アパートを売ったら、2年後に消費税の請求書が届く?——法人大家が売却前に押さえたい消費税3つの落とし穴
投稿日:2026年07月30日

おはようございます。
朝4時起きの名古屋の税理士丸山です。
「うちは住宅の家賃だけだから、消費税は関係ない」。
法人で賃貸物件をお持ちのオーナーから、よくそう伺います。
たしかに居住用の家賃は非課税で、多くの賃貸法人は設立以来ずっと免税事業者のままです。
ところが、物件を一棟売った瞬間に話が変わります。
建物の売却は、消費税の課税取引だからです。
しかも負担が表に出てくるのは、売った期ではなく2年後ということも珍しくありません。
今日は、売却前に押さえておきたい3つの分岐を整理します。
目次
1. 「家賃は非課税」でも、建物を売れば課税取引
2. 分かれ道① 売る期が免税か課税かで、数百万円が動く
3. 分かれ道② 売った2年後に立ち上がる納税義務と、買い増しの「3年縛り」
4. 分かれ道③ 居住用建物は買い手が還付を受けられない——3年以内なら調整の余地
1. 「家賃は非課税」でも、建物を売れば課税取引
居住用の家賃は消費税が非課税です。
土地の売却も非課税。
だからこそ賃貸法人の多くは、設立から一度も消費税の申告をしないまま来ています。
ただ、非課税なのは「土地」と「居住用の家賃」であって、「建物」ではありません。
建物の売却代金には消費税がかかります。
売買契約書で建物価格を5,500万円と定めれば、そのうち500万円は消費税です。
ここで効いてくるのが、その期にご自身の法人が課税事業者か免税事業者か、という一点だけです。
免税事業者であれば、同じ5,500万円で売っても500万円を納める義務はありません。
課税事業者なら納めます。
同じ物件、同じ価格、それでも手残りが500万円変わる。
ここが出発点です。
2. 分かれ道① 売る期が免税か課税かで、数百万円が動く
では、どういうときに課税事業者になるのか。
原則は「基準期間(前々事業年度)の課税売上高が1,000万円を超えたかどうか」です。
賃貸法人にとって現実的なきっかけは、主に三つ。
資本金1,000万円以上で法人を設立した場合、過去に不動産を売って建物部分が1,000万円を超えていた場合、そして特定期間(前事業年度の開始日から6か月)の課税売上高と給与等支払額がどちらも1,000万円を超えた場合です。
逆にいえば、たまたま課税事業者になっている期に売却をぶつけるのが、いちばん避けたいパターンです。
二期前に一棟売っていた——ただそれだけの理由で、今期の売却に建物分の消費税がまるごと乗ってきます。
決算期をまたぐ数か月の差で税額が動くわけですから、「いつ売るか」は「いくらで売るか」と同じ重みを持つ判断だとお考えください。
3. 分かれ道② 売った2年後に立ち上がる納税義務と、買い増しの「3年縛り」
売却の消費税は、売った期だけで終わる話ではありません。
建物部分が1,000万円を超える売却をすると、その事業年度が基準期間となる2期後に、課税事業者になります。
第1期で売れば、第3期が課税事業者。
第3期に駐車場収入や店舗家賃といった課税売上があれば、消費税の申告と納税が必要です。
税務署への「消費税課税事業者届出書」の提出も要ります。
売却から2年、記憶が薄れた頃に義務だけが立ち上がる。
ここが見落としの温床です。
さらに注意したいのが、その課税事業者の期に物件を買い増したときです。
原則課税の期に税抜1,000万円以上の建物等(高額特定資産)を取得すると、取得した課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間まで、免税事業者に戻れず、簡易課税も選べません。
売って課税事業者になった期に、勢いで次の一棟を買う。
よくある動きですが、そこで3年分の申告義務が固定されます。
4. 分かれ道③ 居住用建物は買い手が還付を受けられない——3年以内なら調整の余地
最後は、価格交渉の場面で効いてくる論点です。
令和2年度の税制改正により、税抜1,000万円以上の居住用賃貸建物を取得したときの消費税は、原則として仕入税額控除ができなくなりました(消費税法30条10項)。
かつての金地金を使った還付スキームを封じるための改正で、令和2年10月1日以後に取得した建物が対象です。
結果として、こういう歪みが生じます。
売主が課税事業者なら建物分の消費税を納める。
しかし買主はその消費税を控除も還付もできない。
買主が事業者であれば、当然その分を織り込んで建物価格を引きにきます。
売主側の「建物価格をいくらに置くか」という交渉が、以前より重い意味を持つようになりました。
ただし、制度として用意された調整があります。
取得した課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間(第三年度の課税期間)の末日までに、その建物を課税賃貸用に供したり、他へ譲渡したりした場合には、控除できなかった消費税の一部を、その期の仕入税額控除に加算できます(消費税法35条の2)。
裏を返せば、4年目以降の売却ではこの調整は使えません。
買う側に回るときも売る側に回るときも、この3年という物差しは頭の隅に置いておく価値があります。
おわりに
当事務所では、物件の売却をご相談いただいたとき、価格の話より先に「その期は免税か課税か」「売った2年後はどうなるか」を確認します。
売買条件の交渉に入る前に決めておくべきことが、実はいくつもあるからです。
売却は、腹が決まってから契約までが早い。
だからこそ、動き出す前の30分が数百万円を左右します。
名古屋で不動産をお持ちの法人オーナーの皆さま、売却をお考えでしたら、契約書に判を押す前にぜひお声がけください。
当事務所は経営理念に「ともに未来を描く」を掲げています。
目の前の一棟の損得だけでなく、その先にある資産の姿まで、ご一緒に描かせていただきます。
【免責事項】本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断または法律上の助言を行うものではありません。
税制は改正されることがあり、また個別の事実関係により取扱いが異なる場合があります。
実際の適用にあたっては、必ず顧問税理士等の専門家にご相談ください。
本記事の情報に基づいて行われた判断・行動により生じた損害について、当事務所は一切の責任を負いかねます。
▼経営に役立つ情報をもっと知りたい方は
→ メルマガ登録はこちら
→ 丸山会計へのお問い合わせはこちら
この記事の監修
税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。


