「決算書は、死亡診断書です」──税理士の私が、言ってしまう話
投稿日:2026年07月25日

朝4時起きの名古屋の税理士の丸山です。
先週、ある顧問先で決算報告を終えて、帰り支度をしていたときのことです。
社長さんが、製本した決算書のファイルをパタンと閉じて、こう言われました。
「先生、ありがとうございました。これで今期も、無事に終わりました」
いい報告でした。数字も、決して悪くありませんでした。
それなのに私は、車に乗ってエンジンをかけたあとも、「終わりました」というその一言を、ずっと考えていました。
そうなんです。
決算書は、終わったことしか書いていない紙なのです。
そして私は毎年、その紙を、いちばん丁寧に作って、お届けしている。
決算書は、誰のために作られているか
決算書は、もともと社長のために作られた書類ではありません。
税務署のため、銀行のため、株主のため──つまり「外に報告するため」の書類です。
だから様式は国が決めますし、中身は税法に大きく左右されます。
同じお金の使い方が、法律がひとつ変われば、今年は「経費」になり、来年は「資産」になる。
社長の実感とはまったく関係のないところで、利益の数字が上下してしまうことがあるのです。
外に報告する紙としては、それでいいのだと思います。
ただ、社長がこの先を決めるための紙かというと──それは、まったく別の話です。
過ぎたことしか、映っていない
そのうえ、決算書は遅れて届きます。
期が締まってから、製本された決算書が社長の手に渡るまで、二カ月、三カ月。
つまり社長は、「三カ月前の自分の会社」を、いま初めて詳しく知ることになります。
その三カ月のあいだにも、材料は仕入れられ、給料は払われ、会社は走り続けているのに、です。
死亡診断書、という言い方があります。
ずいぶん乱暴な言葉だと、若いころの私は思っていました。でも、税理士を長くやるほど、否定できなくなってきました。
死亡診断書には、いつ、何が起きたかが、正確に書いてあります。
けれど、そこに書かれた本人に、これからどうするかを選ぶ余地は、もうありません。
決算書も、それと同じです。
正確です。
正確なのですが、過ぎたことについて正確なのです。
解剖はできる。でも、それは経営ではない
以前このシリーズで、決算書をPQ・VQ・MQ・F・Gの5つに並べ替えれば、次の一手の優先順位が読める、という話を書きました。
あれは、いま思えば「解剖」です。
解剖からは、たくさんのことが学べます。どこが弱かったのか、何が効いていたのか。
けれど解剖は、どこまでいっても、終わったからだに対してすることです。
いま生きて走っている会社を、明日どちらに向けるか──それは、解剖では決まりません。
決算書のいちばん下の行を、どれだけ長く睨んでも、来期は1円も変わらないのです。
同じ決算書に見えて、中身がまるで違う二社
たとえば名古屋市内に、こんな二社があったとします。
A社は自動車部品の卸売。B社は金型の設計・製作。
どちらも年間の売上高(PQ)は1億2,000万円。
経常利益(G)は300万円。
決算書の最初の一枚だけを見比べたら、ほとんど同じ会社に見えます。
でも、中身はこうです。
A社:PQ 1億2,000万円 / VQ 9,600万円 / MQ 2,400万円(m率20%)/ F 2,100万円 / G 300万円
B社:PQ 1億2,000万円 / VQ 4,800万円 / MQ 7,200万円(m率60%)/ F 6,900万円 / G 300万円
MQ = F + G
同じ300万円の利益でも、A社は2,400万円の粗利から、B社は7,200万円の粗利から、その300万円にたどり着いています。
背負っている固定費の重さが、3倍以上ちがうのです。
では、来期、数量(Q)が1割落ちたら、どうなるか。
値段(P)も原価(V)も、いっさい変えないまま、売れる数だけが1割減った、としてみます。
A社は、MQが2,160万円。Fは2,100万円ですから、Gは60万円。細いけれど、黒字で残ります。
B社は、MQが6,480万円。Fは6,900万円のままですから、Gは420万円の赤字です。
同じ「売上1億2,000万円、利益300万円」の会社が、たった1割の目減りで、片方は黒字に残り、片方は赤字に沈む。
そして、この違いは、決算書のどこを読んでも書いてありません。
VQもFも、売上原価と販管費のあちこちに散らばって、姿を隠してしまっているからです。
税理士が言ってはいけないこと、かもしれませんが
こんなことを税理士が言うのは、自分の仕事を安く見せているようで、正直、少し気が引けます。
それでも、思っているのです。
私が毎年お届けしている決算書は、社長の一年をきちんと見送るための紙であって、来年を決めるための紙ではない、と。
来年を決める紙は、社長ご自身が、白いところに書くしかありません。
Gを先に置いて、Fを並べて、MQを出して、m率で割ってPQを出す。
そこに並ぶ数字は、決算書の中には、一行も入っていない数字です。
ひとつだけ、静かに試していただきたいことがあります。
次に決算書が届いたら、中身を開くより先に、二つの日付を並べてみてください。
決算期が終わった日と、その決算書が社長の手に渡った日。
そのあいだの日数が、社長が自分の会社の去年を知るまでに、かかっている時間です。
そしてその日数のあいだ、会社は数字を見ないまま走っていた、ということでもあります。
私は、その日数を少しでも短くしたいと思っています。
過ぎたことを正確に記録する仕事は、税理士として、これからも続けます。
ただ、お届けするときの言葉だけは、「終わりました」ではなく、「ここからですね」に変えていきたいと、そう感じています。
「損益分岐点は、本当はひとつじゃない」──トントンの点が、実は何種類もある、という話を書いてみたいと思っています。
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この記事の監修
税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。


