「会社をつぶすのは、社長一人である」──それでも私が、この言葉を励ましだと思う話
投稿日:2026年08月05日

朝4時起きの名古屋の税理士の丸山です。
先日、若い二代目の社長さんから、こんなことを頼まれました。
「丸山さん、経営の本を一冊、丸山さんのおすすめで教えてもらえませんか」
私はしばらく考えて、本棚から一冊を抜き出しました。
一倉定(いちくらさだむ)さんという方が、社長さんに向けて書かれた本です。
ただ、お渡しする前に、ひとつだけ断りを入れました。
「最初のほうで、たぶんムッとされます。それでも、最後まで読んでみてください」と。
その社長さんは怪訝な顔をしながら、ページをめくっていきました。
そして、ある一行のところで、ふと手が止まりました。
「会社をつぶすのは、社長一人である」
この言葉が、きつく聞こえるわけ
一倉定さんは、戦後の日本で、数えきれないほどの中小企業の社長さんを指導された方です。
第1回でも少しだけ触れましたが、社長を本気で叱り、本気で励ますことで知られた方でした。
その一倉さんの言葉のなかでも、いちばん有名で、いちばん角が立つのが、この一行だと私は思います。
読んだ瞬間、たいていの人は、心のどこかでこうつぶやきます。
「そうは言っても、この不景気だし」
「材料はどんどん値上がりするし」
「思うように人も採れないし」
私自身、初めてこの言葉に触れたときは、少し身構えました。
うまくいかないことの理由は、いつだって自分の外側に、いくらでも見つかるからです。
電信柱が高いのも、社長の責任
一倉さんには、こんな言い方もあります。
「電信柱が高いのも、郵便ポストが赤いのも、みんな社長の責任だ」と。
初めて聞くと、無茶苦茶な話に聞こえます。
電信柱の高さまで、どうして社長のせいなのか、と。
でも、これはたぶん、こういうことだと私は受け取っています。
「外のせいにした瞬間、社長にできることは、何ひとつなくなってしまう」
景気のせい、お客さんのせい、社員のせい、銀行のせい。
そう考えているあいだは、たしかに気は楽かもしれません。
けれど、自分の手で動かせるものが、ひとつも残らなくなってしまうのです。
だから、これは突き放しではない
私が、この一行をこわい言葉ではなく、励ましの言葉だと思うのは、ここからです。
「会社をつぶすのは、社長一人である」
これは裏を返せば、こういうことでもあります。
「会社を立て直せるのも、社長一人である」
つぶすことができるのが社長だけなら、救うことができるのも、社長だけ。
ハンドルは、景気の手にも、お客さんの手にもありません。
社長ご自身の手のなかにある、ということです。
手のなかにある、5つの数字
このシリーズでずっと眺めてきた、あの式をもう一度思い出してみます。
PQ = VQ + F + G
会社のゆくえを決めるのは、この式に並んだ数字たちです。
Pは価格、Vは1個あたりの原価、Qは数量、Fは固定費、そしてGが利益。
たしかに、「材料が上がった」はVが上がったということですし、「客が減った」はQが落ちたということです。
外からの風で、勝手に動いてしまう数字も、なかにはあります。
けれど、値づけのPは、まだ社長の手のなかにあります。
どの仕事を厚くして、どの仕事を薄くするか、という商品の組み合わせも、社長が決められます。
固定費Fを、どこに厚く使うかも、そうです。
そして何より──
残したい利益Gを、先に置く。
これは、景気にも、お客さんにも、誰にもできません。
社長にしかできない仕事です。
MQ = F + G
先に置いたGと、これから出ていくFを足したものが、来期に稼ぎにいく粗利の目標になる。
第1回で「経営は逆算だ」とお伝えしたのは、まさにこのことでした。
一倉さんの「社長一人の責任」と、西順一郎先生の「逆算のMQ会計」は、じつは同じひとつのことを、別の言葉で言っているのだと、私は感じています。
背中を押されたような気がした
本をお貸しした社長さんは、数日して事務所に来られました。
「最初は、正直カチンときました」
そう笑ったあと、少し声を落として、こう続けられました。
「でも、読み終えたら、なんだか背中を押されたような気がしたんです」
その言葉に、私は深くうなずいていました。
社長さんが帰られたあと、私はもう一度、あの一行を眺めていました。
「会社をつぶすのは、社長一人である」
これは、社長を責めるための言葉ではないのだと思います。
あなたの手のなかに、まだこれだけのものが残っていますよ──と、静かに教えてくれる言葉なのだと。
じつを言うと、この一行は、税理士である私自身にも刺さります。
お客さんの会社のことを、景気のせいにも、時代のせいにもできない。
まず、目の前の数字と、自分の向き合い方次第なのだ、と。
次回は、その社長さんの手のなかに、いま「あとどれくらいの余裕」が残っているのか──あと何割の値下げまで、あと何割の客離れまで持ちこたえられるのかを、数字で測ってみる話をしたいと思っています。
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この記事の監修
税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。


