所得税基本通達59-6の改正と、小会社の類似業種比準価額の斟酌割合
投稿日:2022年09月14日
取引相場のない株式を、個人株主が法人に譲渡した際に、所得税法上の時価をどのように評価するかについて争われた最高裁判決を受け、所得税基本通達59-6が改正されました。これは従来からの取り扱いを変えたものではなく、分かりやすいように改善したものです。
このコラムでは所得税基本通達59-6の概要と、改正により明らかになった内容をご紹介します。
そして、その際に公表されたパブリックコメントから明らかになった「小会社とみなして評価する場合の類似業種比準価額の斟酌割合の明確化」など、判例とともに注目された事項について、今後の実務に与える内容と注意点を合わせてご紹介します。
1.所得税基本通達59-6の概要
所得税基本通達59-6の内容と、改正によって明らかになった内容をご紹介します。
所得税基本通達59-6とは
個人が取引相場のない株式を譲渡した場合の時価は、所得税基本通達23~35共-9がまず基準となり、下記の順番により譲渡時の時価を検討します。
①直近における売買価額
イ)最近における売買実例による価額
→ ほとんど無い、あっても純然たる第3者間の取引とはいいがたい。
ロ)公開途上なら公募等の価額から参考にした価額
→ 公開途上の株式を実際に売買する可能性は滅多になく、殆ど皆無
②類似法人の価額
実務上、類似法人の売買価額は、その情報を得ることができない。
③純資産価額等を参酌して、通常取引されると認められる価額
現実的には①及び②の金額は納税者側では計算をすることが不可能となります。そのため③の価額に落ち着きます。
その③の金額が所得税基本通達59-6により算定した金額となり、所得税基本通達59-6では、その計算方法を財産評価基本通達により計算した金額に一定に調整を行ったものとしております。
そしてもし上記①~③の時価よりも著しく低い価額で法人に譲渡した場合は、時価で譲渡したものとみなして譲渡所得税が課されるとしています(所得税法59条)。
所得税基本通達59-6は、個人が法人に取引相場のない株式(土地や建物などの譲渡所得の起因となるもの)を贈与等した場合の時価を、どのように算定するかを決めている通達です。
令和2年8月28日に改正通達が公表
令和2年3月24日に最高裁判決が出た際に、所得税基本通達59-6がわかりにくいとのことで、通達が改正されました。
今までの取り扱いが変更になったのではなく、あくまで明確化したという位置付けです。株主区分判定は、従来明記されていた「同族株主」判定以外でも譲渡直前の議決権割合によることが明記されました。
2.パブリックコメントの国税庁回答が実務に与える影響
所得税基本通達59-6の改正にともない、意見公募手続(パブリックコメント)が実施され、こちらも令和2年8月28日に結果が公表されました。
そこでは、意見に対して国税庁の考え方が示されています。その際、所得税基本通達59-6に関して、上記の判例の論点とは直接関係ないところの質問と回答が注目されました。今後の実務に影響を与えると思われる点は、以下の2点です。
類似業種比準価額算定上の斟酌割合について明確化
取引相場のない株式の評価の原則は、大会社・中会社・小会社の会社規模に応じて、純資産価額および配当・利益・純資産を加味した類似業種比準価額を併用して評価することとされています。
●大会社・・・類似業種比準価額
●中会社・・・大: 類似業種比準価額✕0.9+1株当たりの純資産価額✕0.1
中: 類似業種比準価額✕0.75+1株当たりの純資産価額✕0.25
小: 類似業種比準価額✕0.6+1株当たりの純資産価額✕0.4
●小会社・・・1株当たりの純資産価額、または、
類似業種比準価額✕0.5+1株当たりの純資産価額✕0.5
(いずれも純資産価額での評価も可能)
財産評価基本通達に基づく取引相場の無い株式の評価方法に基づいて評価を行うと、類似業種比準価額よりも純資産価額の方が、時価が高くなる傾向にあります。
その差は、純資産価額の方が類似業種比準価額に2倍~10倍程度になるこことも珍しくはありません。
このうち、取引相場のない株式を譲渡した個人が、その取引相場の無い株式を発行する会社にとって財産評価基本通達188条の2の条件にあてはまる「中心的な同族株主」である場合には、取引相場の無い株式の発行会社は常に「小会社」に該当するものとして評価するとしています。
他にも要件はありますが、違うブログで触れておりますので、今回は割愛させていただきます。
「小会社」は上記にもあるように、「1株当たりの純資産価額」または「類似業種比準価額✕0.5+純資産価額✕0.5」の折衷割合で評価します。
類似業種比準価額を算出するにあたっては、会社規模に応じた斟酌割合が決まっていて、こちらをかけあわせることになっています。今までは、「小会社」に該当するものとして評価するため、斟酌割合小会社の0.5を適用するとする判断が多くありました。
しかし、その類似業種比準価額を計算するための斟酌割合は、大会社0.7、中会社0.6、小会社0.5であることが、パブリックコメントの国税庁の考え方の中で明記されました。
つまり小会社に該当するものとみなすからといって、類似業種比準価額を計算する上での斟酌割合も小会社の0.5を使用するわけではないことが明らかになりました。税務ソフトで自動計算されていないことが多いので注意したいところです。
比準割合は以下のとおりです。
評価対象会社が有する子会社の評価
取引相場のない株式の評価を純資産価額で評価する場合、その発行会社が子会社の株式を有していて、発行会社が子会社の「中心的な同族株主」である場合には、子会社も「小会社」に該当するものとして評価することが明確化されました。
つまり、通常の相続又は贈与の場合には、評価会社が持つ子会社の株式については、その会社規模区分に応じた相続税評価額で評価を行いますが、所得税基本通達59-6に該当するような、個人から法人への譲渡等の場合には、その子会社は、常に「小会社」に該当するものとして評価すべきということが明らかにされました。
3まとめ
以上、所得税基本通達59-6と、その改正時に明らかになった事項についてご紹介しました。
今まであいまいであった部分が明確化されるのは、判断する事柄が減るので助かるところです。明確化された以上、その点は誤りのないようにしましょう。
また、取引相場のない株式の評価は、判断が難しい面がまだまだ多くあります。評価の際には専門家に相談することをおすすめします。
相続、事業承継のご相談については丸山会計事務所までお問合せください。
この記事の監修
税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。