認知症で凍結する前に 遺言と家族信託の使い分け術
投稿日:2026年07月10日

朝4時起きの税理士、丸山です。
本日は「遺言と家族信託を活用した資産承継」についてお話しします。
「公正証書遺言さえ用意しておけば相続対策は万全」——そう考えている不動産オーナーは少なくありません。
しかし、これは大きな誤解です。
遺言が効力を発揮するのは、あくまで「亡くなった後」。
本当の落とし穴は、その手前にある“判断能力を失っている期間”にあります。
65歳以上の約5人に1人が認知症になると推計される時代、判断能力が低下すると本人名義の預金は引き出せず、賃貸物件の大規模修繕も借換えも売却も契約できなくなります。
これが“資産凍結”です。
遺言は、この生前の凍結リスクには一切手が届きません。
今日は、遺言だけでは防げない凍結リスクと、それを補う家族信託の使い方、そして両者の賢い使い分けを、賃貸オーナーの目線で整理します。
「遺言だけ」では守れない資産凍結リスク
たとえばアパート3棟を持つ75歳のオーナーが認知症を発症したとします。
空室対策のリフォーム、入居者との賃貸借契約、金融機関との借換え——これらはすべて「本人の意思表示」が前提です。
判断能力を失えば、家族が代わりに契約することはできません。
成年後見制度を使えば後見人が選任されますが、後見人の役目は“財産を守る”こと。
収益向上を狙った積極的な売却や建て替えは家庭裁判所が認めにくく、せっかくの収益不動産が“塩漬け”になってしまいます。
遺言を完璧に整えても、この生前リスクは1ミリも解消されないのです。
家族信託で「凍結」を防ぐ
そこで有効なのが家族信託です。
元気なうちに、親(委託者)が信頼できる子(受託者)へ財産の管理・処分権限を託しておく仕組みです。
所有権のうち“管理する権利”だけを子に移し、家賃収入などの“利益を受ける権利”は親が持ち続けます。
これにより、親が認知症になっても、子の判断で修繕・建替え・売却・借換えが可能になります。
信託契約で「受託者は信託不動産を売却できる」と定めておけば、施設入所費用が必要になった際も子がスムーズに換金できます。
+αの視点:名義を子に移しても「贈与税・不動産取得税」は非課税
「親から子へ名義を変えたら、多額の贈与税や不動産取得税がかかるのでは?」と心配される方がよくいらっしゃいます。
しかしご安心ください。
家族信託の場合、親が利益を受け続ける限り、税務上は「形式的な名義変更にすぎない」とみなされるため、資産の譲渡(贈与)には該当せず、贈与税も不動産取得税も一切かかりません。
登記にかかる登録免許税も通常の売買(2.0%等)と異なり、信託登記の特例(土地の評価額×0.4%)で安く済みます。
初期費用はかかりますが、税制面でもしっかりと配慮されているのです。
費用は信託財産1億円規模で公正証書作成・登記等を含めおおむね80万〜120万円程度。
凍結による機会損失を考えれば十分に見合う“攻めの一手”です。
遺言・家族信託・任意後見の使い分け(失敗例)
3つの制度は役割が異なります。
家族信託は“生前の管理と承継先の指定”、遺言は“信託に入れなかった財産の最終的な行き先指定”、任意後見は“身上監護(介護・医療の手続き)”をカバーします。
+αの視点:お金は作れても施設に入れない?「身上監護」の落とし穴
なぜ任意後見の併用が必要かというと、家族信託で子に与えられるのはあくまで「財産の管理・処分」の権限だけだからです。
親が認知症になった際、老人ホームとの入居契約を結んだり、病院での医療・介護の手続きを行ったりする「身上監護」の権限は、信託の受託者にはありません。
つまり、信託によって「不動産を売って施設に入るお金は作れたのに、肝心の施設への入居手続きができない」という事態が起こり得るのです。
これを防ぐために、任意後見契約との「2段構え」が必須となります。
よくある失敗が、家族信託だけを組んで遺言を作らず、信託財産に入れ忘れた預金や自宅が宙に浮き、結局遺産分割協議が必要になるケースです。
逆に遺言だけで信託を組まず、生前に認知症で物件が凍結してしまうケースも後を絶ちません。
3制度は“併用”してこそ効果を発揮します。
さらに、受託者となる子が他の兄弟から「財産を独り占めしている」と疑われないよう、信託の目的と利益配分を明文化しておくことが、争族を防ぐ決定的なポイントになります。
なお、家族信託は節税そのものを目的とする制度ではない点も要注意です。
番外編:信託財産に入れても「小規模宅地等の特例」は使えるのでご安心を
節税目的ではないとお伝えしましたが、「信託をすると相続税の特例が使えなくなるのでは?」というご心配は無用です。
たとえば、親(受益者)が亡くなり信託が終了した際、残余財産として貸アパートとその敷地を子が引き継いだ場合、他の要件を満たしていれば、通常の相続と全く同じように「小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)」の適用を受けることができます。
税金のメリットを消すことなく、生前の凍結リスクだけを排除できるのが、家族信託の大きな強みです。
ともに未来を描く——攻める税理士の資産承継支援
丸山会計事務所は、「遺言を書きましょう」で終わる“守りの提案はしません。
お客様の家族構成・財産の中身・将来の介護プランまで踏み込み、家族信託・遺言・任意後見・生前贈与を組み合わせた“オーダーメイドの承継設計”をご提案します。
司法書士・弁護士とも連携し、信託組成から相続税の試算、納税資金の確保までワンストップで対応。
名古屋・栄を拠点に、節税実績で培ったノウハウを、ご家族一人ひとりの状況に合わせてご提供します。
「知らなかったことで損をする」をなくし、ご家族が安心して次の世代へバトンを渡せるよう、ともに未来を描きます。
まとめ
遺言は「亡くなった後」、家族信託は「生きている間の凍結対策」をカバーします。
認知症による資産凍結は、対策が“間に合わなくなる”性質のリスクです。
元気な今こそ、遺言・家族信託・任意後見を組み合わせた承継設計に着手しましょう。
早めの一手が、ご家族の未来とご自身の収益不動産を守ります。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務相談については専門家にご確認ください。
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この記事の監修
税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。


