自社はいくらで売れる?中小M&A『3つの企業価値評価法』の使い分け
投稿日:2026年05月26日

おはようございます。
朝4時起きの名古屋の税理士丸山です。
「うちの会社、いったいいくらで売れるんでしょうね」。
事業承継のご相談で、経営者の方から最も多くいただく質問のひとつです。
M&Aの価格は、相続税評価のように一つの算式で決まるものではなく、譲渡し側と譲受け側がそれぞれの立場で算定し、交渉のテーブルですり合わせていくものです。
複数の評価手法を知らないまま面談に臨むと、提示された金額が「妥当なのかどうか」さえ判断できません。
本稿では、中小M&Aの現場で実際に使われる「年買法」「DCF法」「類似会社比較法」の3つの企業価値評価法について、計算式・適用場面・限界を整理し、価格交渉で経営者が押さえるべき視点をお伝えします。
目次
1.年買法──オーナー社長が直感で理解できる中小M&Aの標準算式
2.DCF法──買い手と金融機関が信頼する将来キャッシュ・フロー基準
3.類似会社比較法──マルチプルで「相場感」を確かめるセカンドオピニオン
4.3手法を比較して交渉に臨む──価格ギャップを埋めるための視座
1.年買法──オーナー社長が直感で理解できる中小M&Aの標準算式
年買法(年倍法)は「時価純資産+営業権」で株価を算定する方法で、中小M&A仲介の現場で最も多く採用されています。
営業権は、正常収益力ベースの営業利益にのれん年数(一般に3〜5年)を乗じて求めます。
例えば時価純資産5,000万円、営業利益8,000万円の会社であれば、株価は5,000万円+8,000万円×3年=2億9,000万円という見立てになります。
経営者の感覚に近く、「あと3〜5年営業すれば回収できる」というキャッシュフロー回収のイメージが直感的に成り立つことが強みです。
一方で、時価純資産の評価には注意が必要です。
簿価では1億円の純資産が、土地以外の事業用資産(建物・什器・営業車両)に換金価値がほとんどない場合、時価純資産は数千万円まで圧縮されるケースがあります。
逆に含み益のある不動産があれば株価は跳ね上がります。
年買法は「事業用資産を売却できるか」という前提に支えられている点を見落とさないでください。
2.DCF法──買い手と金融機関が信頼する将来キャッシュ・フロー基準
DCF法(Discounted Cash Flow法)は、将来生み出されるキャッシュ・フローを資本コスト(割引率)で現在価値に割り引いて事業価値を算定する手法です。
事業価値に非事業用資産を加え、有利子負債を控除して株式価値を導きます。
先ほどと同じ営業利益8,000万円の会社で、法人税率30%、買い手要求利回り20%とすれば、事業価値は8,000万円×(1−30%)÷20%=2億8,000万円。
現金預金5,000万円・借入金1億円なら、株式価値は2億3,000万円となります。
買い手側は「事業を継続して回収する」前提に立つため、DCF法の数値を交渉の出発点に据えることが多くなります。
買収資金を借り入れる金融機関がFA(フィナンシャル・アドバイザー)として関与する場合、公認会計士の株式価値算定書に基づきDCF法が前面に出ます。
ただし、将来事業計画と割引率に恣意性が入りやすく、保守的な計画を前提にすると評価額が大きく目減りする点には注意が必要です。
3.類似会社比較法──マルチプルで「相場感」を確かめるセカンドオピニオン
類似会社比較法(マルチプル法)は、上場している類似事業の株価倍率(EV/EBITDA倍率、PER、PBR等)を用いて対象会社の価値を算定する方法です。
理論的背景は「同程度のリスク・成長性を持つ企業は同程度の倍率で評価される」というシンプルな考え方にあります。
代表的な指標としては、企業価値を税引前営業利益+減価償却費で割ったEV/EBITDA倍率が中堅・上場準備会社のM&Aで頻繁に使われます。
中小企業では類似上場会社の選定が難しく、規模・流動性ディスカウントの調整も必要なため単独で用いられることは少ないものの、年買法やDCF法で算定した株価が「業界の相場と乖離していないか」を検証するセカンドオピニオンとしての価値は非常に大きい手法です。
4.3手法を比較して交渉に臨む──価格ギャップを埋めるための視座
実務では、譲渡し側は年買法(2億9,000万円)、譲受け側はDCF法(2億3,000万円)と、立場により6,000万円のギャップが生じるのが典型的な構図です。
さらに「高く売りたい」「安く買いたい」という心理が乗り、相対取引で交渉相手が一社しかなければ、不利な側が譲歩せざるを得ません。
経営者がギャップを埋めるための視座は3つあります。
第一に、複数の譲受け候補を競合させて選択肢を確保すること。
第二に、譲渡前に「磨き上げ」を行い、不採算事業の整理・遊休資産の現金化・名義株式の整理で時価純資産と営業利益の両方を底上げしておくこと。
第三に、譲渡所得課税(個人株主の株式譲渡益に20.315%の分離課税)と退職金課税のバランスを設計し、手取り額ベースで合意ラインを判断することです。
なお、株式譲渡か事業譲渡かでスキームを変えれば、手取りも大きく変わります。
当事務所では、企業価値評価・スキーム選定・PMIまでを一気通貫でご支援しています。経営理念「ともに未来を描く」のとおり、税務申告にとどまらず、組織再編・事業承継・M&Aに関するご相談は、構想段階からお気軽にお声がけください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な経営判断を行うものではありません。実際のご判断に際しては、税理士・会計士等の専門家へご相談ください。
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この記事の監修
税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。


