相続した実家や土地、「売れば譲渡税がかかるだけ」と思っていませんか?——手取りが変わる3つの分かれ道
投稿日:2026年07月21日

朝4時起きの名古屋の税理士丸山です。
親から受け継いだ実家や土地を売ろうとするとき、「相続税も払ったのに、また売れば譲渡所得税がかかるのか」とため息をつく方は少なくありません。
ですが、相続した不動産の譲渡には、“売る前”と“売り方”しだいで税額が大きく変わる仕組みがいくつも用意されています。
使えるものを使わずに申告してしまうと、本来は納めなくてよい税金まで払うことになりかねません。
今日は、相続した不動産を売るときに手取りを左右する3つの分かれ道
——「売却の期限」「取得費の証明」「実家(空き家)の特別控除」——
を順に整理します。
目次
1.売るなら期限内に——相続税を払った人だけの「取得費加算の特例」
2.取得費が分からない土地の落とし穴——「概算取得費5%」で税負担が膨らむ
3.実家(空き家)を売るなら——相続空き家の3,000万円特別控除
4.3つをつなぐカギは「順番」と「時期」
1.売るなら期限内に——相続税を払った人だけの「取得費加算の特例」
相続した不動産を売って譲渡所得を計算するとき、まず思い出していただきたいのが「相続税の取得費加算の特例」です。
これは、相続や遺贈で取得した財産を、相続税の申告期限の翌日から3年以内(=相続開始の日からおよそ3年10か月以内)に売った場合に、その人が納めた相続税のうち、売った財産に対応する一定額を「取得費」に上乗せできる制度です。
取得費が増えれば譲渡益が圧縮され、その分だけ所得税・住民税が軽くなります。
ポイントは期限です。
3年10か月を1日でも過ぎると、この特例はいっさい使えません。
「手続きが落ち着いてからゆっくり売ろう」と構えているうちに期限切れになる例は珍しくないのです。
適用には、確定申告書に特例を受ける旨を記載し、計算明細書を添付する必要があります。
相続税を納めた不動産を売る予定があるなら、まず売却の“締め切り”を確認することが第一歩です。
2.取得費が分からない土地の落とし穴——「概算取得費5%」で税負担が膨らむ
次に、意外と多くの方がつまずくのが「取得費が分からない」問題です。
譲渡益は、売った金額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算します。
ところが先祖代々の土地や、購入時期が古くて契約書が見当たらない土地は、取得費が不明になりがちです。
この場合、税法は「売った金額の5%」を取得費とみなす概算取得費を認めています。
一見便利ですが、ここに落とし穴があります。
たとえば3,000万円で売れた土地の取得費が不明だと、取得費はわずか150万円。
差額の大半が譲渡益として課税されてしまうのです。
実際の購入額がそれより高いなら、当然払いすぎになります。
売買契約書、当時の通帳の記録、購入時のパンフレットや領収書など、取得費を裏づける資料が一つでも残っていないか、売る前に必ず探してみてください。
資料が残っているかどうかだけで、納税額が数百万円変わることもあります。
+αの視点:契約書がない!それでも諦めない「間接証拠」の力
売買契約書や領収書がどうしても見つからない場合でも、すぐに5%の概算取得費を適用して諦める必要はありません。
当時の通帳の出金履歴はもちろんのこと、購入時に組んだ住宅ローンの「金銭消費貸借契約書」や、不動産登記簿に記載されている「抵当権の設定金額(借入額)」などを手がかりとして間接証拠を積み上げることで、税務署に実額に近い取得費として認めてもらえる可能性があります。
資料探しの執念が、そのまま節税に直結するのです。
3.実家(空き家)を売るなら——相続空き家の3,000万円特別控除
3つ目は、親の実家をそのまま売るケースで効いてくる「相続した空き家の3,000万円特別控除」です。
相続の直前まで被相続人がひとりで住んでいた家屋とその敷地を相続し、一定の要件を満たして売ると、譲渡所得から最大3,000万円を差し引けます。
相続の直前まで被相続人がひとりで住んでいた」という要件を聞いて、「親は亡くなる数年前から老人ホームに入っていたから使えない」と諦めてしまう方がいらっしゃいますが、ご安心ください。
親が要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所していた場合でも、その家屋を貸し出さずに実家の荷物の保管場所として維持していたなど、一定の要件を満たせば「特例の対象」として認められる救済措置が設けられています。
要件はやや細かく、対象になるのは昭和56年5月31日以前に建てられた家屋(マンションなどの区分所有建物は対象外)で、家屋を取り壊して更地で売るか、家屋と一緒に売って翌年2月15日までに買主側で取り壊すこと、そして売った金額が1億円以下であることなどが求められます。
期限は原則として、相続開始のあった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで。
なお、その家屋等を取得した相続人が3人以上いる場合は、控除額が2,000万円に縮小される点にも注意が必要です。
要件は多いものの、当てはまれば税負担を大きく下げられる、実家じまいの強い味方です。
4.3つをつなぐカギは「順番」と「時期」
ここまでの3つに共通するのは、「順番」と「時期」で結論が変わるという点です。
取得費加算は相続税の申告期限からの年数で、空き家控除は取り壊しと譲渡契約のどちらを先にするか、そして引渡し・契約のどちらの日を譲渡の時期とするかで、適用の可否が分かれます。
売り急いで先に契約してしまい、あとから特例が使えないと判明する——そんな取り返しのつかない事態は、売る前の設計で防げます。
相続した不動産の売却は、「いつ・どの順番で・いくらで」動くかを決める前に、税務の視点を一度通しておくことが何より大切です。
+αの視点:最大の分かれ道「2つの特例は併用できない」
「取得費加算の特例」と「空き家の3,000万円特別控除」ですが、実はこの2つの特例は、同じ物件の売却において同時に使うこと(併用)はできません。
つまり、売却前に「どちらの特例を選べば、最終的な税金が安くなり手残りが多くなるか」を正確にシミュレーションし、有利な方を選択する必要があります。
納めた相続税額が非常に大きい場合は取得費加算が有利になることもあり、直感だけで選ぶと大きな損をしてしまう、まさに実務における最大の分かれ道です。
おわりに
当事務所では、相続で受け継いだ不動産の売却について、特例の適用可否のシミュレーションから、売却の時期・順番の設計、確定申告までを一貫してお手伝いしています。
「売ってから相談」ではなく「売る前に相談」いただくことで、防げる払いすぎは確実にあります。
私たちは経営理念「ともに未来を描く」のもと、受け継いだ資産を次の一歩へつなぐご判断に寄り添ってまいります。
気になる不動産がありましたら、動き出す前にぜひ一度お声がけください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断を保証するものではありません。実際のご判断にあたっては、最新の法令等をご確認のうえ、税理士など専門家にご相談ください。
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この記事の監修
税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。


