同じ売却額でも手取りが変わる──M&Aの出口を「退職金の活用」で設計する3つの視点
投稿日:2026年07月01日

朝4時起きの名古屋の税理士丸山です。
後継者が見つからず、会社を第三者へ譲るM&A。
経営者の関心は「いくらで売れるか」に集まりがちですが、最終的に手元にいくら残るかは、売却対価を“どう受け取るか”という設計で大きく変わります。
本稿では、対価を①株式譲渡②役員退職金③配当・自己株式の取得のどのルートで受け取るかという視点から、手取りを最大化し、同時に残された会社とご家族を守る出口設計を、3つの切り口で整理します。
◆ 目次
1. 出口は「いくらで売るか」より「どう受け取るか」
2. 役員退職金をどこまで使えるか──損金算入限度と退職所得控除
3. 数字で見る「退職金を挟む」効果──手取りはこう変わる
4. 出口設計は相続・遺産分割と一体で考える
1. 出口は「いくらで売るか」より「どう受け取るか」
M&Aで自社株式を売却した経営者個人には、譲渡所得として所得税・住民税が課されます。
税率は一律20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)の申告分離課税です。
たとえば取得費(資本金)3,000万円の株式を6億円で売れば、譲渡所得5億7,000万円に約1億1,600万円の税金がかかります。
ところが、売却対価の受け取り方は株式譲渡だけではありません。
退任する経営者には「役員退職金」、会社に現金を残すなら「配当・自己株式の取得」というルートもあります。
配当や自己株式の取得(みなし配当)は総合課税となり、高い所得帯では最高約50%超の負担になります。
一方、退職金は退職所得として税制上手厚く優遇されており、ここに手取りを増やす余地が生まれます。
2. 役員退職金をどこまで使えるか──損金算入限度と退職所得控除
役員退職金には、押さえておくべき2つの論点があります。
1つは会社側の「損金算入限度」。
実務上は〔最終月額報酬×勤続年数×功績倍率(おおむね3.0〜3.5倍)〕が目安とされ、これを超える部分は損金に算入できません(役員賞与扱い)。
株主総会で決議すれば支給そのものは可能ですが、会社の税務上は限度があるという点に注意が必要です。
もう1つは、受け取る個人側の「退職所得控除」と「2分の1課税」です。
控除額は勤続20年以下が年40万円、20年超は800万円+70万円×(勤続年数−20年)。勤続40年なら2,200万円が控除されます。
さらに、控除後の金額を2分の1にした額だけが課税対象(分離課税)となるため、同じ金額を給与や配当で受け取るより税負担が大きく軽くなります。
3. 数字で見る「退職金を挟む」効果──手取りはこう変わる
具体例で見てみましょう。
勤続40年・100%株主の社長が、会社を6億円で譲渡するケースです(取得費3,000万円)。
全額を株式譲渡で受け取ると、税は約1億1,600万円、手取りは約4億8,400万円となります。
これを「退職金1億円+株式5億円」に振り替えるとどうなるか。
退職金1億円は、退職所得控除2,200万円を差し引き、2分の1課税で退職所得は3,900万円。
これにかかる税は概算で約1,700万円(実効税率約17%)、退職金の手取りは約8,300万円。
株式5億円分の譲渡所得税は約9,500万円で手取りは約4億500万円。
合計の手取りは約4億8,800万円となり、全額株式譲渡より数百万円多く手元に残ります。
ポイントは、退職金の実効税率が株式譲渡の20.315%を下回る部分だけ得をするという構造です。
退職所得控除の枠と、支給額が株価評価へ与える影響を見ながら、最適な配分を設計していきます。
4. 出口設計は相続・遺産分割と一体で考える
出口設計は、税率の比較だけで終わりません。
退職金を支払うと、その分だけ会社の純資産=自社株式の評価額が下がります。
これは、後継者へ株式を集中させつつ、後継者でないお子さまへ現金を分けたい場面で有効です。
経営者が受け取った退職金を原資に、遺留分に配慮した財産分けができるからです。
逆に、会社に現金を残そうと安易に自己株式の取得(会社への譲渡)を選ぶと、みなし配当課税で総合課税となり、かえって負担が重くなることがあります。
誰が現金を必要とし、誰がどの税金を負担するのか
──出口は、譲渡対価の設計と相続・遺産分割を一体で考えることで、はじめて納得のいく最適解にたどり着きます。
おわりに
当事務所では、企業価値評価から譲渡スキームの選択、役員退職金を組み込んだ出口設計、そしてその先の相続・遺産分割まで、M&Aと事業承継を一気通貫でご支援しています。
会社の売却は、経営者人生の集大成であると同時に、ご家族の将来を左右する大きな意思決定です。
私たちは経営理念「ともに未来を描く」のもと、税務にとどまらず、組織再編・事業承継・M&Aの伴走者として、社長とご家族が心から納得できる出口づくりをお手伝いします。
会社の譲り方・畳み方に少しでも迷いがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な経営判断を行うものではありません。実際のご判断に際しては、税理士・会計士等の専門家へご相談ください。
▼経営に役立つ情報をもっと知りたい方は
→ メルマガ登録はこちら
→ 丸山会計へのお問い合わせはこちら
この記事の監修
税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。


