「停滞は、利益が眠っている時間」──リードタイム短縮がなぜお金に直結するのか、という話
投稿日:2026年06月24日

朝4時起きの名古屋の税理士の丸山です。
先日、顧問先の金属加工の工場にお邪魔したとき、社長さんが少し困ったような顔で、こう切り出されました。
「丸山さん、申し訳ないけど、先にちょっと、うちの倉庫を見てもらえますか」
案内されたその置き場には、加工の途中で止まっている部品が、棚いっぱいに積み上がっていました。
社長さんは、それを見ながらぽつりと言われました。
「受注はね、ありがたいことに過去最高なんです。
現場も毎日フル稼働で、みんなよう動いてくれてる。……なのに、なぜか資金繰りがずっと苦しくてね」
私は、その棚を眺めながら、静かにうなずいていました。
忙しさと、手元のお金は、必ずしも同じ方向を向かない。
その理由の多くが、この「止まっている部品の山」に隠れているのです。
リードタイムの正体
製造業の社長さんと話していると、「リードタイム」という言葉がよく出てきます。
材料が工場に入ってから、製品になってお客さまのところへ出荷されるまでの、ぜんぶの時間のことです。
このとき、つい見落とされがちなことがあります。
リードタイムの大半は、実は「作っている時間」ではない、ということです。
その工場で、一緒に数えてみました。
ひとつの部品が、材料として入ってから出荷されるまで、平均でおよそ20営業日。
ところが、機械が実際にその部品を削っている時間は、合わせても2日ほどでした。
残りの18日。
部品はただ、棚の上で順番を待っているだけだったのです。
この「ただ待っているだけの時間」を、現場では「停滞」と呼びます。
そして、この停滞こそが、社長さんの資金繰りを静かに圧迫していた正体でした。
止まっている部品は、寝ているお金
ここで、いつものMQ会計の記号を思い出してみます。
Vは1個あたりの変動費、つまり材料費や外注費。Qを掛けたVQが、その総額でした。
棚に積まれた仕掛品は、見た目はモノですが、中身は「すでに払ってしまったVQ」です。
材料を仕入れたお金、外注先に支払ったお金が、製品になりきれないまま、部品の姿でそこに眠っている。
その工場では、常時およそ1,800万円分のVQが、仕掛品としてこの置き場で寝ていました。
出荷されて、お客さまから代金をいただいて、はじめてそのお金は手元に戻ってきます。
出荷されるまでは、こちらが立て替えたまま。だから、忙しいのに、お金がない。
「止まっている時間」は、お金が眠っている時間でもあるのです。
停滞が止まっているあいだも、Fは動き続ける
もうひとつ、見過ごせないことがあります。
部品が棚で待っている18日のあいだも、家賃は出ていき、社員の給料は発生し、機械のリース料や借入の金利も、時計の針のように進み続けます。
これらはぜんぶ、固定費Fです。
Fは、モノが動いていようと止まっていようと、おかまいなしに出ていきます。
つまり停滞とは、「Mを1円も生まないのに、Fだけは食べ続けている時間」なのです。
私は前に、カイゼンとは同じFからより多くのMQを取り出すことだ、とお伝えしました。
リードタイムの短縮は、まさにその王道のひとつです。
なぜ止まるのか──工程待ちとロット待ち
では、なぜ部品は止まるのか。
現場の方に教わると、停滞の理由は大きく2つに分けられるそうです。
ひとつは「工程待ち」。
前の工程が空くのを待つ、順番待ちです。
ラーメン屋さんの外にできた行列を思い浮かべると、わかりやすいかもしれません。お店に入れなければ、どれだけお腹が空いていても、一杯は出てこない。
もうひとつは「ロット待ち」。
100個まとめて作ろうとすると、最後の1個が出来上がるまで、先にできた99個はずっと待たされます。
この工場では、ロットを小さく分け、工程と工程をなるべく途切れさせない流し方に少しずつ変えていきました。
すると、平均20営業日かかっていたリードタイムが、半年ほどかけて、およそ10営業日まで縮みました。
縮めると、何が起きたか
リードタイムが半分になると、置き場の景色が変わりました。
まず、棚で眠っていた仕掛品が、約1,800万円分から、半分の900万円ほどに減りました。
差額のおよそ900万円が、現金として手元に戻ってきたのです。
新しい設備を買ったわけでも、値上げをしたわけでもありません。ただ、お金が眠る時間を短くしただけです。
次に、出荷がスムーズに流れるようになりました。
同じ社員、同じ機械、同じF──つまり固定費はそのままで、月の出荷高(PQ)が3,000万円から3,300万円ほどに増えました。
m率40%の工場ですから、MQは1,200万円から1,320万円へ。Fが1,000万円のままなので、利益Gは200万円から320万円へと増えました。
おまけに、在庫を抱えるための借入が軽くなり、金利という名のFまで、少しだけ下がりました。
社長さんは、すっかり片付いた置き場を見渡して、こうつぶやかれました。
「うちは……忙しかったんやのうて、停滞しとっただけやったんですね」
私は、その言葉に深くうなずいていました。
停滞は、問題を隠してしまう
リードタイムを縮める過程で、もうひとつ面白いことが起きました。
それまで見えていなかった問題が、次々と表に出てきたのです。
部品がたっぷり溜まっているうちは、たとえ機械が一台止まっても、次の工程は溜まった在庫を使って作業を続けられます。だから、トラブルが起きていることに、誰も気づきません。
停滞は、現場の問題を、そっと覆い隠してしまうのです。
流れを速くすると、その覆いがはがれます。
一台止まれば、すぐ次が困る。だから、止まった理由を本気で直すようになる。
リードタイムの短縮は、お金を生むだけでなく、現場が自分で問題を見つけて直していく力まで、連れてきてくれるのだと感じています。
もしよろしければ、いちど自社の製品で数えてみてください。
材料が工場に入ってから出荷されるまで、何日かかっているか。
そのうち、実際に手をかけている時間は、何日か。
その差が、棚の上で眠っているお金の大きさです。
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この記事の監修
税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。


