「作れば作るほど、儲かって見える」──帳簿の利益が増えたのに、お金が減った話

投稿日:2026年07月15日

「作れば作るほど、儲かって見える」──帳簿の利益が増えたのに、お金が減った話

朝4時起きの名古屋の税理士の丸山です。

 

先日、顧問先の木工所を訪ねると、社長がいつになく機嫌のよい顔で、月次試算表を一枚、私の前にすっと差し出されました。

「丸山さん、見てくださいよ。
今月、利益が倍以上になったんです」
工場をフル稼働させて、たくさん作って、一脚あたりの原価をぐっと下げたのだ、と胸を張られます。

私は「それはよかったですね」と応じながら、内心、ほんの少しだけ引っかかっていました。
すると社長は、同じ口で、こう続けられたのです。

「それがね、丸山さん。
利益は増えとるはずやのに、なぜか銀行の残高は、先月より減っとるんですわ」

私は、その一言を聞いて、ああ、と思いました。
これは、まじめな社長さんほど、静かにはまってしまう落とし穴なのです。

利益が増えたのに、お金が減る

帳簿の上では利益が増えている。
なのに、手元の現金は減っている。
一見、矛盾しているように思えます。

でも、これはこの木工所だけの、特別な話ではありません。
製造業や建設業のように「モノを作って、在庫を持つ」会社では、わりとよく起こることなのです。

からくりは、「原価計算のやり方」に隠れています。

原価計算には、二通りある

じつは、モノの原価を計算するやり方には、二つの流儀があります。

ひとつは、材料費に、工場で働く人の手間賃や、工場を動かす経費を全部乗せて原価とするやり方。
これを「全部原価(FC)」と呼びます。
税務署に出す決算書は、必ずこのやり方で作らなければなりません。

もうひとつは、経営の実態をつかむためのやり方で、「直接原価(DC)」と呼びます。
こちらは、売れた分の変動費──材料費のようなもの──だけを原価と考えます。

同じ会社の、同じ一か月を計算しても、このどちらの目で見るかで、出てくる利益の顔つきが変わってしまうのです。

木工所の数字で、並べてみる

先ほどの木工所は、木のスツールを作っています。数字をうんと簡単にして、一緒に並べてみましょう。

一脚の売値Pが10,000円、材料費Vが4,000円。
差し引きMは6,000円、m率でいえば60%です。
ふだんは月に500脚を作って、500脚を売っています。

PQ=500万円 VQ=200万円 MQ=300万円

ここに、工場の人件費や製造経費、それに事務所の販管費まで含めた固定費Fが、ざっと260万円。
すると利益Gは、300万円から260万円を引いて、40万円です。

MQ=F+G(300万円=260万円+40万円)

さて、ここからが本題です。
社長は「原価を下げよう」と考え、同じ月に700脚を作りました。
ところが売れるのは、やはり500脚。
差の200脚は、そのまま倉庫に積まれます。

作った脚数が増えたので、固定費を頭数で割った「一脚あたりの製造原価」は、8,200円から7,000円へと、たしかに下がります。
帳簿の上では、これで利益がぐんと増えて見えるのです。
40万円だったはずの利益が、100万円に化けました。

在庫に紛れ込む、固定費

なぜ、作っただけで利益が増えて見えるのでしょうか。

からくりは、こうです。
工場の手間賃や経費は、その月に出ていく固定費です。
本来なら、まるごとその月の費用になるはずのものです。

ところが全部原価FCでは、この固定費が、売れ残った200脚の「評価額」の中に、こっそり紛れ込みます。
売れ残った在庫は資産として翌月に繰り越されますから、そこに含まれた固定費も、当月の費用から外れて、先送りされる。
費用が減れば、その分だけ、利益は増えて見える──というわけです。

今回でいえば、増えて見えた60万円の正体は、200脚の在庫の中に隠れた固定費、そのものでした。
これを「架空利益」と呼びます。
売れて生まれた利益ではなく、倉庫に積むことで作り出した、幻の利益なのです。

だから、銀行の残高は減っていたのです。
200脚を余分に作った分、材料代の現金は先に出ていき、製品は売れずに倉庫で眠っている。
利益は増えたように見えて、お金はむしろ細っていた。

直接原価DCで見ると、景色が変わる

同じ数字を、今度は直接原価DCで並べ直してみます。

DCでは、原価は売れた分の材料費だけ。
作った脚数がいくつであろうと、売れたのは500脚ですから、MQは300万円のまま。
固定費Fの260万円も、作った量では動きません。
だから利益Gは、やはり40万円。
増えても、減ってもいないのです。

MQ=300万円 F=260万円 G=40万円(増産しても不変)

作っただけでは、利益は1円も生まれない。
利益が生まれるのは、製品がお客さまの手に渡った、その瞬間だけ──。
直接原価DCは、その当たり前の感覚を、そのまま数字の形にしてくれます。

私は社長に、この二枚の紙を並べてお見せしました。
社長はしばらく数字を見比べたあと、ぽつりと、こう言われました。

「利益が増えたと思っとったのは……倉庫に、利益を積んどっただけやったんですね」

その通りなのです。
帳簿の利益は、増やそうと思えば、作りすぎるだけで増やせてしまう。
でもそれは、一円のお金にも変わってくれない、幻なのです。

決算書や試算表の利益が、前より増えたとき。
一度だけ、こう問うてみてください。
「この利益は、売れて増えたのか。
それとも、倉庫に積んで増えたのか」と。

そして、その利益の横に、銀行の残高をそっと並べてみる。
ふたつの数字が同じ方を向いていれば、それは本物の利益です。

次回は、少し角度を変えて、「決算書は“死亡診断書”のようなものだ」という、税理士の私自身が、つい口にしてしまう話を書いてみたいと思っています。
過ぎたことしか映さない紙と、これからを決める数字の、違いについてです。

帳簿の利益が、にっこり笑っている月ほど、その足元の倉庫を、そっとのぞいてみる。
私は、そう思っています。

 

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この記事の監修

丸山会計事務所 税理士 代表 丸山和秀

税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)

税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。

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