M&Aで払う「のれん」は節税できる? ― 営業権・資産調整勘定の実務
投稿日:2026年06月16日

おはようございます。
朝4時起きの名古屋の税理士丸山です。
「数千万円の“のれん”を上乗せして会社を買ったのに、それは経費にできるのか?」
——M&Aのご相談で、経営者の方から必ずといってよいほど出る質問です。
会計の世界では「のれん」、税務の世界では「資産調整勘定(営業権)」と呼び名が変わり、しかも償却のルールがまったく違います。
ここを取り違えると、見込んでいた節税効果がまるごと消えてしまうことも珍しくありません。
本稿では、①会計と税務でのれんの償却ルールがどう違うのか、②どのスキームを選べばのれんを経費にできるのか、③売り手側で気をつけたい課税、の3つの視点で整理します。
目次
1. 「のれん」と「資産調整勘定」――会計と税務で名前もルールも違う
2. 株式譲渡か事業譲渡か――のれんを経費にできるかはスキーム次第
3. 数値で見る、のれん「5年償却」の節税インパクト
4. 売り手の落とし穴――みなし配当と譲渡所得課税
1. 「のれん」と「資産調整勘定」――会計と税務で名前もルールも違う
M&Aで買い手が支払う買収価格には、時価の純資産を上回る「上乗せ分」が含まれます。
ブランド力や顧客基盤、技術力といった、貸借対照表には載らない価値への対価です。
これを会計では「のれん」、税務では「資産調整勘定(税務上の営業権)」と呼びます。
やっかいなのは、両者で償却のルールが違うこと。
会計上ののれんは、最長20年にわたって規則的に費用化していきます(逆に割安で買った場合に生じる“負ののれん”は、発生した年度に一括で利益処理します)。
一方、税務上の資産調整勘定は、年数にかかわらず5年間(60か月)で均等に減額し、その分を損金、つまり経費に算入します。
ざっくり言えば「会計上は最長20年かけてゆっくり、税務上は5年で一気に」経費化が進むイメージです。
なお負ののれんに相当する「差額負債調整勘定」が立つ場合は、同じく5年間で益金(課税対象)に算入されます。
2. 株式譲渡か事業譲渡か――のれんを経費にできるかはスキーム次第
ここで何より重要なのが、「資産調整勘定は、どんなM&Aでも発生するわけではない」という点です。
株式譲渡(相手の株式を買う取引)では、対象会社はそのまま存続し、資産・負債の帳簿価額もそっくり引き継がれます。
このため、買い手の側に資産調整勘定(税務上ののれん)は原則として発生しません。
買収価格に上乗せしたプレミアムは、あくまで「子会社株式の取得価額」として資産に計上されるだけで、毎期の経費にはならないのです。
これに対して、事業譲渡や非適格の組織再編(合併・会社分割など)では、移転する資産・負債を時価で受け入れ、対価との差額が資産調整勘定として認識されます。
これは5年で損金算入できるため、買い手にとっては実質的な節税メリットになります。
「のれんを経費にしたいのなら、株式譲渡ではなく事業譲渡系のスキームを」というのが基本の考え方です。
ただし事業譲渡には消費税の課税や許認可の引き継ぎといった別の論点もあり、税務メリットだけで決められない点には注意が必要です。
3. 数値で見る、のれん「5年償却」の節税インパクト
具体的にイメージしてみましょう。
時価純資産1億円の事業を、3億円で事業譲渡により取得したとします。
差額の2億円が資産調整勘定(税務上ののれん)です。
これを5年均等で償却すると、毎年4,000万円が損金になります。
法人の実効税率をおよそ30%とすれば、年間で約1,200万円、5年間でおよそ6,000万円の税負担の軽減につながる計算です。
同じ2億円のプレミアムでも、株式譲渡で買っていれば、この損金算入はゼロ。
買い手にとっては、スキームの選び方だけで数千万円規模の差が生まれるわけです。
もっとも、買収後に赤字が続けば、せっかくの損金を使い切れない(タックスシールドが得られない)リスクもあります。
「経費にできる権利」があっても、利益が出ていなければ節税効果は限定的
——ここは買収後の収益計画、つまりPMI(統合プロセス)とセットで考えるべき論点です。
4. 売り手の落とし穴――みなし配当と譲渡所得課税
のれんの話は、売り手にとっても決して他人事ではありません。
個人株主が株式を譲渡して会社を売る場合、譲渡益には所得税・住民税あわせて20.315%(所得税15%+復興特別所得税+住民税5%)が分離課税されます。
比較的軽い税率で完結するため、売り手にとっては株式譲渡が有利になりやすい理由のひとつです。
一方、事業譲渡や非適格組織再編を選ぶと、会社側に法人税が課されたうえ、そのお金を株主に分配する段階で「みなし配当課税」が生じることがあります。
みなし配当は最高で約50%を超える総合課税となり得るため、「買い手の節税」と「売り手の手取り」は、しばしば利害が真逆を向きます。
だからこそ、のれんを含めた価格とスキームの設計は、買い手・売り手・対象会社、三者の税負担を同時に見渡したうえで決める必要があります。
どちらか一方の都合だけで突き進むと、まとまりかけた交渉が土壇場で崩れてしまうことも珍しくありません。
おわりに
当事務所では、企業価値の評価からスキーム設計、組織再編・事業承継、そしてM&A後のPMIまで、税務と経営の両面でご支援しています。
「のれんを経費にできるのか」「みなし配当は出るのか」といった一つひとつの論点が、最終的な手取りと会社の未来を大きく左右します。
私たちは経営理念「ともに未来を描く」のもと、数字の先にある経営者の想いまで、ご一緒に描いてまいります。
M&Aや事業承継をお考えの際は、ぜひ早い段階でお声がけください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な経営判断を行うものではありません。実際のご判断に際しては、税理士・会計士等の専門家へご相談ください。
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この記事の監修
税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。


