【第3回】リーダーに不可欠な「智・情・意」のバランスとは?

投稿日:2026年05月29日

【第3回】リーダーに不可欠な「智・情・意」のバランスとは?

「朝4時起きの税理士、丸山です。」

まだ誰も起きていない寝室の静寂のなか、ブログを執筆するのが、私の毎朝のルーティンです。

最近は、シリコンバレーの投資家であるナヴァル・ラヴィカントの哲学的な言葉に触れる機会がありました。

彼は「富は、あなたが寝ている間にも稼いでくれる資産を持つこと」と語りつつも、同時に「正直な人たちと長期的なゲームをすること」の重要性を説いています。

この「長期的なゲーム」という視点は、私が日々向き合っている中小企業の経営や事業承継の本質と、深く通じていると感じます。

事業承継は、私の専門領域の中でも特に多くの時間を割くテーマです。

経営者の方々と共に、自社株の評価額を算定し、特例事業承継税制の活用を検討するなど、次世代へのスムーズなバトンタッチに向けて緻密なスキームを構築します。

しかし、税務上の手続きが完璧に整い、後継者が「会社を大きくしたい」という強い意欲を持っていたとしても、それだけで承継が成功するわけではありません。むしろ、そこからが本当の試練の始まりです。

私は過去に、数字に明るく、最新の経営手法にも精通した優秀な後継者が、古参の従業員たちと衝突し、組織がギクシャクしていく様子を何度か目にしてきました。彼らには、会社を良くしようという「意志」があり、それを実現するための「知恵」も十分にありました。しかし、長年会社を支えてきた現場の職人たちに対する「情」や思いやりが欠けていたのです。

ここで、渋沢栄一の『論語と算盤』における人間学が、非常に鋭い示唆を与えてくれます。 渋沢は、人が世の中に立ち、物事を成し遂げるために不可欠な完全な「常識」とは、「智・情・意」の三つが権衡(バランス)を保ち、平等に発達した状態であると説きました。

「智」とは、物事の是非善悪や利害得失を見分ける知恵やスキルのことです。

現代の経営に置き換えれば、財務諸表を読み解く力や、市場を分析する戦略的思考と言えるでしょう。

「意」とは、目的意識や強固な意志のことです。

困難な状況にあっても諦めず、道を切り拓いていく推進力です。

そして「情」とは、他者への情愛や思いやり、人の心の機微を理解する力です。

渋沢は、これら三つのうちどれか一つでも欠ければ、完全な人にはなれないと語っています。

例えば、知恵(智)と意志(意)が飛び抜けていれば、大きな実績を上げる「偉き人」にはなれるかもしれません。しかし、他者への思いやり(情)がなければ、周囲の反発を招き、極端から極端へと走り、最終的にはその成功を持続させることはできないと警告しています。先ほどの事業承継の例も、まさに「情」が不足していたために生じた摩擦と言えます。

愛知、岐阜、三重という東海三県には、世界的なものづくりの基盤があり、そこには長年にわたり技術を磨き、従業員や取引先、地域社会との絆を大切にしてきた中小企業の経営者たちがいます。

彼らの経営姿勢を見ていると、決して派手さはありませんが、智・情・意のバランスが非常に高い次元で保たれていることに気づかされます。

数字(算盤)に厳しく、自社の技術を向上させる強い意志を持ちながらも、現場で汗を流す従業員への温かい眼差しや、取引先との義理人情を重んじる姿勢。

これこそが、長期的なゲームを勝ち抜くための「全き人(完全な人)」のあり方なのだと思います。

私自身、経営のシミュレーションであるMG(マネジメントゲーム)に参加することがありますが、そこでも同じことを感じます。

目先の利益(智)や勝つこと(意)ばかりに執着するプレイヤーは、一時的にトップに立っても、最終的には周囲からの協力を得られず失速しがちです。

全体の場の空気や、他者との協調(情)を大切にする人が、結果として長期的に強い経営を実践しています。

経営者にとって、後継者に「智(スキル)」や「意(覚悟)」を伝えることは比較的容易かもしれません。

しかし、「情(思いやり)」をどのように育むか。それは、マニュアルや座学で教えられるものではなく、日々の経営者の背中を通じて、組織の文化として静かに継承していくしかないのではないでしょうか。

事業承継という大きな節目において、私たち税理士は数字や税務の専門家として、後継者の「智」をサポートします。しかしそれ以上に、経営者が大切にしてきた「情」の部分を、後継者がどう受け継ぎ、自分なりの智・情・意のバランスをどう築いていくのか。その過程に寄り添い、時には共に悩む壁打ち相手でありたいと願っています。

次回、第4回は、この「情」にも通じる、他者の本質を見抜くための人間観察法「視・観・察」について考えてみたいと思います。採用や取引先との関係構築において、表面的な言葉や行動の奥にある真意をどう見極めるのか。経営者にとって非常に実践的なテーマです。

いつの間にか、外は明るくなり、子供の目覚まし時計の音が聞こえます。

今日もまた、智と情と意を総動員して、クライアントの皆様と真摯に向き合う一日が始まります。

 

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この記事の監修

丸山会計事務所 税理士 代表 丸山和秀

税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)

税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。

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