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総則6項「伝家の宝刀」が 最高裁判決でお墨付きに。今後の対策は?
投稿日:2022年08月05日
令和4年4月19日の最高裁での判決で、総則6項を適用した国税当局の追徴課税が適法と認定されました。これにより、今までの相続税対策が通用しなくなるのではと話題になっています。
このコラムでは、総則6項とは何かをご説明します。そして総則6項の適用をめぐって争われた令和4年4月19日の最高裁の判例の概要とポイント、および、これから裁判となる、取引相場のない株式の評価を争点とした事案をご紹介し、総則6項が今後の相続税申告に与える影響と対策を解説します。
1. 総則6項とは?伝家の宝刀と言われる理由
総則6項は「そうそくろっこう」と読みます。総則6項とは何か、伝家の宝刀と言われてきた理由と合わせてご説明します。
総則6項とは
総則6項は、財産評価基本通達第1章総則6項の略称です。財産評価基本通達(以下、通達)の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する、とされている規定です。
相続財産は、 基本的に時価を基に評価額を決定します。しかし、一つ一つの財産について時価を調べることはとても困難であり、時価の種類も多いです。このため画一的な評価方法を決めるために、通達があります。実務上は、基本的に通達に基づき評価をします。
そして評価された相続財産に対して相続税の金額が決まります。評価金額を小さくできれば、相続税の金額も少なくできるので、納税者はなるべくそのような評価の方法を採用して節税を図りたいところです。
通達は法律ではありませんが、実務上は通達に依拠して評価されています。ほとんどの相続税申告は通達での評価で指摘されることはありません。実質的に、法律と同様の機能を果たしています。
ところが、通達によって評価をしていても、評価が著しく不適当と国税庁が判断した場合には、通達の評価とは異なり国税庁が評価の金額を決められる、というのが総則6項です。
総則6項の趣旨と伝家の宝刀と言われてきた理由
総則6項は、行き過ぎた節税対策に対抗するための規定です。実務上のルールである通達に反して、国税庁の判断で評価を決定できてしまいます。総則6項が適用される基準は明確にされていないので判断が難しいところです。
通達による評価を一転させる効果があるため、むやみやたらには適用されず、伝家の宝刀といわれてきました。
ところが近年では総則6項が適用されるケースが増えています。このコラムでは、総則6項を適用した国税庁が勝利した最高裁の判例と、これから裁判になる事案をふたつ紹介します。
2. 最高裁判決で総則6項がお墨付きに
令和4年4月19日の最高裁判決の概要とポイントをご紹介します。すでに判例が出ており、最高裁で総則6項がお墨付きになったと話題になりました。
概要は、評価の点にのみ焦点をあてて簡潔に紹介します。
事案概要
平成24年6月に94歳で亡くなった方の相続財産の中で、マンション2棟の評価が争点となりました。
マンションの購入前は、6億円を超える相続財産を所有してしました。
不動産の状況は以下のとおりです。
(1)銀行から一部を借入し、平成21年1月に約8億3,700万円のAマンション、平成21年12月に約5億5,000万円のBマンションを購入。
(2)平成24年6月に亡くなり、相続が開始。通達にしたがって路線価により評価をし、相続税の金額を算出。路線価の評価額は、Aマンション約2億円、Bマンション約1億3,000万円とした。
(3)平成25年3月7日に、上記のBマンションを約5億1,000万円で売却。
(4)平成25年3月11日に、札幌南税務署に相続税の申告書を提出(相続税0円)
これに対して国税庁は不動産鑑定評価をおこなったところ、Aマンションは約7億5,400万円、Bマンションは約5億1,900万円であったとし、総則6項を適用して、路線価による評価は適当ではないとしました。これにより相続人に2億円以上の追徴課税をしたため、訴訟となり最高裁まで争われました。
Aマンション | Bマンション | 合計 | |
取得価額 | 約8億3,700万円 | 約5億5,000万円 | 約13億8,700万円 |
不動産取得にかかる借入金金額 | 6億3,000万円 | 4億2,500万円 | 10億5,500万円 |
売却の有無と価額 | 売却せず | 5億1,500万円 | |
路線価(通達の評価) | 約2億円 | 約1億3,000万円 | 約3億3,000万円 |
通達評価額と借入金との差額(相続財産圧縮金額) | 4億3,000万円 | 2億9,500万円 | 7億2,500万円 |
購入金額と通達評価額の割合 | 23.8% | 23.6% | 23.7% |
不動産鑑定評価(国税庁の評価) | 約7億5,400万円 | 約5億1,900万円 | 約12億7,300万円 |
判決の概要
結果として、実質的な租税負担の公平に反する合理的な理由がある、ということで国税庁が勝利しました。通達に従った路線価での評価は否認されたのです。
今回、総則6項の適用で、通達の評価が否認されたポイントは以下のとおりです。
・路線価と、実質的な時価と考えられる不動産評価額の間に著しい差額があったこと。
・Bマンションについては、相続開始後9か月後に売却をしていて、時価である売却価格は路線価と大きく離れて高かったこと。また、すぐに売却したため、相続対策でのみ不動産を購入したと判断されたこと。
・高齢になって相続直前に、借入をしてマンションを購入したことで、ほぼ節税目的だけであるとみなされたこと。借入をした銀行の内部資料でも相続対策と記載されていた状況証拠があったこと。
裁判所では通達評価額と時価の間におおきな乖離があることについて、その大きな乖離があるという事実を持ってのみでは、総則6項の適用があるのでは無く、そこまでの経緯が大事であるということで、総則6項が最高裁でお墨付きを得た形になりました。
3.総則6項が争点になる裁判が増える?
今後、国税庁が総則6項を適用して、通達の評価を否認してくるケースが増えるのではないかと懸念されています。
税務署での現場調査レベルでも「令和4年4月19日の最高裁判例がありますよね」と言ってくる調査官の方も増えることが予想されます。
上記は不動産の評価が争点になった判例ですが、評価が問題なるのは不動産だけではありません。現在、取引相場のない株式の評価で争われている事案を紹介します。
こちらも、評価の点にのみ焦点をあてて簡潔に紹介すると、概要は以下のとおりです。
(1)A社(A社は薬局チェーン)の代表取締役が亡くなり、相続がおきる。相続人は3名。相続財産の中にA社の株式36%があり、これを3名で分割協議の末、相続した。
(2)A社株式は取引相場のない株式で評価額区分が大会社であった。そこで通達にしたがって、類似業種比準価額を算定して評価をした。1株あたり8,186円、相続株式総額は約1億7.500万円として、相続税の申告をおこなった。
(3)A社は後継者がいなかったため、いったん相続人が代表取締役に就任したものの、相続により取得したと株式と合わせてA社株式をM&AでB社へ売却した。金額は、総額63億円、1株あたり105,068円であった。
国税庁は総則6項により、この株式の評価を1株あたり80,373円であるとして更正処分をしました。国税庁の評価方法は、DCF法(将来生み出すキャッシュ・フローを現在価値に割り引いた計算方法)などの複数の計算方法の平均値です。
この事案のポイントは以下のとおりです。
・通達の評価額と、実質的な時価に著しい差額がある。
1株あたりの通達評評価額は8,186円(時価の10.1%)
総則6項による国税庁が計算した時価80,373円(売却金額の約8割)
・M&Aにより、実質的な時価が明らかになっている。
これから、東京地裁で争われることになる予定です。
4.今後の実務への影響
最高裁の判例では、総則6項が適用になる具体的な判断基準は明らかにされませんでした。このため、実務上は今までと変わらず、事例によってそれぞれ判断していくしかありません。
しかし、最高裁でお墨付きを得たことにより、今後も税務署は行き過ぎた節税に対して厳しい対応をしてくることが予測されます。
今までの判例の傾向から、以下のような状況がすべて当てはまる場合には、総則6項が適用されるリスクがあるので慎重な対応が必要です。
・通達による評価額と、実質的な時価との差額が大きい場合。通達によって評価した相続税評価額の合理性がないと判断される場合。
・実質的な時価が、相続後の売却などによって明らかになっている場合。
・不動産の購入時期から売却時期など、明らかに相続対策であると判断される場合。
・金融機関などの稟議書などで明らかに相続税対策となっている場合
5.総則6項の適用リスクを下げるには
今回の判例で、特に不動産を活用した節税対策は慎重にならざるを得なくなるでしょう。しかし、まったく節税対策ができなくなったという話ではありません。
通達の評価額と実質的な時価に大きな差がある場合には、上記に紹介したポイントに抵触しないように対策をしていくことが重要となります。主な方法は以下のとおりです。
・亡くなる直前ではなく、なるべく早めに相続税対策をすること。
・「節税対策」以外の合理的な理由、例えば投資目的を検討した資料、なぜその物件を購入したかを説明できるようにしておくこと。
・相続財産の売却時期に気を付けること。すぐに売却をすると実質的な時価が明確になってしまい、また、節税目的での保有とみなされるリスクもあります。
6.まとめ
以上、総則6項の内容と、判例、今後の対策についてご紹介しました。
最高裁の判決が出たことで、これからも総則6項が適用される事案が増える可能性があるでしょうし、現場レベルでも税務調査官の方が、最高裁の判例があると言いやすくなります。
しかし、総則6項は行き過ぎた節税に対する規定です。「節税がだめ」なのではなく「行き過ぎた節税がだめ」だということなので、特に節税目的のみだと認定されないような事実の積み上げ、ポイントに気を付けて相続税対策をしましょう。
相続対策は判断が難しいので、税理士への相談がおすすめです。
この記事の監修
税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。
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