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賃上げ促進税制の税額控除は税額20%の上限あり | 税額控除を多くとるには

投稿日:2022年12月23日

政府は企業に賃上げを促進しており、給与を上昇させた法人は法人税の税額控除を受けられる制度が以前より施行されています。
ただ、制度内容が頻繁に変更され、理解が追い付かない面もあるのではないでしょうか。

令和4年税制改正では税額控除の率が増加して「賃上げ促進税制」となりました。以前より税務上さらに優遇された制度となったともいえますが、賃上げに関する税額控除には「法人税の20%」という上限があります。

このブログでは賃上げ促進税制の税額控除には上限があることを中心に、メリットを享受しきれないケースを説明します。
また、法人が税額控除をより多くとるための方法を、中小企業経営強化税制を例にあげて紹介します。

1.賃上げ促進税制の税額控除とは

令和4年税制改正で、賃上げに関する税額控除の制度が改正され「賃上げ促進税制」となりました。令和4年4月1日から開始する事業年度から適用されます。
令和4年4月1日以前については、中小企業向けには「所得拡大税制」、大企業も適用できる制度としては「人材確保等促進税制」が施行されているところです。

ここでは令和4年税制改正で決まった「賃上げ促進税制」の概要を簡潔に説明します。そして落とし穴として、賃上げ促進税制を最大限活用できない状況を紹介します。

賃上げ促進税制の概要

賃上げ促進税制は、中小企業向けと大企業向けに分かれています。

  1. 中小企業向け(個人事業主含む)
  2. 適用対象:中小企業者等(資本金1億円以下の法人等)
  3. 適用期間:令和4年4月1日から令和6年3月31日までの間に開始する各事業年度
  4. 適用要件:要件に合致すれば、法人税(個人事業主は所得税)の税額控除を受けられます。

通常要件: 「雇用者全体の給与等支給額」が前年度と比較して1.5%以上増加→雇用者全体の給与等支給増加額の15%の税額控除

上乗せ要件①: 「雇用者全体の給与等支給額」が前年度と比較して2.5%以上増加→税額控除率を15%上乗せ

上乗せ要件②:教育訓練費の額が前年度と比較して10%以上増加→税額控除率を10%上乗せ

このため、税額控除の率が最大40%となります。

制度の詳細に関しては中小企業庁ホームページ、中小企業向け「賃上げ促進税制」上のガイドブック等も参照ください。

  • 大企業向け
  • 適用対象:青色申告書を提出する全企業。中小企業等でも適用が可能です。
  • 適用期間:令和4年4月1日から令和6年3月31日までの間に開始する各事業年度
  • 適用要件:要件に合致すれば、法人税(個人事業主は所得税)の税額控除を受けられます。

通常要件: 「継続雇用者の給与等支給額」が前年度と比較して3%以上増加→雇用者全体の給与等支給増加額の15%の税額控除

上乗せ要件①: 「継続雇用者の給与等支給額」が前年度と比較して4%以上増加→税額控除率を10%上乗せ

上乗せ要件②:教育訓練費の額が前年度と比較して20%以上増加→税額控除率を5%上乗せ

税額控除の率は最大30%になります。また、適用要件の率や、比較対象となる給与が継続雇用者となる点等が中小企業向けとは異なります。

制度の詳細に関しては経済産業書ホームページ上のパンフレット等も参照ください。

賃上げ促進税制の限界

改正された賃上げ促進税制は、さらに税額控除率が高くなり大きな節税につながるように考えられますが、以下の注意点があります。

〇税額控除の上限が「法人税額または所得税額の20%」である

法人税が1,000万円だとすると、税額控除の上限は200万円です。40%の税額控除を取れた場合、給与の増加額は年間で500万円あれば上限まで控除できることになります。
つまりそれ以上給与が増加していても、税額控除の金額は変わりません。

一般的に、所得が出ている会社ほど給与の増加額も高くなる傾向にあり、年間の給与増加額が法人税額の20%「以上」になるケースが多くあります。
制度として高い控除率があったとしても、控除しきれないことになります。

〇翌期に繰り越しができない

税額控除しきれない部分があったとしても、翌期に繰り越しはできません。また、もし税額が出ていない場合、税額控除は0円ですが、その場合も控除可能部分を翌期に繰り越しはできません。

賃上げ促進税制が適用できる要件は、中小企業だと全体の給与金額の1.5%増加した場合から、とハードルはそこまで高くはないといえます。
しかし、所得が高い場合でも控除の上限があり、所得がない場合には控除の金額はゼロになります。

2.賃上げ促進税制は中小企業経営強化税制と併用が可能

中小企業が法人税の税額控除が受けられる制度には、賃上げ促進税制のほかにも複数あります。例えば中小企業経営強化税制は、賃上げ促進税制と併用が可能です。
どちらも法人税額の20%以上が上限ですが、それぞれ20%まで控除できます。
このため税額が多額に発生しており、税額控除を少しでも多くとりたい場合には、併用できる制度はすべて検討していきましょう。

ここでは中小企業経営強化税制を例にあげ、制度の概要と、税額控除と即時償却の選択をどのように考えるかを紹介します。

中小企業経営強化税制の概要

中小企業経営強化税制は、中小企業の経営力強化や生産性向上を目的として、要件を満たす設備投資をおこなった場合に、税額控除または即時償却ができる税制優遇措置です。

中小企業経営強化税制の要件に関しては、当事務所のブログ「諦めるのはまだ早い!工場内設備には経営力向上計画が使えます」でも概要を説明していますので、参考にしてください。

ここでは税制優遇措置の内容のみ紹介します。要件を満たす場合は、以下のどちらかの優遇措置を選択できます。

  • 即時償却(設備の購入金額を一時に損金にできる)
  • 税額控除(設備の購入金額の最大10%を税額控除できる)

もし税額控除を選択して、今期の税額が引ききれなかった分がある場合には、翌期まで繰り越しができます。税額が0の場合でも、控除できなかった分はすべて繰り越し可能です。この点、賃上げ税制とは異なるため注意してください。当期欠損であっても、来期に税額控除を適用できると見込んでいる場合には申告をしておきましょう。

税額控除と即時償却の選択

中小企業経営強化税制は、賃上げ税制と異なり、税額控除以外にも即時償却という選択肢があります。
税額控除は税金の金額が少なくなりますが、即時償却は損金の計上時期を早めることで税額の発生時期が遅くなるだけで、トータルの税額は減りません。

ただし、税額控除は所得があり税額が発生していないと控除できないため、場合によっては全額を控除しきれない可能性があります。
どちらを選択するかは、所得の状況と、今後の所得の見積もりの予測などを勘案して決めるところであり、判断がともなうところになります。

もし即時償却を適用した場合は、設備の購入金額をすべて費用とするため、決算書上の利益が減少します。このため、決算書上での経営成績を重視する銀行の評価が下がる可能性があります。

この場合、通常の減価償却分よりも多く償却した部分に関しては、特別損失として計上することで、営業利益を下げることを回避できます。
特別損失に計上しておけば、特殊要因であることが明確になるため、銀行にもアピールができます。このように費用の計上科目を検討することも大切です。

税額控除を選択すれば、通常の減価償却部分のみが費用計上されるため、即時償却のような問題は発生しません。
税額控除と即時償却を選択する際には、決算書の数字が変わることも念頭におきましょう。

3.まとめ

以上、賃上げ促進税制の概要とその限度額を中心に、税額控除には法人税の20%が上限になること、所得の大きい会社では控除が上限に達してしまい、引ききれない部分が出てくるケースが多いことを紹介しました。

賃上げ促進税制は控除率が高い面が強調され、節税効果が高いように思いますが、実際は上限で思ったよりも控除ができない結果であることも多くあります。
中小企業経営強化税制など、併用できる制度も合わせて検討していきましょう。

賃上げ促進税制を始め、税額控除の制度を適用するにあたっての判断など、税務や会計でお困りの際は、丸山会計事務所までお気軽にご相談ください。

この記事の監修

丸山会計事務所 税理士 代表 丸山和秀

税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀

税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。

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