その売却価格、「手取り」はいくら残りますか?事業承継M&Aで損をしない3つの設計
投稿日:2026年06月23日

朝4時起きの名古屋の税理士丸山です。
後継者がいない、子は別の道を歩んでいる、けれど従業員と取引先は守りたい――。
こうした思いから、近年は「会社を譲る(売る)」という選択、いわゆる事業承継M&Aを検討される中小企業オーナーが本当に増えました。
買い手候補が現れ、提示された金額を見て胸が高鳴る。その気持ちはよく分かります。
ただ、私が経営者の方とお話ししていて最初にお伝えするのは、「大切なのは売却価格そのものではなく、税金を払ったあとに手元へいくら残るか=手取りです」ということ。
同じ価格で会社を手放しても、出口の“設計”次第で手取りは大きく変わります。
本稿では、オーナー社長が押さえておきたい(1)株式で売るか配当を抜いてから売るかという税率の話、(2)役員退職金というもう一つの出口、(3)オーナー特有の落とし穴、という3つの視点を整理します。
目次
1. なぜ「売却価格」ではなく「手取り」で考えるのか
2. 株式で売るか、配当を抜いてから売るか――個人株主の税率差
3. 役員退職金という“もう一つの出口”
4. オーナー特有の落とし穴――みなし配当・資産管理会社・相続株式
1. なぜ「売却価格」ではなく「手取り」で考えるのか
M&Aの相談では、どうしても「いくらで売れるか」に意識が向きがちです。
しかし最終的にオーナーの人生設計に使えるのは、税引後の手取りです。
会社の価値を現金化する経路には、株式そのものを売る、いったん配当として資金を抜く、退職金として受け取る、といった複数の道があり、それぞれ課税の仕組みも税率もまったく異なります。
たとえば「会社の手元資金が厚い」ケースでは、株式の値段にその現金が乗ってきます。
これを株式譲渡で受け取るのか、配当や退職金という形で受け取るのかで、納める税金の合計が変わってくる。
つまり、同じ“財布の中身”でも、どの蛇口から出すかで手取りが動くのです。
まずはこの全体像を押さえることが、賢い出口設計の第一歩になります。
2. 株式で売るか、配当を抜いてから売るか――個人株主の税率差
個人のオーナーが株式を売って得た譲渡所得には、20.315%(所得税・復興特別所得税・住民税の合計)の税率で申告分離課税が行われます。
一方、会社から配当として受け取る配当所得は総合課税の対象で、他の所得と合算されて累進税率がかかり、配当控除を考慮しても実質で最高約49.44%に達することがあります。
数字で並べると差は歴然です。
仮に1,000の利益相当を株式譲渡で受け取れば税負担はおおむね約203、これを配当で受け取れば最大で約494。手取りで300近い差が生じる計算です。
買い手から「配当を出してから株式を買いたい」と提案される場面もありますが、売り手であるオーナー個人にとっては、配当に転化させるほど税率の高い所得が増え、不利になりやすい点に注意が必要です。
実務上は、誰が(個人か法人か)どの所得区分で受け取るのかを一つひとつ確認し、最も手取りの大きい組み合わせを選ぶことが肝心です。
3. 役員退職金という“もう一つの出口”
オーナー社長には、株式の対価とは別に「役員退職金」という出口があります。
退職所得は、収入金額から勤続年数に応じた退職所得控除を差し引き、さらにその残額の2分の1だけが課税対象となるうえ、分離課税で計算されます。
この「2分の1課税」のおかげで、同じ金額を給与や配当で受け取るよりも税負担を大きく抑えられるのが最大の強みです。
会社側でも、適正額であれば退職金は損金に算入できるため、株式価値の引き下げを通じて株式譲渡益の圧縮にもつながります。
ただし落とし穴もあります。
第一に、勤続年数が5年以下の役員(特定役員退職手当等)には2分の1課税が使えません。
第二に、M&A後もオーナーが顧問などで会社に深く関与し続けると、その金銭が「退職所得」ではなく「給与(役員賞与)」と扱われ、優遇が受けられないおそれがあります。
第三に、「不相当に高額」な部分は会社で損金になりません。適正額は功績倍率方式(最終月額報酬×勤続年数×功績倍率)でおおよその目安を立てるのが実務の定石です。
退職の実態をきちんと整えることが、節税の前提になります。
4. オーナー特有の落とし穴――みなし配当・資産管理会社・相続株式
最後に、オーナーだからこそ気をつけたい論点を3つ。
一つ目は「みなし配当」。
自己株式の取得や残余財産の分配などで会社から金銭を受け取ると、その一部が配当とみなされ、総合課税の高い税率がかかることがあります。
「株を売ったつもりが、半分は配当課税だった」という事態を避けるには、事前のシミュレーションが欠かせません。
二つ目は「資産管理会社経由の保有」。
株式を個人ではなく資産管理会社を通じて持っている場合、売るのは資産管理会社の株式になり、課税関係が一段変わります。
三つ目は「相続で引き継いだ株式」。
相続税を納めて取得した自社株を一定期間内に売却する場合には、相続税額の一部を取得費に加算できる特例(取得費加算)があり、譲渡益を圧縮できることがあります。
いずれも、誰がいつ何を売るかで結論が変わる繊細な論点です。
結びに
会社の出口は、人生で何度も経験するものではありません。
だからこそ、「売れるかどうか」だけでなく「税引後でいくら残り、その先どう活かすか」まで描いておくことが、後悔のない承継につながります。
当事務所では、株式譲渡・配当・退職金といった複数の出口を数値で比較し、オーナーごとに最適な手取り設計をご提案しています。
組織再編や事業承継、M&Aの局面でこそ、私たちは経営理念「ともに未来を描く」を胸に、税務にとどまらず会社と経営者の次の一歩に寄り添います。
出口を考え始めた今が、最良の相談のタイミングです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な経営判断を行うものではありません。実際のご判断に際しては、税理士・会計士等の専門家へご相談ください。
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この記事の監修
税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。


