親族間の不動産売買で要注意!『税務上の時価』とみなし贈与の基礎知識
投稿日:2026年05月09日

「親子の間だから、相続税評価額で土地を売買しても問題ないはず」
——そのようにお考えではないでしょうか。
しかし、税務の世界には「税務上の時価」という独特の考え方があり、うっかり低い価額で売買すると、思わぬ贈与税や所得税の課税を受けてしまうことがあります。
本記事では、過去の判決や裁決を手がかりに、不動産オーナーや相続を控えた方が押さえておきたい「時価」と「みなし贈与」のポイントをやさしく解説します。
目次
- 税務上の「時価」とは何か
- 「著しく低い価額」で売買するとどうなる?
- 相続税評価額で売買しても大丈夫?
- 個人と法人との取引で変わる課税関係
1. 税務上の「時価」とは何か
不動産の価格と聞くと、固定資産税評価額、相続税評価額(路線価)、公示価格、実勢価格など、さまざまな種類を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
これらは目的ごとに使い分けられており、たとえば相続税評価額は相続税や贈与税を計算するための基準として用いられます。
ところが、親族間などで土地や建物を「売買」する際に税務署が注目するのは、相続税評価額ではなく「通常の取引価額」です。
これは一般的に「客観的交換価値」とも呼ばれ、不特定多数の当事者が自由な意思で取引した場合に成立するであろう価額を指します。
つまり、第三者との市場取引で成立するような価額がベースになるということです。
この点を押さえずに、「路線価=税金の世界の時価」だと思い込んで売買価額を決めてしまうと、後から税務調査で否認されるリスクがあります。
実際に審判所や裁判所も、「路線価は相続税評価額の計算の基礎にすぎず、取引価額そのものではない」と繰り返し判断しています。
不動産を身内に譲る場面では、まずこの『税務上の時価=通常の取引価額』という前提を理解しておくことが大切です。
2. 「著しく低い価額」で売買するとどうなる?
親族間や同族会社との取引で特に注意したいのが、相続税法第7条の「みなし贈与」の規定です。
この条文は、「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」には、時価と売買価額の差額を贈与により取得したものとみなす、というものです。
ポイントは3つあります。
1つ目は、贈与の意思がなくても適用されること。当事者間で「これは贈与だ」と合意していなくても、客観的に著しく低い価額で売買された事実があれば、贈与税の対象になり得ます。
2つ目は、第三者間の取引であっても適用される可能性があること。実際に、平成17年のさいたま地裁判決では、第三者との取引にもみなし贈与の規定が適用された例があります。
3つ目は、似たような規定が所得税や法人税にも存在することです。
たとえば、時価1億円の土地を親が子に3,000万円で売ったとします。
差額の7,000万円について、子に贈与税が課税される可能性があります。
売買契約書を交わしていても、価額が著しく低ければ「実質的には贈与だ」と判断されてしまうのです。
3. 相続税評価額で売買しても大丈夫?
では、相続税評価額で売買すれば安全なのでしょうか。
この点について参考になるのが、平成19年8月23日の東京地裁判決です。この判決では、親族間で相続税評価額と同水準、またはそれ以上の価額で土地を譲渡した場合には、原則として「著しく低い価額」による譲渡には当たらない、という判断が示されました。
裁判所は、「相続税評価額は時価のおおむね8割程度で計算されることを前提にしており、これを下回らない価額であれば、通常は著しく低いとはいえない」という考え方を採用しています。
つまり、相続税評価額での売買は、一律に否認されるわけではありません。
ただし、例外もあります。
判決では「その土地の相続税評価額が時価の80%より低くなっており、それが明らかであると認められる場合」には、相続税評価額での売買でも「著しく低い価額」になり得る、とされています。
たとえば地価が急騰しているエリアや、路線価と実勢価格が大きく乖離している場所では、注意が必要です。
売買価額を決める前に、近隣の取引事例や不動産鑑定評価を確認しておくと安心でしょう。
4. 個人と法人との取引で変わる課税関係
同じ「低額での不動産売買」でも、当事者が個人か法人かによって課税関係が大きく変わることもポイントです。
個人から法人に時価の2分の1未満で不動産を譲渡した場合、所得税法第59条により、時価で譲渡したものとみなして譲渡所得税が課税されるだけでなく、買受人である法人側にも、時価と買値の差額に対して「受贈益」として法人税が課税されます(法人税法22条)。
実際にキャッシュとして受け取った金額は少なくても、帳簿上は時価で売ったことにされてしまうのです。令和4年の東京高裁判決でも、この規定の適用が争われた事例があります。
なお、譲渡価額が時価の2分の1以上であっても、同族会社への譲渡の場合は『行為計算否認』の規定により時価課税されるリスクがあること、また法人側の受贈益課税は時価の2分の1未満か否かに関わらず生じることには十分な注意が必要です。
逆に法人から個人への低額譲渡では、法人側に寄附金や賞与として損金算入制限がかかり、受け取った個人側には一時所得や給与所得として課税されるケースがあります。
さらに、同族会社の株式を低い価額で移転させた場合には、株主間での「株式価値の移転」として贈与税が課税される一方、会社側では受贈益課税という二重の論点が発生することもあります。法人が絡む取引では、個人間よりも一段複雑な検討が必要だとお考えください。
まとめ
不動産の親族間売買では、「税務上の時価=通常の取引価額(客観的交換価値)」という考え方がすべての出発点になります。
相続税評価額での売買は原則として認められる一方、時価の80%を下回るような状況では「著しく低い価額」と判断されるリスクがあります。
また、個人と法人が絡む場合は、所得税法第59条のみなし譲渡や、寄附金・受贈益課税など、さらに複雑な論点が生じます。親子や同族会社との間で不動産を動かす際には、売買価額を決める前に近隣の取引事例や鑑定評価を確認し、必要に応じて税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務相談に応じるものではありません。実際の取引に際しては、税理士などの専門家にご相談ください。また、本記事は執筆時点の法令・判例に基づいており、最新の改正等が反映されていない場合があります。
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この記事の監修
税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。


