「取引相場のない株式」の所得税法上の時価の算定方法 | 所得税基本通達59-6は「個人から法人」への贈与等の規定
投稿日:2023年04月05日
同族会社などの株式は上場会社の株式のような、一般的に取引相場が無く、通常換金はしにくいものです。その上場していない株式のことを、税法ではまとめて「取引相場の無い株式」とまとめています。
取引相場のない株式を譲渡する場合、客観性のある時価がないケースがほとんどです。
売買や贈与などは時価がなくとも、取引価格は売り手、買い手が納得していれば自由に決められます。
しかし、そのように自由に決めた価格をどのような場合でも「税務上の時価」とすることはできません。
取引相場の株式は一般的には親族間などで売買されるケースが多く、価格を意図的に操作することで税負担の公平性を損なう恐れがあるからです。
このブログでは、所得税法上で取引相場がない非上場の株式の時価をどのように算定するか、規定されている所得税基本通達59-6の概要を中心にご紹介します。そして譲渡した場合の課税関係でよく発生するケースをご説明します。
1所得税法の時価の算定方法
所得税法上、株式の時価の算定方法が明確に規定されている条文は所得税基本通達59-6のみです。条文の概要と、それ以外のケースはどのように時価を算定するかをご紹介します。
所得税基本通達59-6の概要
所得税基本通達59-6は「個人が法人に」株式などを贈与等した場合に、その時価をどのように算定するかを定めている規定です。
この規定では、まず所得税基本通達23~35共-9に準じた価額を時価とする、とあります。
この所得税法基本通達23~35共-9については新株予約権などの、権利行使時における価額を定めているもので、直接の株式の時価を定めれいるものではありませんが、所得税法上、株式の時価については、この所得税法基本通達23~35共-9を準用する形式となっております。
所得税法基本通達23~35共-9では新株予約券を行使した場合の価額が、その株式が上場株式の場合、気配相場のない株式の場合など、株式の種類別に定められております。 そしてその最後の取引相場の無い株式が定められており、その取引相場の無い株式は、具体的には、
①直近における売買価額(適正なものに限る)
②公募価額
③類似法人の価額
④そしてこれらに該当しない場合は「純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」とされています。
取引相場がない場合、現実的には適正な売買価額は無く、上場も予定されないため公募価額も算定することもできない、類似法人の価額を算定することは難しいため最終的には「純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」を算定するケースがほとんどです。
この純資産価額を参酌して通常取引されると認められる価額とは、財産評価基本通達に一定の修正を加えた方法によります。財産評価基本通達は、相続税や贈与税を算定するための時価であり、所得税法上の時価ではありません。そのまま適用はせずに、修正をすることとされています。
「個人から法人への贈与等」以外のケースは定められていない
所得税法上、株式の贈与等に関する時価の算定方法は、所得税基本通達59-6、所得税法基本通達23~35共-9以外には明確に規定している条文はありません。 繰り返しますがこの規定は「個人が法人に」贈与等した場合の規定であるため、買主が個人の場合など、他のケースについては明確には定められていないことになります。
このため、先ほど出てきた所得税基本通達23~35共-9を、まずは参考にします。しかし取引相場がない場合、実務上では「純資産価額等を参酌した価額」を算定するしかなく、結局は先ほどの基本通達59-6にしたがって計算するケースが多くなります。
2取引相場のない株式を譲渡した場合の課税関係
所得税法上の時価の算定が必要となるのは、譲渡した個人に「みなし譲渡課税」が適用されるケースです。みなし譲渡課税は、個人が法人に著しく低額、または無償で譲渡した場合などに、時価で譲渡したとみなして所得税を課税する制度をいいます。
ここでは非上場の株式を「個人が法人」に譲渡した場合と「個人が個人」に譲渡した場合の課税関係をご紹介します。みなし譲渡課税が適用され、時価の算定が必要なケースは「個人が法人」に譲渡したケースだけであることに注目してください。
これは所得税法上は原則「対価課税」としており、個人間取引では必ずしも時価で取引することが前提では無いというものに基づくものとなります。
個人が法人に譲渡した場合
株式を譲渡する状況は、さまざまなケースが考えられ、売買の結果、個人には所得税または贈与税、法人には法人税が課税されます。
第三者間との一般的な取引であれば、お互いに合理的な価格を決定して取引をしますが、取引相場がない場合、売り手である株主が支配株主で、買い手も親族であったり支配している法人であったりして、価格を操作することができるケースも多くあります。このため税務上では別途規定された「時価」を適用して課税される場合があります。
ここではまず、親族である個人株主が、親族である個人株主が支配している同族法人へ株式を譲渡する場合の主な課税関係をご紹介します。
(1) 売主(個人)
実際の取引価格が時価よりも著しく低い場合、具体的には時価の2分の1未満で譲渡した場合は、時価で譲渡したものとみなされて所得税が課税されます(所得税法第59条第1項)。ここで「時価」は、所得税基本通達59-6で算定したものになります。
(2) 買主(法人)
買主は法人であり、法人税の規定が適用されます。このため法人税法上の時価で取引したものとされますが、法人税法上では時価に関して明確な算定方法の定めがありません。実務上は、法人税基本通達9-1-13、9-1-14に準じて算定します。
時価よりも実際の取引価格が低額であれば、差額は受贈益となり、法人税が課税されます。
個人が個人に譲渡した場合
支配株主が、同じく支配株主である親族へ取引相場がない株式を譲渡した場合をご紹介します。
(1) 売主(個人)
売主が法人の場合とは異なり、時価より著しく低い価格で譲渡したとしても、時価との差額に所得税を課税するという規定はありません。そして時価についても、所得税法上の明確に規定されている条文はありません。
(2)買主(個人)
取引価額が時価よりも著しく低い場合は、差額に贈与税が課税されます(相続税法第7条)。贈与税を課税するための時価であるため、ここでの「時価」は所得税法ではなく相続税法上の時価になり、相続税評価額を算定する必要があります。
ただし、具体的にどの程度低い価額であれば課税されるのかについては、所得税と異なり「2分の1未満の価格」とは明確に規定されていません。
このため個々の具体的事案に基づき判定することになります。しかし実務上では、時価の2分の1未満で取引されているならば「著しく低い」とされ、贈与税が課税されると考えておくべきでしょう。
3計算例
個人から個人へ株式を売却する計算例を考えてみます。
【前提】
・取得価額200万円
・相続税評価額による適正時価300万円
・実際の取引価格100万円
・所得税基本通達59-6における原則的な評価額500万円
【売主】
実際の売却価格100万円-取得価額200万円=▲100万円
このため、所得税はかかりません。そして個人への売却のため500万円の2分の1未満であるかどうかを検討する必要はありません。
【買主】
相続税評価による適正時価300万円-実際の購入価格100万円=200万円から110万円を基礎控除額を差し引いた90万円に対して贈与税が課税されます。
一方、同じ例で個人から法人へ株式を売却する事例を考えてみます。ここで、法人税法上の時価も500万円であると仮定します。
【売主】
実際の取引価格100万円は500万円の2分の1未満であるため、500万円-取得価額200万円=300万円に対して所得税が課税されます。
【買主】
法人税法上の時価500万円-実際の購入価格100万円=400万円に対して法人税が課税されます。
4まとめ
以上、非上場の株式に関する「時価」についてご紹介しました。時価は、所得税法、法人税法、相続税法それぞれで考え方、算定の仕方が異なります。どの時価を算定する必要があるかをまずは明確にした上で計算をしましょう。特に所得税基本通達59-6が、時価の算定においてすべて適用される訳ではないことに注意が必要です。
それぞれの時価の算定は、条文だけでなく状況に合わせた複雑な判断が必要なケースがほとんどであり、専門家へのご相談をおすすめします。時価の算定、税務上の判断については、丸山会計事務所までお気軽にご相談ください。
この記事の監修
税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。
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