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種類株式の時価とは?サザビー創業者ら80億円追徴取消の裁決

投稿日:2022年09月28日

サザビーリーグの創業者らが、東京国税局から約80億円の追徴課税処分を受けたため、国税不服審判所に審査請求をした結果、審判所は全額取り消しの裁決を2022年1月20日に下しました。金額も大きく、また、全額取り消しはめずらしい裁決です。

審査請求では、種類株式のひとつである「取得条項付株式」の時価をめぐって争われました。このブログでは、この審査請求の概要と争点、裁決の内容についてご紹介します。

1.審査請求の概要と争点

審査請求の概要と争点をご紹介します。

概要

サザビーリーグは大阪証券取引所ジャスダックに上場していましたが、2011年に経営陣(創業者一族)によるMBOにより上場廃止となりました。

創業者の親族が投資会社を設立し、その投資会社がサザビーリーグの普通株式を公開買い付け(TOB)したことによります。

TOBの実施後株式を非上場化し、その後、この投資会社は、サザビーリーグを吸収合併しました。

TOBに際してのお金の流れは以下のとおりです。

  • 投資会社を設立、創業者らが全額出資。具体的には、創業者である鈴木氏、会長の森氏の資産管理会社である三木家が、同社の株式を1株5万円で6万株取得。
  • 資金調達に利用した株式は取得条項付株式であり、将来、投資会社が株主から、その株式を取得する際には「あらかじめ定款で定められた方法」で取得価額を計算することになっていた。(取得条項付株式とは、発行会社が一定の事由が生じたことを条件として、その株式を取得することができる株式をいい、会社法上の種類株式のひとつです)。
  • その後投資会社はサザビーリーグを吸収合併。
  • 投資会社は鈴木氏らが保有していた株式の一部を1株8万円で買戻した。「8万円」は定款で定められた方法で計算している。
  • 鈴木氏らは株式の売却により、9億円の売却益が出たとして税務署に申告。

争点

こうした状況下で、東京国税局は、1株8万円で買い戻した点につき、株式の価額が低すぎると主張しました。

具体的には、サザビーリーグを吸収合併したことにより、投資会社の資産は増えており、純資産価額を基準として1株84万円が相当と判断しました。

国税局は今回の取得条項付株式の取得は、出資の払い戻しに該当するため、残余財産の分配と類似していることから、純資産価額を基準とすることが妥当とし、この考え方により1株84万円を算出。納税者が8万円で評価していたところ、国税局は84万円の評価と判断、10倍以上の金額の差になり、210億円の申告漏れ、80億円の追徴という、多額の処分となりました。

取得条項付株式の買戻し当時は、サザビーリーグは上場廃止になっており、取引相場のない株式です。さらに投資会社が買い戻したのは取得条件付株式という、種類株式の一種です。税務上の種類株式の時価をどのように評価すべきかが争点となりました。

2.種類株式の評価

投資会社が買い戻した金額を1株8万円とした根拠は以下のとおりです。

  • 定款であらかじめ定めた方法で計算をしている。
  • 公認会計士協会の研究報告「種類株式の評価事例」の趣旨に従った評価方法である。

公認会計士協会の研究報告「種類株式の評価事例」では、現金での取得条項付株式の評価は普通株式よりもマイナスになる、とあります。その理由として株式価値が上昇した際にあらかじめ定められた金額で現金化されてしまう可能性があり、利益を放棄しなければならないリスクがあるから、としています。しかし「種類株式の評価方法」として確立した評価方法がある訳ではありません。

3.国税不服審判所の裁決

裁決の主な内容は以下のとおりです。

  1. 国税局が主張する、純資産価額を基準とする評価方法には合理性がない。
  2. 一方で、取得条項付株式は特定の当事者間または特定の事情の下で取引されることを前提としているため、定款にあらかじめ定めているとはいっても、その評価方法が「常に当然に」一般的な不特定多数の間での自由な取引において通常成立すると認められる価額にあたるものとまではいえない。
  3. 国税不服審判所が独自に適正な時価を試算した結果、定款に基づく買戻し金額1株8万円と大きく乖離していない。このため追徴課税の処分は全額取り消しとする。

つまり、国税局の評価も納税者の評価も、どちらも正しいとはせずに、独自に試算をした結果、納税者の評価と大きくかけ離れていないために、納税者の評価でよいとし、追徴課税を取り消すという結論になりました。

それぞれの内容を補足します。

純資産価額を基準とする評価方法には合理性がない

取引相場のない株式は純資産価額を基礎とする方法もありますが、一般的な取り扱いからすれば、ただちにこの方法を採用することが合理的であるとはいえません。

法人間で取引相場のない株式を売買する場合には、直近での取引履歴で参考になるものがあれば、その参考となる金額等を検討し、そのような価額が無い場合には、課税上弊害が無い場合に限り、原則として財産評価基本通達を基に時価を算定します。

その財産評価基本通達を基にした取引相場の無い株式の相続税評価額を計算する方法を基礎として、独自のものを加減算します。

会社の規模に応じた評価方法が採用できるところ、今回はサザビーリーグは大会社に該当し、普通株式であれば課税上弊害が無い場合に限り、類似業種比準価額で評価できます。

国税不服審判所では今回、取得条項付株式だからといって、類似業種比準価額を採用することが不合理である、という事情はみあたらないとしました。

むろん全てのケースで無条件に類似業比準価額は認められるわけではありませんが、今回の場合は特に不合理ということも、見当たらない。

逆に国税局側が「純資産価額で評価することが、合理性がある」ということに対して、議決権制限があること、取得条項付株式により、将来の値上がり益を放棄しなければならない可能性があるものについて、ただちに純資産価額により評価することが必ずしも合理性があるとは言えないとしました。

定款にあらかじめ定めている評価方法が「常に当然に」合理的な評価方法ではない

取得条項付株式について、確立した評価方法がある訳ではないので、定款に定めたとしても「常に当然に」合理的ではないとされました。

国税不服審判所が独自に適正な価額を試算

今回のケースでは、普通株式ならば類似業種比準価額で評価できることから、国税不服審判所は独自にこの方法で試算をしました。

試算した結果、類似業種比準価額は1株8万円よりは高い価額となりましたが、普通株式の時価に比べて取得条項付株式は、議決権の制約や現金による取得条項が減価要因になるという見解があることを考慮すれば、大きな乖離はないとされました。

結果的に、いったん納付された追徴税は全額返還され、納税者の主張がすべて認められる結果となりました。

「牧口大学 牧口晴一さん資料引用」

4.国税不服審判所とは

今回は「裁判」ではなく「国税不服審判所での裁決」でした。国税不服審判所は、税務署長などがおこなった課税処分などに納税者が納得いかない場合に、審査請求ができる機関です。国税庁に設置されていますが、執行機関である国税局などからは分離された別個の機関です。双方の主張を聴き、公正な第三者の立場で審理、裁決をおこないます。

国税不服審判所の審査請求では、裁判の前に、公の機関で判断をあおげます。費用もかかりません。また、裁決は、税務署長等がおこなった処分よりも納税者に不利益になることはありません。

裁決は行政部内の最終判断となります。税務署長等は、裁決の内容を不服として訴訟を提起できません。このため、今回のケースのように納税者(審査請求人)の主張が全面的に認められた場合、国税局側では訴訟にもちこむことはできず、裁決は決定事項になります。

ただし、納税者の主張が認められる確率はあまり高くありません。今回のケースのように全面的に認められるのは稀で、一部だけ認められる確率でも10分の1程度です。国税局からの処分を覆すのは、なかなか難しいといえるでしょう。

5.まとめ

以上、種類株式の評価が争点となった、サザビーリーグの株式をめぐる国税不服審判所裁決についてご紹介しました。

種類株式の評価は、明確な定めがありません。定款にあらかじめ定めておいたとしても、今後も必ずその価額が認められるとは限りません。

今回も、取得条項付株式の買取価額の8万円が、もし、類似業種比準価額での評価と乖離していたら認められなかった可能性もあります。

その都度、状況に応じて合理的な評価価額を判断していくしかないため、専門家とよく相談することをおすすめします。

事業承継、取引相場の無い株式の評価のご相談は丸山会計事務所までご相談ください。

この記事の監修

丸山会計事務所 税理士 代表 丸山和秀

税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀

税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。

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