税額控除20%の壁 設備投資で使い切る5つの順番
投稿日:2026年07月31日

朝4時起きの税理士、丸山です。
本日は、設備投資の税額控除につきまとう「20%の壁」と、複数の優遇税制を使い切るための順番についてお話しします。
「特別償却より税額控除のほうが得ですよね?」——設備投資のご相談で、これは本当によく聞くフレーズです。
たしかに理屈はその通りで、特別償却は課税の繰延べにすぎませんが、税額控除は法人税そのものが減る、いわば「消えない節税」です。
ところが実務では、税額控除を選んだ会社が結局その恩恵をほとんど受けられなかった、という場面に何度も立ち会ってきました。
理由は単純で、税額控除には「その年の法人税額の20%まで」という控除上限があるからです。
制度を知っていても、順番を間違えると控除枠は静かに消えていきます。
1.控除上限20%——枠は「利益」で決まる
中小企業投資促進税制も中小企業経営強化税制も、税額控除を選んだ場合の控除額は2税制の合計で当期の調整前法人税額の20%が上限です。
それぞれが20%ずつ、合計40%使えるわけではありません。
ここで見落とされがちなのが、控除枠の大きさを決めるのは投資額ではなく、その年の利益だという点です。
たとえば1,500万円の機械を取得し、経営強化税制で10%の税額控除を狙ったとします(※10%の税額控除は資本金3,000万円以下の法人のみ。資本金3,000万円超1億円以下の法人は7%になります)。
理論上の控除額は150万円。
しかし当期の調整前法人税額が500万円なら、控除枠は500万円×20%=100万円までです。
50万円は当期に使えません。
しかも設備投資をした年は、償却費や関連経費で利益が圧縮されていることが多く、控除枠がいちばん細くなるタイミングと重なります。
ここが「20%の壁」の厄介なところです。
投資促進税制・経営強化税制の控除限度超過額は翌期に1年間繰り越せますが、翌期も利益が伸びなければ、繰り越した枠ごと期限切れになります。
「繰り越せるから大丈夫」は、翌期の利益計画がある会社にしか通用しません。
2.特別償却か税額控除か——判断軸は利益の推移
この2択は「どちらが得か」ではなく「今後3年の利益がどう動くか」で決まります。
判断軸は3つです。
第一に、当期の調整前法人税額が十分にあり、来期以降も安定して利益が出る会社は税額控除。
控除枠を使い切れるうえ、減価償却費は通常どおり毎期落ちていきます。
第二に、当期は大きく利益が出ているが来期以降は読めない、あるいは今すぐ手元資金を厚くしたい会社は特別償却や即時償却。
繰延べでも、キャッシュが1年早く戻る価値は小さくありません。
第三に、赤字または法人税額がごくわずかな会社は、そもそも税額控除の枠がほぼゼロです。
この場合は特別償却で将来の黒字期に備えるほうが理にかなっています。
さらに実務上のポイントとして、対象資産が複数ある場合は、資産ごとに特別償却と税額控除を選び分けられます。
全部まとめてどちらかに寄せる必要はありません。
A設備は税額控除で枠を使い切り、B設備は特別償却に回す——この組合せで、控除枠を1円も余らせない設計ができます。
3.複数税制が重なるときの「控除の順番」
設備投資と賃上げが同じ年に重なる会社は珍しくありません。
賃上げ促進税制、投資促進税制、経営強化税制——これらは併用できますが(※ただし、経営強化税制の「E類型」の適用を受ける法人は、その投資計画の期間中、別資産であっても投資促進税制の適用対象から除外され、併用できません)、控除にはそれぞれ限度額があり、適用する順番が法律で決まっています。
設備投資の2税制については、「①投資促進税制の当期分 → ②経営強化税制の当期分 → ③投資促進税制の前期繰越分 → ④経営強化税制の前期繰越分」という優先順位が定められています。
ここは納税者が任意に選べるものではありません。
繰越しができる制度とできない制度、控除上限が20%の制度と別枠の制度が混在するため、この法定された順位によって最終的な控除総額や翌期への繰越額が変わることを、事前に把握しておく必要があります。
決算が固まってから慌てるのではなく、設備の発注前にシミュレーションしておくべき領域です。
なお、同一の資産について複数の税額控除を重ねて適用することはできません。
1つの機械に投資促進税制と経営強化税制の両方を、という設計は通りません。
資産ごとにどの制度を当てるかを割り振る発想が必要です。
4.控除枠を「作りにいく」という発想
ここからが提案型の話です。
控除枠が調整前法人税額の20%なら、控除枠は利益の関数です。
つまり、投資のタイミングを利益の出る期に寄せれば、枠そのものを大きくできます。
実際にあった例です。
期末近くに2,000万円の設備投資を予定していた製造業のお客様は、当初その期に一括で発注する計画でした。
しかしその期は大型修繕が重なって利益が薄く、控除枠は60万円ほどしか取れない見込みでした。
そこで設備を2つに分け、収益力の高い翌期に一部をずらしたところ、2期合計での控除額は当初計画のおよそ2.4倍になりました。
設備の中身は1台も変えていません。
変えたのは順番だけです。
「節税は決算で考えるもの」という発想では、この差は絶対に生まれません。
設備投資は、稟議の段階が勝負どころです。
5.丸山会計事務所の視点——ともに未来を描く
私たちが「攻める税理士」と名乗っているのは、記帳や申告を正確にこなすことがゴールではないと考えているからです。
設備投資は、お金が最も大きく動くタイミングのひとつ。
ここで制度の順番を設計できるかどうかで、手元に残る現金は数百万円単位で変わります。
私たちは、設備の見積書が出た段階、できれば構想の段階からご相談いただき、利益計画と投資計画を突き合わせて控除枠のシミュレーションを行います。
制度を知らなかったために損をした——そんな経験を、名古屋の、そして全国の経営者から一つでも減らしたい。
経営理念「ともに未来を描く」とは、決算書の数字を後から整えることではなく、投資の意思決定そのものにご一緒することだと考えています。
まとめ
税額控除は「消えない節税」ですが、控除枠は2税制の合計で調整前法人税額の20%が上限で、枠を決めるのは投資額ではなくその年の利益です。
特別償却との選択は今後3年の利益推移で判断し、資産が複数あれば制度を割り振って枠を使い切る。
複数税制が重なる年は法定された適用順位を必ず確認する(※E類型の併用制限にも注意)。
そして最も効くのは、投資のタイミングそのものを設計することです。
動き出す前にご相談ください。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務相談については専門家にご確認ください。
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この記事の監修
税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。


