経営力向上ブログ

諦めるのはまだ早い!工場内設備には経営力向上計画が使えます

投稿日:2022年08月17日

設備投資促進税制の一つである「中小企業経営強化税制」は、その名のとおり中小事業者が経営強化の目的で一定の設備投資を行った場合に、投資額の全額が即時償却または投資額の10%の税額控除を受けられる制度です。

この制度を利用するための条件が決められているのですが、一部では勘違いをして制度を利用していない事例が見られます。

この記事では中小企業経営強化税制を改めて確認しながら、この制度を利用する方法について解説します。

1.経営力向上計画と中小企業経営強化税制

「経営力向上計画」は、中小企業の新たな事業活動の促進を図るための「中小企業等経営強化法」という法律に基づいて策定されるもので、中小企業庁に認定されると様々な優遇措置を受けられます。そしてその優遇措置の一つが「中小企業経営強化税制」の適用です。

はじめにこれらの制度の概略について説明します。

経営力向上計画とは何か

経営力向上計画は、2016年(平成28年)7月から始まった制度で、その目的は経済成長の実現に不可欠な中小企業の経営力向上です。中小企業庁の支援制度の中でも対象範囲が広いことが特徴となっています。

令和4年5月31日現在認定を受けている件数は140,690件となっており、357万社といわれる中小企業の数と比べると、割合は3.9%とまだまだ認知度が低い制度となります。

経営力向上計画の認定について【中小企業等経営強化法】(速報値)220531認定の内訳

中小企業庁:中小企業・小規模事業者の数(2016年6月時点)の集計結果を公表します

計画の具体的な中身ですが、中小企業庁が21の事業分野ごとに指定する経営指標(例えば製造業の場合「労働生産性」「売上高経常利益率」「付加価値額」)を、3年から5年で向上させる計画であることが求められます。

目標達成のため計画に盛り込むべき取組みについても、21の事業分野別指針に具体的に記載されていて、つまり中小企業庁が「これをやれば経営力が向上する」といった内容になっています。

こちらについてはあくまでの計画のため、こちらの計画どおり実行できなかった、あるいは設備投資を行ったが、計画どおり売上に結び付かなかったとしてもペナルティはありません。

該当する事業者の範囲

経営力向上計画の認定を受けられる事業者の範囲はかなり広くなっていて、「資本金10億円以下の会社または従業員2,000人以下の会社・個人」「医業・歯科医業を主たる事業とする法人、社会福祉法人、特定非営利活動法人で資本金もしくは出資の10億円以下の会社または従業員2,000人以下の法人」となっています。

また指定されている事業分野は以下の21分野です。

製造業、卸・小売業、外食・中食、旅館業、医療、保育、介護、障害福祉、貨物自動車運送業、船舶産業、自動車整備、建設業、有線テレビジョン放送業、電気通信、不動産業、地上基幹放送分野、石油卸売業・燃料小売業、旅客自動車運送事業、職業紹介事業・労働者派遣事業分野、学習塾業分野

 

見て分かるとおり、業種によっては指針の策定されていない分野もあり、その場合は「基本指針」を参考に計画を作る必要があります。解釈も難しくなるので、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

この事業分野で良く問題になるのが、太陽光による売電事業と医療法人などです。

太陽光にかかる売電事業は、売電のみを目的とする場合には、電気事業に該当するため経営力向上計画については対象事業から除外されているため、適用ができません。(共-24)

中小企業経営強化税制 Q&A集(ABC類型共通)質問

医療法人については対象資産の箇所で確認します。

経営力向上計画によるメリット

経営力向上計画の認定を受けることで大きく3つのメリットがあります。一つは税制上のメリットで、法人税では新規の設備投資をしたとき「即時償却」か「取得価額の10%(資本金が3千万円を超え1億円以下の法人は7%)の税額控除」を受けられます。また「事業承継等のために土地や建物を取得する場合の登録免許税と不動産取得税が軽減」や、「事業承継等に伴って株式等を取得して70%までの金額を準備金として積み立てた場合、その額を損金算入できる」とされています。

二つ目のメリットが金融支援です。認定を受けると日本政策金融公庫から設備投資に必要な資金の融資が受けられたり(中小事業者のみ)、信用保証協会の別枠保証や保証枠の拡大を受けられたりします。

三つ目のメリットが経営力向上計画による事業承継等(合併、会社分割、事業譲渡、事業協同組合設立)の法的支援です。事業承継を考えている事業者であれば、利用の可否について専門家に相談しましょう。

2.中小企業経営強化税制の実務

かなり大々的に展開している経営力向上計画の認定ですが、それを後押しするための「中小企業経営強化税制」の中身はどうなっているのでしょうか。

ここからは、実際に中小企業経営強化税制を適用させるための実務について考えます。

中小企業経営強化税制の内容

経営力向上計画を後押しする「中小企業経営強化税制」ですが、こちらの適用範囲はかなり限定的になってしまいます。

経営力向上計画の認定は必須ですが、さらに青色申告している法人のうち「資本金1億円以下」であって、大規模企業の支配下あるいは大きな影響を受けていない法人です。具体的には「その発行済株式または出資の総数または総額の2分の1以上を同一の大規模法人に所有されている法人」や、「その発行済株式または出資の総数または総額の3分の2以上を複数の大規模法人に所有されている法人」は適用対象外となります。

また「資本または出資を有しない法人のうち常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人」も該当しませんが、これはマンションの管理組合などのことです。

適用対象資産

適用対象資産も色々と条件が付くのですが、まず新品の購入でなければならず「この制度の対象となる資産は、その製作の後事業の用に供されたことのない生産等設備を構成する機械および装置、工具、器具および備品、建物附属設備ならびにソフトウェア」と書かれています。

またあくまで生産(事業)等設備であることが求められるので、本社や福利厚生施設での設備投資は適用外です。

ただし貸付の用に供する資産(レンタル用建機など)も対象外となります。

それぞれには最低価額が決められていて、以下の通りです。

機械および装置 1台または1基の取得価額が160万円以上のもの
工具、器具および備品 1台または1基の取得価額が30万円以上のもの
建物附属設備 一の取得価額が60万円以上のもの
ソフトウェア 一の取得価額が70万円以上のもの

つまり経営力向上のための設備投資であっても、中古の生産設備や工場建物の躯体部分の建築などは、中小企業経営強化税制が適用されないことになっています。

また、医療法人が購入する医療用機械については、そのほとんどが勘定科目が機械装置では無く、器具備品に該当し、30万円を超えるのですが医療用機械装置については、適用対象にならない場合が多いです。医療法人の場合にはその他に違う税額控除や特別償却の規定が設けられています。

対象となる事業とは

適用対象資産も制限があるのですが、対象となる事業についても指定されていて、以下の各事業になります。

製造業、建設業、農業、林業、漁業、水産養殖業、鉱業、採石業、砂利採取業、卸売業、道路貨物運送業、倉庫業、港湾運送業、ガス業、小売業、料理店業その他の飲食店業(料亭、バー、キャバレー、ナイトクラブその他これらに類する事業にあっては、生活衛生同業組合の組合員が行うものに限ります。)、一般旅客自動車運送業、海洋運輸業、沿海運輸業、内航船舶貸渡業、旅行業、こん包業、郵便業、情報通信業、損害保険代理業、不動産業、駐車場業、物品賃貸業、学術研究、専門・技術サービス業、宿泊業、洗濯・理容・美容・浴場業、その他の生活関連サービス業、映画業、教育、学習支援業、医療、福祉業、協同組合(他に分類されないもの)およびサービス業(他に分類されないもの)

なお娯楽業(映画業を除く)は対象になりません。つまりパチンコ店などです。また、性風俗関連特殊営業に該当する事業も対象となりません。

しっかり資産の区分を行えば対象になるケース

先ほども触れましたが、経営力向上のための大きな設備投資といえる工場新設で建物の躯体部分については対象にはなりません。しかし工場の建設には様々な資産が含まれているので、しっかりと仕訳し資産計上することで、一部は適用対象資産になるのでチェックすることをおすすめします。

また、国税庁は、建物と建物付属設備を区分するこは絶対としており、区分しない方が誤りと国税不服審判所でも裁決事例があります。

そのため工場の新設などを行った場合には、工事請負契約書、見積書から建物と建物付属設備等の、資産の区分を明確にして、建物の付属設備の部分については、経営力計画が使える可能性がありますので、注意してみてください。

弊社以外のお客様で見積書や最終的な請求書などで「工場建設工事一式」と書かれていて、まとめて建物に計上してしまうケースが見られます。しかし中身を見ていくとエアコンや電気設備、給排水設備など、建物附属設備に計上できる資産が混じっているはずです。

これらを建物ではなく建物附属設備へ計上することで、中小企業経営強化税制の対象資産になるので、工事内容などはよく目を通しておきましょう。

3.まとめ

経営力向上計画と中小企業経営強化税制の関係と、実務上の注意点を解説してきました。経営力向上計画の間口の大きさと比べ、中小企業経営強化税制のほうは控えめすぎる印象を受けます。しかし利益が出ている法人にとって即時償却、税額控除等ができる点は魅力的です。

また、事前に経営力向上計画を出すことが出来なかった場合で中小企業経営力強化税制が使えない場合のおいても、中小企業投資促進税制が使える場合もあります。

設備投資に関する税制は本当の多く存在しています。適用漏れがないか、いまいちど税理士さんに相談することをおすすめします。

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この記事の監修

丸山会計事務所 税理士 代表 丸山和秀

税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)

税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。

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