事業目的での定期借家契約とは?貸主、借主のメリットと注意点
投稿日:2022年12月14日
不動産の賃貸契約には、普通借家契約のほかに「定期借家契約」があります。立地や賃料、広さなどに着目しがちですが、契約形態の違いも貸主、借主ともに大きな影響を与えるところです。
このブログでは「定期借家契約」について、その概要と普通借家契約との違いをご紹介します。そして事業目的で定期借家契約とするメリットと注意点を、貸主、借主、それぞれの立場からご説明します。
1定期借家契約とは
定期借家契約は、一言でいうと契約期間が決まっている建物賃貸契約をいいます。
定期借家契約の要件と、普通借家契約との主な違いをご紹介します。
定期借家契約の概要
定期借家契約の主な特徴は、以下のとおりです。
〇更新がない
契約期間が決まっており、更新はありません。契約期間終了後も貸主、借主が合意すれば、再契約をおこなうことになります。
〇書面で契約する必要がある
公正証書等の文書での契約、書面を交付しての説明が必要です。また期間満了前にも、終了の通知が必要になります。
〇中途解約ができない
契約期間中は貸主からも借主からも、原則として中途解約ができません。ただし借主からの解約は、条件や特約により可能になる場合もあります。
普通借家契約との違い
普通借家契約は、特に居住用では一般的な契約形態です。定期借家契約との主な違いは以下のとおりです。
〇更新がある
貸主に正当な理由がない限りは、借主は更新し続けることが可能です。借主の更新を拒否できる「正当な理由」は、建物の老朽化にともない建て替えが必要な場合など、どうしても更新が難しい事情がある理由に限ります。さらに立退料の支払いが必要になることがほとんどです。
〇公正証書等の手続きまでは必要ない
文書で契約することがほとんどですが、公正証書等までの厳密な手続きは必要ありません。口頭での契約も可能です。
〇中途解約が可能なケースがある
定期借家契約では貸主からだけでなく借主からも原則として中途解約はできませんが、普通借家契約では条件によっては中途解約が可能です。ただ、どちらも契約で特約があればそれに従います。
2事業用定期借家契約のメリットと注意点
賃貸借契約の目的には、居住用だけでなく事業用の場合もあります。ここでは特に事業用の賃貸借契約で、定期借家契約を締結する場合のメリットと注意点を、貸主、借主それぞれの立場から紹介します。
貸主のメリットと注意点
貸主が定期借家契約で貸し出すメリットは、主に以下のとおりです。
〇契約期間が定まっているため、借主に問題があれば契約期間終了とともに退去してもらえる
オーナーが不動産運用を続ける中では、建物を建て替えたい、賃貸ではなく売却したい、などの希望が出てくる可能性があります。
しかし、通常の賃貸借契約では、よほどの理由がなければ借主に退去してもらうことができません。退去を依頼するには、事業用の場合、移転費用だけでなく、営業損失の補填を求められるケースもあり、貸主の負担が重くなるリスクが高いといえます。
また、借主のなかには営業不振により賃料の支払いが遅れるなどの問題を抱えるケースも多いです。
このような場合でも、通常の賃貸借契約では「強制退去」を依頼するのは難しく、現実的には貸主が金銭を負担しなければならなくなるでしょう。
しかし定期借家契約で契約期間が決まっていれば、契約終了とともに借主は退去しなければなりません。もし貸主と借主双方が合意すれば、再契約をしてそのまま入居してもらうこともできます。貸主としては安心して貸出ができるでしょう。
〇再契約になるため、新規契約と同様の請求ができる
引き続き入居者と賃貸借契約をする場合は、更新ではなく再契約になるため、新規契約時と同様に礼金や保証金を請求することができます。
しかし退去時に返還する予定の保証金については、契約で償却する部分以外はそのまま預かることになるのが一般的です。
主な注意点としては、以下のとおりです。
・定期借家契約ということで、借主に敬遠される可能性がある
・書面での手続きを始めとして、手続きが煩雑
近い将来、建物を建て替えたり他の用途で運用したりする可能性のある方、迷惑な借主に入居されるリスクを減らしたい方などにおすすめです。
借り手のメリットと注意点
借手が定期借家契約で物件を借りるメリットは、主に以下のとおりです。
〇賃料が割安なケースがある
定期借家契約は契約期間が決まっているため、長く事業をしたい入居者には敬遠される可能性があります。このため、賃料を少し安く設定している物件があり、割安に借りられる場合があります。
ただし、近年では事業用物件の定期借家契約は増加傾向にあり、あまり賃料は変わらないことも多いです。
〇更新料がかからない
契約期間終了後は再契約になるため、更新料の支払いはありません。定期借家契約の契約期間は自由に定められ、事業用では5年や10年といった長期間のものもあります。この場合、長期間更新料を支払わずに済むため、借主の経済的負担が軽くなるでしょう。
〇審査が厳しくないケースがある
契約期間が決まっており、もし問題があれば期間終了後に退去してもらえるため、一般的な賃貸借契約よりも借主の審査が厳しくないケースがあります。このため、信用力少ない事業者でも入居できる可能性があります。
主な注意点としては、以下のとおりです。
・契約期間が決まっており、再契約できない可能性がある
貸主が定期借家契約とする理由はさまざまで、契約期間終了後に建物建て替えなどの具体的な計画がある場合だけでなく、単に迷惑な入居者が入るリスクを避けたい場合も多いです。貸主、借主ともに問題がなければ、再契約が可能な物件も多くあります。
もし契約時に事情を確認した上で再契約を見越して契約したとしても、書面上は契約期間が決まっているため、期間終了後に退去を求められる可能性があるため注意が必要です。
もし高額な内装工事をするなどの設備投資をしても、期間終了後に退去しなければならない可能性があることを念頭に置いておきましょう。
また、内装工事をした場合、建物付属設備となるものは固定資産として減価償却をします。
通常は税務上決められた耐用年数にわたり損金となりますが、定期借家契約は契約期間が決まっているため、次の2つの要件が揃えば契約期間での償却が可能です。
① その造作した建物について賃貸借期間が定められており、その賃貸借期間の更新ができないこと
② その造作したものについて、有益費の買取請求などができないこと
例えば税務上の耐用年数が15年の建物附属設備でも、上記の2点の要件を満たしていれば、定期借家契約での契約期間が5年であれば、5年で損金にできます。早い期間で損金とできることが多いため、確認してみましょう。
〇再契約時に条件が変更となる可能性がある
契約期間が終了後は、更新ではなく再契約をする形となります。このため、貸主は新しく賃料などの条件を決めることができます。再契約時には、最初の契約とは異なる条件となる可能性があることを念頭に置いておきましょう。
定期借家契約は、状況によっては家賃面などで有利に入居できる可能性があります。一方で、貸主が定期借家契約としている理由を確認しておき、契約期間終了後のことを考えておくことが大切です。
3まとめ
以上、定期借家契約の概要およびメリットと注意点を、貸主、借主、それぞれの立場からご紹介しました。
事業用の賃貸借契約では定期借家契約が増えています。貸主、借主ともに、それぞれの特徴を把握したうえで、状況に応じて活用するとよいのではないでしょうか。
不動産活用や賃貸借契約に関わる税務処理など、税務や会計でお困りの際は、丸山会計事務所までお気軽にご相談ください。
この記事の監修
税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。