「経営計画は30分でできる」──電卓ひとつで、本当にやってみた話

投稿日:2026年05月20日

「経営計画は30分でできる」──電卓ひとつで、本当にやってみた話

朝4時起きの名古屋の税理士の丸山です。

先日、ある社長さんが、私の事務所に来られました。

板金加工の町工場を、お父様の代から守ってこられた方です。

ひと通り近況の話をしたあとで、社長さんがふと、こう切り出されました。

「丸山さん、恥ずかしい話なんだけどね。うちの会社、創業から40年、ちゃんとした経営計画なんて、一度も作ったことがないんですよ」

そして、照れたように笑われました。

私は試算表のページをそっと閉じて、机の引き出しから電卓を一台、取り出しました。

「社長、それなら今日、30分だけください」

「30分で、何ができるんですか」

「経営計画です」

社長さんは、半信半疑のような顔で、私を見ておられました。

本に書かれていた、たった4ステップの計画術

私の手元には、いつも、西順一郎先生が編著された『利益が見える戦略MQ会計』があります。

そこに「経営計画は30分でできる」という、なんとも大胆な見出しの章があります。

初めて読んだとき、私はにわかには信じられませんでした。

何ヶ月もかけて分厚い計画書を作っているという社長さんを、私はこれまで何人も見てきたからです。

でも、本に書かれているとおりに自分の手を動かしてみると、本当に30分でできてしまうのです。

立派な計画書を作るのが目的ではない。社長さん自身が「来期、どうやって利益を残すか」を腹に落とすための、たった4つのステップ。

今日はそれを、社長さんと一緒にやってみることにしました。

ステップ①──いくら残したいか、を決める

「社長、まず最初に教えてください。来期、利益はいくら残したいですか」

「えっ、利益ですか。売上じゃなくて?」

「はい、利益のほうからです」

社長さんは、しばらく天井を見上げて考えておられました。

「うーん……銀行への返済が年間400万円。それと、機械の更新のための積立で200万円は欲しい。あとは、自分の役員報酬を、もう少しなんとかしたい」

「では、ざっくり600万円、ということにしておきましょうか」

私が電卓に「600」と打って、紙の真ん中に G=600万円 と書きました。

これで、ステップ①は終わりです。

ステップ②──固定費を、5つの引き出しに分けて並べる

次は、固定費 F です。

『利益が見える戦略MQ会計』では、固定費を5つの種類に分けて並べることを勧めています。

F1 は人件費。社長・社員・パートさんの給料に、社会保険料も全部含めます。

F2 は製造経費と販管費。家賃、電気代、消耗品、車両、通信、私たち税理士へのお支払いなどです。

F3 は金利と営業外費用。

F4 は戦略費。広告、展示会、研修費、ホームページなど、「未来への投資」のための支出です。

F5 は減価償却費。

社長さんと、ひとつずつ電卓を叩いていきました。

F1 は1,400万円、F2 は700万円、F3 は50万円、F4 は100万円、F5 は150万円。

全部足すと、F=2,400万円 になりました。

「思ったより、人件費って大きいんですね」

「ええ、ほとんどの会社で、F1 がいちばん大きな塊になります」

ステップ③──必要な粗利の総額を、足し算で出す

ここからは、ただの足し算です。

MQ = F + G

G(600万円)+ F(2,400万円)= MQ 3,000万円

「来期、3,000万円の粗利を稼ぎ切れば、社長さんが残したい600万円は、ちゃんと手元に残ります」

私がそう言うと、社長さんは「3,000万円ねえ……」と、紙に書かれた数字をじっと見ておられました。

ステップ④──売上高は、いちばん最後に出す

ようやくここで、売上の話になります。

社長さんの工場の m率(売価に対する粗利の率)は、前期でちょうど50%ほどでした。

材料を仕入れて、加工して、納める。材料費と外注費を引くと、おおむね売上の半分が手元に残る、という体質です。

PQ = MQ ÷ m率

3,000万円 ÷ 50% = 6,000万円

「来期の売上目標は、6,000万円。月ならして、500万円。これが今、出てきた数字です」

社長さんは電卓のディスプレイをじっと見て、それから、ほうっとひとつ息を吐かれました。

「丸山さん、私はずっと、来期は8,000万円目指そう、9,000万円目指そう、って漠然と思ってきたんですよ。だけど、6,000万円でいいんですね」

「8,000万円取ったらいけない、ということではありません。ただ、最低でも6,000万円きちんと取れば、社長さんが残したい600万円は、ちゃんと残ってくれる。そういう数字です」

少しの沈黙があって、社長さんがぽつりとつぶやかれました。

「目標が遠すぎて、これまでいつも、どこから手をつけていいか分からなかった。だけど、6,000万円なら、得意先の顔が浮かびますね」

30分で出てきたもの、出てこなかったもの

時計を見ると、本当に、きっかり30分ほどでした。

紙の上に並んでいるのは、たった5つの数字です。

G   600万円

F   2,400万円

MQ  3,000万円

m率 50%

PQ  6,000万円

立派な計画書ではありません。色とりどりの表もグラフもありません。

それでも、社長さんの表情は、いらしたときとは少し違っているように、私には見えました。

「これ、社員にもこのまま見せていいですかね」

「ええ、ぜひ。社員さんと共有しやすい形になっているのが、この計画の、いちばんいいところだと、私は感じています」

私は、心の中でこう思っていました。

立派な計画書を時間をかけて作っても、社長さん自身が中身を覚えていなければ、引き出しの奥でそのまま眠ってしまう。

電卓ひとつ、紙一枚、30分。そのほうが、よほど、毎朝の意思決定に効いてくる──と。

もちろん、ここで出てきた数字は、出発点にすぎません。

この3,000万円という MQ の「札束」を、どこの得意先から、どの仕事で、いくらで、何個取りにいくのか。

そこから先は、社長さんと現場のみなさんで、もう少し時間をかけて練り上げていく仕事です。

それでも、その地図のまんなかに「3,000万円」という数字がぽつんと置かれているかどうかで、毎日の現場の意思決定は、ずいぶん変わってくるのではないかと、私は感じています。

次回は、この紙の上に出てきた5つの数字を、社員さんとどう共有していくか、というあたりに踏み込んでみたいと思っています。

社長さんが頭の中で見ている景色を、現場の言葉に翻訳していく作業──そんなお話ができればと思っています。

 

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この記事の監修

丸山会計事務所 税理士 代表 丸山和秀

税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)

税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。

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