「固定資産税評価額による価額比を用いて按分する合理性を肯定する根拠は失われる」と判示しました。

 

もうひとつは売主側(東京地判令和4年6月7日)。
築38年の複合用途ビルを一括譲渡した個人について、国側が主張した固定資産税評価額による建物比率44.49%に対し、裁判所は鑑定評価額(建物に消費税相当額を加算)による24.08%を合理的としました。
建物比率が20ポイント下がれば、売主が納める消費税もそれだけ減る
逆に買主なら、建物比率が高いほど減価償却費と仕入税額控除が増える
按分比率は、売主と買主で利害が真っ向から対立する数字なのです。

 

ただし鑑定評価額の比率が通るには、①個別事情を考慮した適正な鑑定が行われ固定資産税評価額と異なる評価がされたこと②両者の比率に実質的な差異が生じていること、が求められます。
按分目的だからと積算価格だけの安価な鑑定を依頼するケースを見かけますが、上記2つの裁判所鑑定はいずれも収益価格も試算しています。

2.簿価1円の建物を法人へ——価額と耐用年数はセットで決まる

個人が所有する賃貸建物だけを同族会社に売却し、家賃収入を法人に移す。
建物法人化スキームです。
効果は大きいのですが、最初の関門が「建物をいくらで売るか」

 

実務では固定資産税評価額を使いがちです。
しかし家屋の固定資産税評価額には、一定の経過年数を超えると最終残価率20%が残り続ける仕組みがあります。
帳簿価額は1円まで償却が進み収益性も落ちた築古建物なのに、固定資産税評価額だけが20%で下げ止まる。
この20%は建物の実際の収益力を反映したものではありません。
適正な鑑定評価額が固定資産税評価額を下回るなら、その価額での売買を検討する余地があります

 

見落とされがちなのが法人側の耐用年数です。
中古資産の耐用年数は減価償却資産の耐用年数等に関する省令3条により、原則は使用可能期間を見積もる「見積法」。
簡便法(法定耐用年数の全部経過なら法定耐用年数×20%等)は「使用可能期間の見積りが困難であるとき」に限られます
ところが鑑定評価書には、原価法の減価修正の過程で「経済的残存耐用年数」が記載されている。
これは税務でいう使用可能期間の見積りに相当します。
つまり鑑定評価額で売買価額を決めた時点で、見積りは済んでいる。
「見積りが困難だから簡便法で」と処理すれば否認リスクが残ります

3.取得費が不明な不動産——5%で申告した後では、もう戻れない

先代が昭和に買った土地。
売買契約書も領収書も残っていない。
この場合、譲渡収入の5%を取得費とみなす概算取得費(措法31条の4、措通31の4-1)に頼らざるを得ない——と考える方が多いはずです。
しかし、ここには順序の問題があります。

 

概算取得費5%で申告した後に実額を証明する資料が出てきた場合、更正の請求は認められます。
概算取得費は「実額が証明されていない場合に適用するもの」だからです。
一方、市街地価格指数や過去の公示価格、鑑定評価で取得当時の時価を推計し、それを取得費として更正の請求をする方法は認められていません。
推計は「取得当時の時価」を推し量るものであって、「実際に支払った金額」を証明するものではないからです(国税不服審判所平成23年9月13日裁決ほか)。
市街地価格指数による方法は平成12年11月16日の公表裁決で認められて広まりましたが、その後の裁決では、同指数が全国的・マクロ的な平均値にすぎないことなどを理由に次々と否認されています。

 

ではどうするか。
答えは「当初申告で勝負する」です。
更正の請求では納税者が立証責任を負いますが、当初申告なら税務署側が実額の有無を調査して否認を立証しなければならない。
この非対称性が分かれ道です。
そして申告の前に、間接証拠の収集を尽くすこと。
登記簿の抵当権設定額から借入額を推定する、取得当時の同一マンション内の成約価格情報を取り寄せる——「資料がないから5%で」と結論を出す前に、まだ調べていない証拠がないかを疑ってください

4.「決め方」を決めるのが、いちばんの節税

3つの場面に共通するのは、税額を決めているのが税率ではなく「価額の決め方」だということです。
固定資産税評価額は便利ですが、行政が課税のために付けた価格であって、その不動産の実力を測った価格ではありません

+αの視点:按分比率は、購入時に払った「仲介手数料」の運命も決める

土地と建物の按分比率の決定は、物件本体の減価償却費だけでなく、購入時に支払った「仲介手数料」や「取得報酬」などの付随費用の運命も決定づけます。
これらの諸経費は一括でその年の経費にはできず、物件の按分比率に従って土地と建物に振り分けて取得価額に含めるルールになっています。
つまり、適正な鑑定等によって建物の比率が高くなれば、それに連動して建物部分に振り分けられる仲介手数料の額も大きくなり、結果として毎年の減価償却費として経費化(回収)できる金額がさらに増えるという「二重の節税効果」を生むのです。

 

もちろん鑑定には報酬がかかり、取引金額が小さければ費用倒れにもなります。
売買金額が大きい、建物比率の差が大きい、築古で固定資産税評価額が実態と乖離している——そうしたサインがあるときに専門家を交えて検討する。
それだけで結果は変わります。

 

当事務所では、不動産の売買・法人化・相続を単発の申告としてではなく、取得から保有、次世代への承継までひとつながりの流れとして捉え、どの局面でどの評価方法を選ぶべきかをお客様と一緒に設計しています
契約書に判を押す前、決算を締める前、申告書を出す前——早い段階でご相談いただくほど、打てる手は増えます
私たちの経営理念は「ともに未来を描く」。
数字の後始末ではなく、未来の選択肢を増やす仕事をこれからも続けてまいります。
どうぞお気軽にお声がけください。

【免責事項】本記事は、執筆時点の法令・通達等に基づく一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する税務上・法務上の助言を行うものではありません。実際の税務判断にあたっては、具体的な事実関係に基づき、税理士等の専門家にご相談ください。本記事の情報を利用したことにより生じたいかなる損害についても、当事務所は責任を負いかねます。

 

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この記事の監修

丸山会計事務所 税理士 代表 丸山和秀

税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)

税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。

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