「今月、何日目からが利益ですか」──会社に残る“余力”を、ひとつの比率で測る話
投稿日:2026年08月12日

朝4時起きの名古屋の税理士の丸山です。
先日、顧問先のお肉屋さんで、月次の数字をご一緒に眺めていたときのことです。
その月は、なかなかよい数字でした。粗利も利益も、きちんと黒字で出ています。
社長さんも、ほっとした顔をされていました。
私はふと、こんな問いを口にしてみました。
「社長、今月は──何日目から、社長の利益でしたか」
社長さんは、きょとんとされました。
「何日目から、というと……?」
壁の日めくりカレンダーを、しばらく眺めておられました。
今日は、この「何日目からが利益か」という問いのお話です。
じつはこの一問に、会社にどれだけ余力が残っているかが、まるごと映っているのです。
まず、粗利と固定費のバランスに戻る
いつものおさらいから始めます。
会社の利益Gは、粗利の総額MQと、固定費Fの引き算で決まります。
MQ = F + G
稼いだ粗利MQで、まず固定費Fを払う。
払い終えて、なお残ったぶんが利益Gになる。
順番は、いつもこうです。
先にF、あとにG。
ということは、粗利MQを「Fに消えるぶん」と「Gとして残るぶん」の、ふたつに分けて眺めることができます。
この分け方を割合(率)で表したものが、今日の主役です。
f/m比率 ── 粗利のうち、固定費が食べる割合
まず、粗利MQのうち、固定費Fが食べてしまう割合。
f/m比率 = F ÷ MQ × 100
これは、世間でいう「損益分岐点比率」と同じものです。
いかめしい名前ですが、中身は「稼いだ粗利の何%を、固定費が持っていくか」というだけの数字です。
g/m比率 ── 粗利のうち、手元に残る割合
固定費が食べたあとに残るぶん、つまり利益Gの割合が、もうひとつ。
g/m比率 = G ÷ MQ × 100
f/m比率と g/m比率を足すと、かならず100%になります。
粗利を「消えるぶん」と「残るぶん」に分けただけですから、当たり前ですね。
そして、この残るぶん──g/m比率のことを「安全余裕率」と呼びます。
会社に、あとどれだけ余力があるかを表す数字です。
お肉屋さんの数字で、やってみる
冒頭の社長さんの、その月の数字を並べてみます。
粗利の総額MQが300万円、固定費Fが240万円。
差し引いた利益Gが60万円でした。
f/m比率 = 240万円 ÷ 300万円 = 80%
g/m比率 = 60万円 ÷ 300万円 = 20%
稼いだ粗利の80%は固定費に消え、残った20%が利益として手元に残った、ということです。
さて、ここで最初の問いに戻ります。
このお店は、月に25日、営業しておられました。
25日の80%は、ちょうど20日です。
つまり──。
月のはじめの20日間は、まるまる固定費を払うために走っている。
そして21日目の朝から、はじめて社長さんと社員さんのための利益が、生まれはじめる。
そういう会社だったのです。
社長さんは、しばらくカレンダーの前で指を折って数えておられました。それから机の赤ペンを取って、21日のマスに、小さな丸をひとつ、書き込まれました。
「あと何割まで、持ちこたえられるか」
この安全余裕率20%には、もうひとつの読み方があります。
「あと20%、お客さんが減っても──数量Qが2割落ちても──まだトントンでいられる」という意味です。
粗利が2割減れば、その2割はまるまる利益Gから消えます。
g/m比率が20%ちょうどのこのお店は、2割の落ち込みで利益がゼロになる、ぎりぎりのところ。
逆にいえば、そこまでは持ちこたえられる、という「余力のものさし」でもあるのです。
この比率には、ゆるやかな目安があります。
固定費が粗利の60%より少なくおさまっていれば、かなり優良。
80%台なら、まずまず普通。
90%を超えてくると、そろそろ危ない。
そして100%に届いた月は、粗利で固定費を払いきれていない──つまり赤字、ということになります。
このお店の80%は、「普通」のいちばん上のあたり。黒字ではあるけれど、もうひと息、余力がほしい位置です。
崖までの距離を、ひとつにまとめて見る
少し前に、損益分岐点はひとつではなく、値段・原価・数量・固定費の四つの方向に「崖」がある、というお話をしました。あれは、四方向それぞれに、崖までの距離を測る見方でした。
今日の安全余裕率は、その四つをまとめて、「会社ぜんたいに、あとどれだけ余力が残っているか」を、ひとつの割合で見る見方です。
角度は違いますが、見張っているものは同じ、会社の余力です。
同じ利益でも、固定費の重い会社ほど、少しの落ち込みで赤字に沈む──以前、そんな話もしました。安全余裕率は、その“沈みにくさ”を、そのまま数字にしたものだと思っていただければと思います。
では、この余力を厚くするには、どうすればよいか。
やることは、ふたつしかありません。
固定費Fを軽くするか、粗利MQを増やすか。
どちらでも、f/m比率は下がり、g/m比率──安全余裕率は上がります。
利益が始まる日が、20日目から19日目、18日目へと、前へ前へ動いてくる。そういうイメージです。
月次の数字を見るとき、利益の金額だけでなく、ぜひこの一問を、自分に向けてみてください。
「今月は、何日目から、うちの利益だったろうか」
そして、その日にカレンダーの上で、小さな印をつけてみる。
その印が、月のはじめのほうへ、少しずつ動いていく会社は、静かに、けれど確実に、強くなっていく会社だと、私は感じています。
次回は、少し趣を変えて、業種のお話を。街の飲食店では、ランチの値段を、いったいどうやって決めればいいのか──そんなことを、この5つの数字で考えてみたいと思っています。
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この記事の監修
税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。


