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相続後の自己株式の買取を特例で節税するための注意点

投稿日:2022年10月06日

名義株式、過去に誤った節税対策、旧商法の発起人制限などで分散した株式の集約をする場合に、会社が自社の株式を買い入れることがあります。

上記以外でも事業を引き継いだ経営者が株式を集約する目的だけでなく、死亡した経営者から自社の株式を相続した後継者の相続人が、相続税の納税資金等を確保する目的で換金する場合もあります。

自己株式の買取時には、譲渡した側に税金がかかります。

自己株式の買取は、税法上は配当金として取り扱われるため、配当金とみなされる部分には源泉所得税がかかります。源泉徴収義務者は会社となるため、一旦は会社が税金を納めますが、最終的には譲渡した側が納める形になります。

通常の上場会社の配当金については源泉分離課税となり、安い税率で税金の計算をするのですが、非上場会社の株式を自己株式として譲渡した場合には高い税率が課税されます。しかし、相続後の限られた期間であれば、要件によっては税額を抑える特例もあるのです。

このコラムでは、自己株式を買い取る際の税金の概要、および、税額を抑えられる「相続により取得した非上場株式を発行会社に譲渡した場合の課税の特例」の概要と、適用する際の注意点をご紹介します。

1.自己株式の買取

通常、株式を売却する場合の税金は、売却益に対して約20%(所得税(復興所得税を除く(以下「所得税」という)15%、住民税5%)です。

しかし、会社が自己株式を買い取りする際は、株式を売買したのではなく、一部は資本の払い戻し、それを超える部分は利益の分配=配当とみなされます。このため、配当とされる部分は、配当金を受け取ったものとして税金がかかります。

上場会社の配当金にかかる税金は、分離課税で約20%(所得税15%、住民税5%)です。しかし非上場株式の場合は異なり、総合課税の対象で、超過累進税率が適用されます。

総合課税とは、その人が給与所得や不動産所得など、総合課税の対象となる所得が他にある場合には、すべての所得を合算して所得税の課税対象金額を出し、そこに所得税の税率をかけて税額を算出する方法です。

もし、給料、不動産などにかかる収入金額がそれほど高くなくても、自己株式買取で配当とみなされる部分の金額が高額な場合、その給料や不動産にかかる所得にかかる所得税の税率も高くなる場合があります。

所得税の超過累進税率は、最大45%ですので、住民税10%と合計すると55%となり、場合によっては自己株式の買取に際して高額な所得税が課せられてしまいます。

もし、自社の株式を相続財産として残そうと考えた場合に、評価額から「この程度であろう」と見込んでいても、そこからさらに所得税と住民税を合わせて半分以上の税金が課せられてしまうこともあり得るのです。

しかし、相続後の特定の時期に株式を会社に譲渡することにより、以下の特例で税額の負担を減らすことが可能です。詳しくみていきましょう。

2.相続により取得した非上場株式を発行会社に譲渡した場合の課税の特例

相続がおこり、相続人が非上場株式を取得した場合に、その株式を発行会社に買い取ってもらった場合は、税率が超過累進税率ではなく、約20%(所得税および住民税)で済む特例があります。特例の概要と注意点をご紹介します。

No.1477 相続により取得した非上場株式を発行会社に譲渡した場合の課税の特例(国税庁 HP)

特例の概要

「相続により取得した非上場株式を発行会社に譲渡した場合の課税の特例」といい、概要は以下のとおりです。

  • 原則として個人が発行会社に非上場株式を譲渡した場合は、利益の分配に係る部分については配当所得の対象となり、総合課税、超過累進税率の対象となります。
  • しかし、相続または遺贈により財産を取得して相続税を課税された人が、その相続税の計算を基礎となった非上場会社の株式を、相続が発生してから3年10か月以内に、発行会社に株式を譲渡した場合には、譲渡所得として約20%(所得税および住民税)の税率にすることが可能。

具体例

例えば、非上場株式の自己株式の買取にあたり、利益の分配とされる金額が5億円だったとします。単純に他に所得がないと仮定して計算してみましょう。

超過累進税率による所得税と住民税の金額・・・約2億7,500万円

特例を利用した場合の所得税及び住民税金額・・・1億円

所得税及び住民税の金額でも大きな差額になります。特例を適用するとしないでは大きな違いが出る可能性があります。

注意点

特例の適用を受けるにあたって、注意したい事項をまとめます。

  • 「相続税を課税された人」に対して適用されます。このため、場合によっては配偶者に適用できない可能性があります。なぜなら、配偶者は最低1億6千万円まで相続税が課せられないという軽減制度があり、相続税が発生しないケースが多くあるからです。相続税が課税されるかどうかを事前に確認しましょう。
  • 相続が発生してから3年10か月以内に、発行会社に株式を譲渡するという期間制限があるので注意しましょう。
  • 取得費加算の特例も、同時に適用可能です。譲渡所得金額を計算するにあたり、この非上場株式を相続等で取得したときに課された相続税額のうち、その株式の相続税評価額に対応する部分の金額を取得費に加算して、収入金額から控除できます。つまり譲渡所得金額を減らすことが可能です。適用する場合には、確定申告に規定の書類を添付します。
  • 非上場株式にかかる相続税の納税猶予などを受ける場合には、納税猶予を受けた株式を自社株式として発行法人へ買取ってもらう行為は、納税猶予の打ち切り事由に該当する場合もありますのでご注意ください。

3.特例を利用する場合には、届出書の提出が重要

さらに特例を利用する場合に重要な手続事項があります。

それは「相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出」の提出です。

これは譲渡をする人が、譲渡をする時までに、株式を買い取る法人へ提出し、株式を買い取った法人は、その届出書を、株式を買い取った年の、翌年の1月末までに税務署に提出します。

ここで注意すべき点が、法人から税務署へ届出書の提出期限が翌年の1月末までとなっている点です。

通常、確定申告は、期日が株式の譲渡を行った年の翌年3月15日までとなりますが、この届出書の提出期限は法人側で株式を買取った年の翌年1月31日までとなっているため、確定申告時に届出書の提出をしていたのでは遅いということになります。

[手続名]相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出(国税庁)

当該届出書の提出が無い場合には、特例の適用を受けることができず、多額の所得税を支払うこととなるケースもあるため、必ず忘れずに提出することが大切です。

4.まとめ

以上、主に「相続により取得した非上場株式を発行会社に譲渡した場合の課税の特例」の概要と、適用の注意点、相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出書の重要性をご紹介しました。

特例を適用するとしないでは、大きく税額が異なる可能性がある制度です。要件を満たす場合には、相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出書を提出し、税務署に指摘されないように注意しましょう。相続や事業承継の際には、専門家へのご相談をおすすめします。

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この記事の監修

丸山会計事務所 税理士 代表 丸山和秀

税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)

税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。

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