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暦年課税の生前贈与加算期間延長か | 相続時精算課税も見直し?
投稿日:2022年11月30日
贈与税、相続税はともに税率が高く、税額も大きくなる傾向があり、富裕層では節税対策の需要が高いところです。資産を子や孫に移転する行為は同じですが、生きているうちに資産を渡せば贈与税、亡くなってから移転すれば相続税がかかり、異なる税率となります。贈与のタイミング等の操作で富裕層が節税することを避けるため、また、どの時点で渡しても資産を移転することには変わりはなく、資産の移転時期の選択に中立的な税制を構築するという観点などから、令和4年10月の政府の税制調査会で、主に以下の点について議論されました。
- 暦年課税の生前贈与加算期間の見直し
- 相続時精算課税の使い勝手の向上
- 結婚・子育てや教育資金目的の贈与税非課税措置の見直し
特に暦年課税の生前贈与加算期間に関しては専門家の意見も一致し、今後の改正に向けて具体的になってきたと考えられます。このブログでは、それぞれの概要を紹介します。
生前贈与加算期間が延長に?
現行制度では、暦年課税(毎年、贈与した金額に対して贈与税がかかる、いわゆる110万円贈与と言われる方法)で死亡前3年以内に贈与した金額は、相続税の対象として加算されます。その代わり先に支払った3年分の贈与税は相続税から控除が可能です。この3年を生前贈与加算期間といいます。政府の税制調査会ではこの期間が延長される方向で意見がまとまってきており、2023年の税制改正に織り込まれる可能性が高いといわれているところです。生前贈与加算の概要と、今後の方向性を紹介します。
贈与税の生前贈与加算の概要
贈与税と相続税では税率が異なります。また、暦年課税の場合、贈与税の基礎控除である年間110万円までは贈与税が課税されません。
しかし亡くなる3年以内に相続人に贈与した金額については、110万円の非課税部分も含めて、相続財産として相続税の対象になります。亡くなる直前に相続人に贈与をして、相続財産を減らすことを防ぐためです。
専門家会合で延長の方向で意見が一致
令和4年10月の政府の税制調査会では、生前贈与加算期間を3年から延長する方向で議論し、専門家会合では5~10年を目安に延長することで意見が一致しました。2023年の税制改正で延長が織り込まれる可能性が高くなっていると推測されています。
暦年課税で、110万円の非課税枠も活用しつつ、長い期間をかけて贈与をすると、相続財産を減らすことができます。現行では亡くなる直前3年分だけは相続財産に加算されますが、それ以前の分は加算されないため、この分は相続税を節税できます。まずはこの節税可能な状況を封じていきたいというねらいがあります。さらに、相続財産に加算される期間が長くなれば、相続税の節税効果は減る上に、この期間よりももっと前から贈与をしていこうとする動きになり、より早い段階で若い世代へ資産を移転できるのではないかとのねらいもあります。
相続時精算課税制度の概要と見直しの方向
贈与の方法には、毎年贈与税が課税される暦年課税の他に、相続時精算課税制度があります。相続時精算課税制度は、現状はあまり活用件数が少ないため、使い勝手を向上できるように見直しをされる方向です。
相続時精算課税制度は、生前に贈与しても累計2,500万円までは贈与税がかからず、超えた部分には一律20%の贈与税の負担で贈与が可能な制度です。生前の贈与は税負担を少なくしておこなえますが、贈与者が亡くなったときには贈与財産の時価の金額が相続財産に加算されて、相続税がかかります。もし20%を超えて贈与税を支払っていたら、この金額は相続税の金額から差し引くことができます。
この制度を利用するには、要件があります。
- 贈与者は、60歳以上の父母または祖父母
- 受贈者は、18歳以上の子または孫
選択しようとする受贈者は、贈与税の申告書とともに所定の届出書等を提出しなければなりません。
また、暦年課税と併用ができず、撤回もできません。一度選択してしまうと、暦年課税で基礎控除110万円の非課税枠を活用した贈与ができなくなります。
さらに、たとえ少額の贈与であっても、贈与がある年は申告が必要になり、事務手続が煩雑になります。贈与してしまうと小規模宅地の特例が使えなくなるなどのデメリットもあります。
相続時精算課税制度の主なメリットは、まとまった金額を、少ない税額の負担で贈与できることです。早い段階で若い世代へ資産を移転したいという趣旨と合致しています。また、時価の上昇が見込まれる不動産、そこから収益を生む物などを贈与する場合、時価上昇前に贈与ができる、そして収益を生む物を贈与した場合、その生まれた収益を渡した人に帰属させるなどのメリットもあります。
しかし前述したような手続きの煩雑さやメリットが限定されることなどから、令和2年分の申告では暦年贈与の申告が36.4万人に比べて、相続時精算課税制度は4.0万人、と活用件数が少ない状況です。相続時精算課税制度で、贈与額数万円などの少額の場合は申告を不要とすることを検討し、使い勝手の向上を図る方向です。
贈与税の非課税措置は縮小傾向に
早い段階で若い世代へ資産を「非課税で」移転する方法として、教育資金の一括贈与に係る非課税措置、結婚・子育て資金の一括贈与に係る非課税措置などがあります。
たしかに資金の移転はあるものの、そもそも非課税での贈与が可能な点(相法21の3①二)は富裕層に優遇された制度といえます。令和3年度税制改正時には適用期限を2年延長されたものの、経済的格差を助長する面があるため「次の適用期限の到来時には制度の廃止も含めて改めて検討する」との記載もされました。今後は縮小、廃止の方向になると考えられます。
まとめ
以上、暦年課税の生前贈与加算期間見直しを中心に、相続税、贈与税の改正の方向性を紹介しました。
以前より暦年贈与の廃止、相続・贈与の一体化課税などの話が出ていましたが、税制改正までには至っていません。
大きく改正すると富裕層への影響が大きくなります。しかし徐々に見直しが迫られることは確かでしょう。それを踏まえて、相続対策を有効におこなうためには、長期的な視点でおこなうことが必要です。
暦年贈与を始めとした相続対策など、税務でお困りの際は、丸山会計事務所までお気軽にご相談ください。
この記事の監修
税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。
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