不動産の生前贈与に「相続時精算課税」は使える?改正後も残る3つの落とし穴
投稿日:2026年04月30日
朝4時起きの名古屋の税理士丸山です。

「年110万円の基礎控除が使えるようになったから、相続時精算課税を選ばない手はない」
——令和6年の改正以降、相続相談でこうした声をよくいただきます。
確かに、少額贈与の申告が不要になり、制度の使い勝手は大きく向上しました。
ただし、不動産を生前に渡すケースでは、この制度を選ぶだけで「相続時に使えたはずの特典」を丸ごと失う場合があります。
本稿では、不動産オーナーや経営者の皆様が特に見落としがちな3つの論点
——①撤回不可、②小規模宅地等の特例が使えない、③登記・取得時の流通コスト——
を整理してお伝えします。
目次
1. 令和6年改正で何が変わったか——「年110万円枠」の使い方
2. 一度選んだら戻れない——暦年贈与への回帰はできない
3. 小規模宅地等の特例が封じられる——最大80%減額の機会損失
4. 登録免許税と不動産取得税——相続と比べた流通コストの差
1. 令和6年改正で何が変わったか——「年110万円枠」の使い方
相続時精算課税は、60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与について、累計2,500万円まで贈与税をゼロにできる制度です。
特別控除を超えた部分には一律20%の贈与税が課税されます。
令和6年1月1日以後の贈与からは、これとは別枠で「年間110万円の基礎控除」が新設されました。
たとえば、毎年110万円ずつ賃貸マンションの持分を刻んで贈与すれば、その部分は贈与税も相続税も課税対象に入りません(基礎控除以下は申告不要)。
超えた部分は贈与時の時価で将来の相続財産に加算されます。
また、令和6年以後に災害で土地・建物が一定以上の被害を受けた場合は、その減価分を加算額から控除できる例外も新設されました。
一見「使わない手はない」と感じますが、不動産を動かす前に次の3点をセットで確認する必要があります。
2. 一度選んだら戻れない——暦年贈与への回帰はできない
この制度の肝は、選択した贈与者からの贈与は「その後ずっと」相続時精算課税で計算される点にあります。
翌年2月1日から3月15日までに「相続時精算課税選択届出書」を提出し、その贈与を受けた年分から、同じ贈与者からの暦年110万円基礎控除は二度と使えなくなります。
精算課税側に年110万円枠があるから同じだと錯覚しがちですが、性格は異なります。
暦年贈与の110万円は生前贈与加算の対象外(ただし改正で相続開始前7年分は加算対象)であるのに対し、精算課税の110万円は持ち戻しが完全に免除される一方で、110万円を超えた部分は何年前の贈与であっても贈与時時価で相続財産に全額加算されます。
父から子への不動産贈与に精算課税を選んだ後は、父から現金を受けても同じ枠内で処理しなければなりません。
選ぶ前に「今後の資産移転プラン全体」を並べて検討することが大前提です。
3. 小規模宅地等の特例が封じられる——最大80%減額の機会損失
相続時精算課税で贈与した宅地には、相続発生時の「小規模宅地等の課税価格の特例」が一切適用できません。
特定居住用宅地等なら330㎡まで80%減額、特定事業用宅地等なら400㎡まで80%減額、貸付事業用宅地等でも200㎡まで50%減額が受けられる可能性があるため、影響額は大きくなりがちです。
たとえば相続税評価額8,000万円の自宅敷地を相続で取得するなら、要件を満たせば課税価格を1,600万円まで圧縮できるケースがあります。
これを生前に精算課税で贈与してしまうと、贈与時の8,000万円そのままで相続財産に加算され、差額6,400万円分の減額の恩恵を失います。
実務では、
①居住用・事業用の宅地は原則として相続で渡す、
②賃貸物件でも特定同族会社事業用宅地等に当たる余地があるかを事前にシミュレーションする、
という順で判断するのが安全です。
「贈与で渡した方がよい不動産」と「相続のまま渡した方がよい不動産」を仕分ける作業が欠かせません。
4. 登録免許税と不動産取得税——相続と比べた流通コストの差
不動産を動かす以上、登記と地方税のコストも避けて通れません。
登録免許税は、相続による所有権移転登記なら不動産の価額の0.4%ですが、贈与による移転登記は2.0%と5倍になります。
さらに不動産取得税は、相続(包括遺贈および相続人への遺贈を含む)であれば非課税ですが、贈与には課税され、土地・住宅の取得は令和9年3月31日までの特例で3%、事務所・店舗などは本則4%がかかります。
固定資産税評価額6,000万円の住宅で試算すると、相続ならば登録免許税24万円のみで済むところ、精算課税による贈与では登録免許税120万円と不動産取得税180万円、合わせて約300万円。
これは贈与税・相続税とは別に発生する「流通コスト」です。
特別控除2,500万円に目を奪われて流通コストを見落とし、「無税で渡せた」と勘違いしてしまうケースは実務でも散見されます。
当事務所では、相続時精算課税で渡すか、暦年贈与で刻むか、それとも相続のまま引き継ぐか
——不動産ごとの評価額・用途・将来の相続財産構成まで踏み込み、複数シナリオを並べてご提案しています。
「ともに未来を描く」を経営理念に掲げる丸山会計事務所では、一度の判断で取り返しがつかなくなる生前対策だからこそ、腰を据えた検討をご支援します。
ご関心のある方は、どうぞお気軽にお問い合わせください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な税務判断を行うものではありません。実際のご判断に際しては、税理士等の専門家へご相談ください。また、税制は改正される場合があります。本記事は令和7年度時点の税制を参考にしています。
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この記事の監修
税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。


