借りている事務所や店舗が、貸借対照表に「資産」と「負債」で載るのをご存じですか?——新リース会計基準で慌てない3つの分かれ道
投稿日:2026年08月01日

朝4時起きの名古屋の税理士丸山です。
「うちは不動産を借りているだけで、買ったわけではない。
だから貸借対照表には関係ない」——長らく、その理解で正しいとされてきました。
ところが企業会計基準委員会が2024年9月13日に公表した企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」(以下、新リース会計基準)によって、この前提が変わります。
原則適用は2027年4月1日以後に開始する事業年度から。
決算期によっては、もう次の期の話です。
しかも影響を受けるのは「リース契約書」を交わしている取引だけではありません。
今日は、借りる側の会社が押さえておきたい3つの分かれ道を整理します。
目次
1. その賃貸借、会計上は「リース」に該当しますか
2. 負債の金額を決めるのは「契約書の年数」ではありません
3. 税務は変わらない——だからこそ申告調整と税効果が生じます
4. いつ、何から着手すべきか
1. その賃貸借、会計上は「リース」に該当しますか
新リース会計基準では、リースを「原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約又は契約の一部分」と定義しています。
従来のように「ファイナンス・リースかオペレーティング・リースか」で入口を分けるのではなく、借手はすべてのリースについて、リース開始日に使用権資産とリース負債を貸借対照表に計上する——これが今回の最大の変更点です。
国際財務報告基準(IFRS)第16号を基礎とした「使用権モデル」への転換であり、これまで支払家賃として損益計算書に流れていた事務所・店舗・倉庫・社宅・駐車場の賃借が、資産と負債として姿を現します。
見落としやすいのが「リースの識別」です。
契約書の表題が賃貸借契約書であろうと業務委託契約書であろうと、名称は関係ありません。
①特定された資産があり、
②その使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利があり、
③その使用を指図する権利がある。
この3要件を使用期間全体を通じて満たせば、契約にリースが含まれると判断されます。
契約を締結した時点で、その契約がリースを含むか否かを判断しなければならない、というのが基準の求めるところです。
なお、借地権や定期借地権の設定に係る権利金等も、原則として使用権資産の取得価額に含めてリース期間で償却する扱いへと変わります。
返ってこない「敷金・保証金(敷引)」も使用権資産になる
店舗やオフィスの賃貸借において、退去時に償却される(返還されない)ことが契約上定められている敷金や保証金があります。
これまでは「長期前払費用」などとして賃借期間で償却していましたが、新リース会計基準では、この「返還されない敷金等」も、使用権資産の取得価額に含めてリース期間にわたり償却するよう求められます。
敷金という名目であっても、会計上はリースの初期コストとして資産に合算される点に注意が必要です。
ロードサイド店舗などで差し入れる「建設協力金」の処理も激変する
ファミレスやコンビニなどの出店時、地主に対して建物の建設資金を差し入れる「建設協力金」方式があります。
これまでは、支払った金額を貸付金や前払費用などに分けて処理するのが一般的でしたが、新リース会計基準では、建設協力金を現在の価値に割り引いた金額を計上し、実際の支払額との「差額」を使用権資産として計上して償却することが求められます。
契約が特殊になればなるほど、新基準がもたらす会計処理の変更も大きくなります。
2. 負債の金額を決めるのは「契約書の年数」ではありません
計上額の巧拙を分けるのが、リース期間の見積りです。
借手のリース期間は、解約不能期間に加えて、「借手が行使することが合理的に確実である延長オプションの対象期間」と「行使しないことが合理的に確実である解約オプションの対象期間」の両方を加えて決定します。
つまり、5年契約であっても更新が事実上見込まれるなら、5年で計算してよいとは限りません。
判定にあたっては、延長・解約時の違約金や残価保証といった契約条件、大幅な賃借設備の改良の有無、解約に伴う移転コスト、事業内容に照らした原資産の重要性などの経済的インセンティブを考慮します。
たとえば、多額の造作をして出店した店舗、特殊仕様に作り込んだ工場や倉庫、立地が事業の生命線になっている本社——いずれも「合理的に確実に更新する」と判断されやすい類型です。
「合理的に確実」とは蓋然性が相当程度高いことを指すとされており、感覚で決めてよい論点ではありません。
この見積り次第で、リース負債の現在価値は数倍に振れます。
負債が増えれば自己資本比率は下がり、借入契約の財務制限条項に触れる可能性も出てきます。
決算書が出てから気づくのでは遅い、というのはこのためです。
3. 税務は変わらない——だからこそ申告調整と税効果が生じます
ここが実務家の腕の見せどころです。
会計が変わっても、法人税法上のリース取引の取扱いに変更はありません。
会計上オンバランスされた使用権資産について減価償却費と利息相当額を計上しても、税務上は従来どおり賃借料として損金算入される——つまり会計と税務がずれます。
結果として、会計処理の変更に伴う申告調整が必要になるケースが生じ、その差異は一時差異として税効果会計の対象になります。
そもそも会計上のファイナンス・リースの判定と、法人税法上のリース取引の判定には、以前から細かな相違があります。
会計上の現在価値基準は割引計算を行いますが、税務上の判定では割引計算を行いません。
貸手が負担する固定資産税や保険料は、会計では分子から控除し、税務では分母に加算します。
新基準の導入は、会計と税務の距離をさらに広げることになります。
4. いつ、何から着手すべきか
原則適用は2027年4月1日以後開始する事業年度からですが、2025年4月1日以後開始する事業年度からの早期適用も認められています。
適用初年度は会計方針の変更として扱われ、原則は遡及適用ですが、累積的影響額を期首の利益剰余金に加減する方法も選択できます。
加えて、既存契約についてリースの識別をやり直さない、期首から12か月以内に終了するリースは簡便的に処理する、といった経過措置も用意されており、短期リースや少額のリースについては使用権資産とリース負債を計上しない取扱いも認められています。
やるべきことの入口は、実は地味です。
まず、社内に散らばっている賃貸借契約・使用契約をすべて棚卸しする。
次に、それぞれのリース期間と割引率(借手の追加借入利子率)を決める根拠を残す。
そのうえで、負債計上後の財務指標と申告調整・税効果のインパクトを試算する。
契約書の山を前にした初動が、そのまま適用初年度の決算の重さを決めます。
当事務所では、賃貸借契約の棚卸しからリース期間の見積り、財務指標への影響試算、申告調整と税効果の設計まで、会計と税務の両側から一体で伴走しております。
「うちは借りているだけだから」と思われている経営者の方こそ、一度ご相談ください。
私たちは経営理念に「ともに未来を描く」を掲げています。
基準の変更を単なる事務負担ではなく、自社の契約と資産の持ち方を見直す機会に変えていく。
その未来を、ともに描かせていただければ幸いです。
【免責事項】本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務・会計判断を行うものではありません。
記事の内容は執筆時点の法令等に基づいており、その後の改正等により取扱いが変更となる可能性があります。
実際の適用にあたっては、必ず税理士等の専門家にご相談ください。
本記事の情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当事務所は責任を負いかねます。
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この記事の監修
税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。


