後継者が首を縦に振らない理由は、本当に「株価」ですか?会社の借入金の個人保証(経営者保証)を外す3つの分岐
投稿日:2026年07月14日

朝4時起きの名古屋の税理士丸山です。
「息子に継がせたいが、首を縦に振らない」「いい買い手は見つかったのに、最後の一歩で交渉が止まる」。
事業承継やM&Aのご相談で、ブレーキの正体が“株価”だと思い込まれている経営者は少なくありません。
けれども実際に足を止めているのは、会社の銀行借入金に付いた社長個人の連帯保証――いわゆる「個人保証(経営者保証)」であることが非常に多いのです。
後継者は、株式の買取り資金よりも「自分の家まで担保に取られるかもしれない」という重みに身構えます。
本稿では、この見えにくい障害を外すために、
(1)なぜ個人保証が承継を止めるのか、(2)保証を外す土台となるガイドライン3要件、(3)承継スキームごとに保証がどう動くか、という3つの視点と、実際の金融機関交渉の進め方を整理します。
【目次】
1. 後継者が身構える本当の理由――「株式の買取り」より「個人保証」
2. 個人保証を外す土台――経営者保証ガイドライン3要件
3. 承継スキーム別・個人保証の行方
4. 解除に向けた実務ステップ――「二重取り禁止」と「説明義務」を使う
1. 後継者が身構える本当の理由――「株式の買取り」より「個人保証」
中小企業の借入は、社長個人が連帯保証人になっているのが通例です。
会社が2億円を借りていれば、社長も2億円の個人保証を背負っています。
ここで承継を考えると、後継者は「株式の買取り」と「個人保証の引受け」という二つの荷物を同時に渡されることになります。
たとえば純資産がマイナスの会社では、株式の評価額はゼロでも、その後ろに数千万円から数億円の連帯保証が控えている。
番頭格の社員に「継いでくれ」と打診しても、現場一筋でやってきた職人が、自宅まで担保に差し出す覚悟まではできない――これは決して珍しい話ではありません。
つまり交渉が止まるのは株価ではなく、保証なのです。
まずこの構造を経営者自身が正しく認識することが、出発点になります。
2. 個人保証を外す土台――経営者保証ガイドライン3要件
この個人保証を外すための共通言語が、全国銀行協会と日本商工会議所がまとめた「経営者保証に関するガイドライン」です(2014年2月適用開始)。
法的な強制力はなく金融機関の自主的なルールですが、要件を満たせば「保証を外してほしい」と正面から求める根拠になります。
鍵は次の3要件です。
第一に「法人と経営者の関係の明確な区分・分離」――社長個人と会社のお金のやり取り(役員貸付金、社長名義の事業用不動産など)を、社会通念上適切な範囲に整理することです。
第二に「財務基盤の強化」――保証がなくても返済できるという信用力を、債務償還年数や自己資本といった数字で示すこと。
第三に「財務状況の適時適切な情報開示」――決算書だけでなく試算表や資金繰りを、求めに応じて誠実に開示することです。
公認会計士・税理士など外部専門家の検証を添えると、説得力が大きく増します。
逆に言えば、社長個人と会社の財布が混ざっている会社ほど、保証は外しにくいということです。
3. 承継スキーム別・個人保証の行方
保証がどう動くかは、承継のスキームによって大きく変わります。
親族内承継・株式譲渡の場合:株式(=支配権)を渡せば、その裏にある借入金と保証も基本的についてきます。
負債だけを切り離すことはできません。
だからこそガイドラインを使い、後継者に保証を“付け替えない”交渉が要になります。
第三者M&A・事業譲渡の場合:欲しい事業と資産だけを買い手に移し、借入金と保証は売り手側の法人に残す設計が可能です。
買い手が金融機関の同意を得て債務を引き受ければ、売り手社長の個人保証は解除に向かいます。
株式譲渡か事業譲渡かの選択は、税務だけでなく「保証をどう清算するか」という観点でも効いてきます。
廃業の場合:会社をたたんでも、社長個人の連帯保証は自動では消えません。
残った借入金は保証人である社長個人に請求され得ます。
早く動けば動くほど、選べる出口は広くなります。
4. 解除に向けた実務ステップ――「二重取り禁止」と「説明義務」を使う
最後に交渉の実務です。
2020年4月から適用された事業承継の「特則」では、前経営者と後継者の双方から保証を取る“二重取り(二重徴求)”が原則禁止になりました。
金融機関が例外的に双方へ求める場合は、その理由を双方に十分説明する義務があります。
さらに2023年4月の「経営者保証改革プログラム」により、金融機関が新たに個人保証を求めるときは、(1)なぜ保証が必要なのか、(2)どこを改善すれば保証の変更・解除の可能性が高まるのか、を経営者に具体的に説明し、その内容を記録に残すことが義務づけられました。
これは経営者にとって強力な交渉材料です。
「特則に基づき、後継者への保証の付替えはしないでほしい」「改革プログラムに沿って、解除の条件を説明してほしい」と、根拠を示して求めることができます。
承継・M&Aの1〜2年前から、3要件の充足に向けて財務とガバナンスを整えておくことが、最後の一歩をスムーズにします。
結び――ともに未来を描く
当事務所では、株価の算定や組織再編・M&Aスキームの設計だけでなく、その手前にある「個人保証をどう外すか」という金融機関との対話まで含めて、事業承継の出口を一緒に描いてまいります。
「ともに未来を描く」――これは当事務所の経営理念です。
会社と、そして経営者ご自身とご家族の暮らしを守りながら次の世代へバトンを渡すために、税務にとどまらない組織再編・事業承継・M&A支援を通じて伴走いたします。
後継者が首を縦に振らない理由が「保証」かもしれないと感じたら、どうぞお早めにご相談ください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な経営判断を行うものではありません。
実際のご判断に際しては、税理士・会計士等の専門家へご相談ください。
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この記事の監修
税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。


