その値上げ交渉、”価格”だけで戦っていませんか?──利益を取り戻す3つの実務テコ
投稿日:2026年05月24日

おはようございます。
朝4時起きの名古屋の税理士丸山です。
原材料費、人件費、外注費、燃料費
──あらゆるコストが上がるなか、「値上げ交渉に踏み切ったのに、なぜか思うように利益が伸びない」「価格表は変えたのに、現場では値引きが横行してしまう」というご相談が増えています。
値上げは”金額”だけの問題ではありません。
中小企業が利幅を取り戻すうえで効くのは、価格表の数字を書き換えること以上に、その数字を裏打ちする「原価の見方」、価格表に載らない「裏の売価」、そして値上げを継続させる「社内の仕組み」です。
今回は、社長が今日から動かせる3つの実務テコを、数値例を交えて整理します。
■ 目次
1. 「粗利」で判断していないか──全社原価で売価ゾーンを引き直す
2. 価格表だけが売価ではない──”裏の売価”で取り戻す利益源
3. 値上げを”続ける”仕組み──ロールプレイと収益改善会議で社内に根を張る
4. 値上げを支える管理会計──税理士が伴走できる領域
1. 「粗利」で判断していないか──全社原価で売価ゾーンを引き直す
多くの中小企業の見積り現場では、「売価−材料費」や「売価−材料費−加工費」で算出した粗利を頼りに価格交渉が行われています。
粗利は経営判断を素早く下すには便利ですが、そこには間接費や販管費が含まれていないため、「いくらまで値引きしても赤字にならないか」という”撤退ライン”が見えません。
たとえば、売価100円・材料費30円・加工費20円の製品で粗利50円・粗利率50%が出ていたとしても、そこには工場の電気代、設備の減価償却費、本社の管理費がまだ織り込まれていない可能性があります。
間接費を全社按分すると1個あたり25円かかっており、本当の利益は5円しかなかった
──というケースは珍しくありません。
ここで効くのが「全社原価」という考え方です。
製造原価だけでなく販管費まで含めた1個あたりの本当のコストを把握し、それを基準に売価ゾーンの下限(撤退ライン)と上限(目標利益ライン)を設定します。
ゾーンを下回る取引には「特別価格申請」のルールを敷き、誰の判断で、どの期間、なぜ安く売るのかを文書で残す。
この仕組みが整うと、「気付かないうちに赤字案件が積み上がっていた」という事態を防げます。
売価=変動費+固定費+利益のうち、利益を確保するために見えない固定費を取りこぼさない
──これが値上げ幅を勘で決めないための土台です
2. 価格表だけが売価ではない──”裏の売価”で取り戻す利益源
値上げ交渉というと、まず製品単価を何%上げるかという話になりがちです。
しかしお客様から見えにくいところに、利益を左右する”売価”が眠っています。
これを「裏の売価」と呼びます。代表的なのは6つです。
①仕様(標準仕様の線引きと設計変更請求のルール)、
②サービス(無償対応の有償化、緊急対応料)、
③数量(最少販売数量、生産ロットサイズ)、
④時間(短納期特急料金、標準リードタイム)、
⑤値引き・入金条件(端数値引きの根絶、支払サイトの見直し)、
⑥現物(預かり在庫、預かり金型、サンプル代)。
たとえば、これまで無償で対応してきた設計変更を「1件あたり3万円」と料金化するだけで、年間50件で150万円。
預かり金型の保管料を「1型あたり月2,000円」と請求するだけで、200型あれば年間480万円。
数字にすると小さなルールが利益に直結することがわかります。
「価格は据え置きでも、これからは追加料金を頂戴します」という伝え方であれば、お客様の心理的抵抗も和らぎ、正面からの値上げ交渉より通りやすい場面も少なくありません。
裏の売価を整理するときに有効なのが「泣き寝入りリスト」です。
営業・製造・購買・経理が、これまでサービスや値引きで会社が吸収してきた費用を一覧化し、すべて金額化していく。
「会社全体でいくら泣いてきたのか」という事実を社員と共有することは、値上げを”社長の仕事”から”全社の仕事”に変える出発点になります。
3. 値上げを”続ける”仕組み──ロールプレイと収益改善会議で社内に根を張る
値上げレターを出して終わり、では仕組みになりません。
価格改定が「営業任せ」になったとたん、「売上が減ると評価が下がる」という担当者心理が働き、値引きで売上を守ろうとする力が再び働き始めます。
半年もすると、せっかく上げた価格がじわじわ元に戻る
──これは多くの中小企業で実際に起きていることです。
そこで大切なのが、値上げを”経営の定例業務”に組み込むことです。
本番の交渉前に社内ロールプレイで想定問答を擦り合わせ、価格改定レターは社長名・社印で発行し、数字を交えながら新価格の適用日まで明記する。
そして月次の「収益改善会議」で、対象顧客ごとの進捗を社長が直接フォローアップする。
次回までの宿題を決め、2か月先まで日程を押さえてしまうと、活動が止まりません。
もうひとつの肝は評価指標です。
営業担当の評価軸を「売上高」から「全社利益への貢献額」に置き換える。
値引きしてでも売上を立てるインセンティブが消えれば、価格を守る行動が自然と続きます。
値上げは一度のイベントではなく、半年・1年かけて積み上げる経営活動だと位置づけることが、結果として一番の近道になります。
4. 値上げを支える管理会計──税理士が伴走できる領域
全社原価をどう積み上げるか、売価ゾーンの下限をどこに引くか、特別価格申請の判断基準をどう数値化するか
──これらはまさに管理会計の論点であり、月次決算の精度と直結しています。
会計事務所は「過去の数字を整える」だけでなく、「これから値段を決めるための数字」を整える役割を果たせます。
部門別損益、製品別損益、得意先別損益。
どこに利益が漏れているのかが数字で見えると、値上げ交渉の優先順位も自然と決まり、現場の納得感も大きく変わります。
■ 結びに代えて
当事務所では、月次決算体制の構築から、部門別・製品別・得意先別の損益見える化、価格改定に耐える管理会計の設計まで、社長の意思決定に寄り添う支援を行っております。
私たちは経営理念「ともに未来を描く」のもと、税務申告だけでなく、御社が値決めと利益確保で迷わない仕組みづくりまでご一緒します。
値上げ交渉に手応えがない時期こそ、まずは数字の見方から見直してみませんか。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な経営判断を行うものではありません。実際のご判断に際しては、税理士・会計士等の専門家へご相談ください。
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この記事の監修
税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。


