【役員代表者貸付】3つの原因と問題点と解消方法
投稿日:2022年11月09日
今回は、「役員代表者貸付」について、発生する3つの原因と、その問題点(デメリット)、そして解消方法について解説していきます。
1.役員代表者貸付が発生する3つの原因
企業の決算書に役員代表者貸付が発生する主な原因は次の3つです。
- 役員に資金が不足して会社から借り入れた
- 決算の際に調整に使用した
- 現金出納帳などが整備されておらず現金の行き先が分からない
それぞれの原因について詳しく解説していきましょう。
①役員に資金が不足して会社から借り入れた
役員個人が個人的な支出を賄うためのお金が不足して、会社から借り入れるケースです。
中小企業では、役員個人の収支と会社の収支が混同してしまうこともあり、役員の個人的な支出や、代表者個人の納税を会社が支払い、結果として役員者貸付が発生してしまうこともあります。
②決算の際に調整に使用した
会社の決算の数字をよく見せるために調整として「役員貸付金」という勘定科目を使用するケースです。
本来は会社の支出であった費用を意図的に貸付金へ振り替えることによって費用を圧縮して利益を大きくすることができます。
例えば、100万円の仕入れを現金で行った場合を考えてみましょう。
本来の正しい仕訳は以下のようになります。
借方 | 貸方 |
仕入れ 100万円←費用の発生 | 現預金 100万円←資産の減少 |
これを、費用を圧縮するために『100万円を役員に貸し付けた』という処理をすると次のようになります。
借方 | 貸方 |
貸付金 100万円←資産の増加 | 現預金 100万円←資産の減少 |
費用は発生せず、現預金という資産を役員貸付金という資産へ振り替えただけになります。
これによって決算書上の利益を大きくすることが可能です。
もちろん、このような処理は粉飾決算です。
しかし、中小企業の場合には止むを得ない事情によって、決算時の調整のために役員貸付金を使用しているケースも少なくないと思われます。
③現金出納帳などが整備されておらず現金の行き先が分からない
中小零細企業の場合、会社で現金出納帳などを記載しておらず、会社のお金と個人のお金が一緒になっている場合があります。
例として会社の通帳から100万円引き出したのに、「手元資金が30万円しか残っておらずそれに対応する領収書が50万円分しかない」などの場合は、20万円が使途不明金になります。
このようなことは中小企業では決して珍しくありません。この場合、不明の20万円について役員代表者貸付で処理される場合があります。
大概の場合、領収書の出ないお金や、少し使ったものが積み重なって、そうなる場合が多いのですが、それが積もりに積もると大変大きな金額となります。
そのため現金に取扱いについては、現金出納帳を完備し、会社の現金手持ち残高と現金出納帳の残高は常に合わせることをおすすめします。
2.役員代表者貸付にある4つの問題点(デメリット)
「役員代表者貸付金」という勘定科目が貸借対照表に計上されていることは、企業にとって次の4つのデメリットとなります。
- 経営者の個人的信用を疑われる
- 会社の経理能力の欠如を疑われる
- 借入金の流用を疑われる
- 利息が発生し法人税の負担が増える
役員代表者貸付金がなぜ問題になるのか、詳しく解説していきます。
①経営者の個人的信用を疑われる
まずは経営者個人の信用を疑われてしまうという点です。
会社から高額な借入をしているのであれば、その経営者は「お金の使い方が荒い」「会社を私的に利用している」などとネガティブに判断される可能性があります。
②会社の経理能力の欠如を疑われる
役員代表者貸付金が長期間計上されているということは、「不明になったお金を役員貸付金として計上している可能性がある」と疑われることもあります。
また、本当に役員や代表者にお金を貸し付けている場合も「会社と個人の支出が曖昧な会社」と判断される可能性が高いでしょう。
つまり「役員代表者貸付金」という勘定科目があるというだけで、銀行などからプラスの評価では無く、どちらかと言うとネガティブに評価されるリスクが高くなります。
③借入金の流用を疑われる
金融機関からは借入金の私的流用を疑われる可能性もあります。
会社が借りたお金は会社の支出や投資にしか利用できません。
しかし、例えば融資を受けた年の決算書に「役員代表者貸付金」という勘定科目が急に登場した場合、「銀行から見たら、融資金を役員が流用した」と判断されてもおかしくありません。
そして役員貸付金については毎年の残高の推移がとても重要になります。
銀行としては自社が融資した後に、その貸付金が増加することを、とても嫌います。
そのため融資を受けた後は、少しでもいいので貸付金を返済して欲しいと、銀行から問い合わせがあります。
場合によっては次回以降の審査に悪影響を及ぼす可能性があるため、このあたりも銀行と事前に打ち合わせを行い、融資後の決算書がどのようになると良いのか相談した方がよいでしょう。
④利息が発生し法人税の負担が増える
役員に対して法人がお金を貸し付ける際には、法人側では適正な利息を計上しなければなりません。
そして会社で計上された利息には税金が課税されます。
つまり役員代表者貸付金があることによって、支払うべき税負担が増えてしまうという点にも注意しなければなりませ。
3.役員代表者貸付をきれいにする3つの方法
貸借対照表から役員代表者貸付金をきれいにするには次の3つの方法があります。
- 役員から直接回収する
- 資産を法人に売却する
- 保険積立金へ切り替える
役員代表者貸付金をきれいにする3つの方法について詳しく解説していきます。
①役員から直接回収する
1つ目の方法が、会社がお金を貸し付けた役員から直接お金を回収する方法です。
個人の資金から回収するというのが最もオーソドックスな方法ですが、次のような方法も考えられます。
- 役員報酬から給料天引きする
- 退職時に退職金から回収する
役員報酬から回収する場合、役員の手取金額を減らしたくない場合は、役員報酬の金額を上げる必要があります。その場合、役員報酬の増加に伴い、それにかかる社会保険料、税額なども上がってしまうので、会社に負担がないように返済金額を決める必要がある点に注意しましょう。上がります。
②資産を法人に売却する
役員個人の資産を会社へ売却し、その売却代金と役員代表者貸付金を相殺する方法もあります。
ただし、この方法で回収する場合には資産の売却額をいくらにするのかや、売却に伴い発生する税金についても考慮しなければなりません。
③保険積立金へ切り替える
数年前からよく提案を受ける方法として、会社が保険へ加入することで役員代表者貸付金を保険積立金へと切り替えることで役員代表者貸付金を精算するという方法もあります。
この方法は次のような仕組みで行います。
- 役員個人がファイナンス会社から資金を借りて、法人へ返済
- 会社はファイナンス会社が持つ、グループ会社の保険会社の保険に加入して保険積立金を計上
- 役員個人は毎月の給料からファイナンス会社へ資金の返済を行う
- ファイナンス会社が保険会社へ保険料を支払う
ファイナンス会社から役員個人が融資を受けて、その資金を会社に返済を行い、系列の保険会社の保険に加入することにより、会社の決算書上は役員貸付金から、保険積立金という勘定科目に変更されます。
債務者である役員・代表者は債務をファイナンス会社へ支払っていくことによって債務を返済します。
これによって「役員者貸付金」という、どちらかといえばネガティブなイメージを持たれる資産が「保険積立金」というポジティブに評価される資産へと置き換えることも可能です。
また、債務返済後は役員・代表者の退職金原資とすることもできます。
こちらの方法は一旦良さそうに見えます。しかし、今までは自分の会社からお金を借りていたということで、物言わぬ債権者だったのですが、債権者が、自分が役員を務める会社からファイナンス会社に変わることにより、返済は当然遅れることは許されません。
これまでもキッチリと会社に対して返済を進めているところであれば、このような方法を取っても問題ありません。
しかし資金繰りが厳しいところでは、役員個人からファイナンス会社へ返済が滞り、役員個人の個人信用情報に傷がついてしまう可能性があるため注意が必要です。
4.まとめ
今回は役員代表者貸付金をきれいにする方法をご紹介しました。
役員代表者貸付金が貸借対照表に計上されていることは外部からの評価を下げる原因にありますし、税金負担も大きくなります。
自己資金で解消できない場合には、個人資産の売却、保険積立金等を活用してきれいにする方法なども検討しましょう。
役員貸付金など、税務や会計でお困りの際は、丸山会計事務所までお気軽にご相談ください。
この記事の監修
税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。