賃貸経営を止めない家族信託 認知症と二次相続への備え
投稿日:2026年08月29日

朝4時起きの税理士、丸山です。
本日は「賃貸経営を止めない家族信託」についてお話しします。
「相続対策といえば遺言と生前贈与でしょう」——賃貸オーナーの多くはそう考えています。
ところが、遺言はご本人が亡くなった後にしか効力を持ちません。
実は、対策として本当に怖いのは『死』ではなく、その手前で訪れる『判断能力の喪失』です。
オーナーが認知症などで意思判断能力を失うと、入居者との賃貸借契約も、大規模修繕も、建替えも、売却も、原則としてすべて止まります。
管理契約の更新もできず、家賃が入る一方で意思決定だけが凍結する——これが遺言では防げない盲点です。
今日はこの『生前の凍結』を防ぎながら次世代へ承継する家族信託を、収益不動産オーナーの視点で解説します。
遺言だけでは守れない「生前の凍結リスク」
成年後見制度を使えばよい、と思われるかもしれません。
しかし後見人の役割は『本人の財産を守る』ことにあり、建替えや売却といった積極的な資産活用は、合理的な理由がない限り家庭裁判所に認められないのが実務です。
たとえば『築古アパートを取り壊して建て替え、貸家建付地評価と小規模宅地等の特例で相続税評価を圧縮する』という前向きな組替えは、後見制度の下ではまず動かせません。
せっかくの節税・収益改善のチャンスが、オーナーの体調ひとつで永久に失われるのです。
家族信託の仕組みと『動かし続けられる』強み
家族信託(民事信託)は登場人物が三者です。
財産を託す『委託者』、預かって管理・運用・処分する『受託者』、利益を受け取る『受益者』。
収益不動産では通常、父を委託者兼受益者、後継者である子を受託者に設定します。
こうすると信託した不動産の名義(所有権)は法務局で信託登記を経て受託者である子へ移り、子は父に代わって賃貸借契約・修繕・建替え・売却まで実行できます。
一方で家賃という実質的な利益は受益者である父のまま。
名義と利益を分離できるのが信託の核心です。
委託者と受益者が同一なら、この時点で贈与税は課税されません。
実際、脳梗塞の後に物忘れが進んだオーナーが、元気なうちに賃貸ビル・築古アパート・畑を信託しておいたことで、認知症発症後も受託者の子が畑を高値で売却し、その資金でアパートを建て替えて入居率と収益を改善できた、という事例があります。
信託は契約行為ですから、判断能力を失ってからでは組成できません。
『元気なうち』が唯一のタイミングです。
見落とすと痛い『損益通算禁止』という税務の落とし穴
ここは攻める前に必ず押さえるべき守りの論点です。
信託した不動産の所得計算で生じた損失は、信託の外にある給与所得や他の不動産所得と損益通算できません。
しかも信託ごとに区切られるため、A信託の赤字をB信託の黒字と相殺することもできないのです。
大規模修繕や建替え直後に減価償却で赤字が出やすい収益物件を、何も考えずに信託へ入れてしまうと、本来使えたはずの節税メリットを失いかねません。
だからこそ、どの物件を信託に入れ、どの物件を個人や法人に残すかの『線引き』が成否を分けます。
信託財産から生じる不動産所得や譲渡所得は受益者に課税されるという原則とあわせ、設計段階での税務シミュレーションが欠かせません。
受益者連続信託で『二次相続まで』道筋を描く
家族信託のもう一つの強みは、承継先を何代も先まで指定できる点です。
遺言では『自分の次』までしか決められませんが、受益者連続型の信託なら『最初は妻、妻の死後は長男、その次は孫へ』と、二次相続・三次相続までレールを敷けます。
先祖代々の土地や本家の賃貸ビルを、配偶者の実家側へ流出させず確実に直系へ承継したいオーナーにとって、これは遺言にない決定的な武器です。
信託終了時に財産が帰属する人を指定しておけば、遺産分割協議でもめる余地も減り、円満な承継につながります。
丸山会計としての視点——『止めない仕組み』を一緒に設計する
家族信託は『認知症対策』の一言で片づけられがちですが、収益不動産オーナーにとっては、賃貸経営を止めないための『経営インフラ』です。
私たち丸山会計事務所は、確定申告や記帳代行にとどまらず、お金と資産が大きく動くタイミングでこそ差がつくと考える提案型の『攻める税理士』です。
どの物件を信託に入れるか、損益通算禁止をどう回避するか、建替え・組替えによる評価圧縮と信託をどう組み合わせるか——司法書士・弁護士とも連携し、税務と法務の両面から最適解を設計します。
経営理念は『ともに未来を描く』。
オーナーが元気なうちに、次世代まで続く承継の設計図を一緒に描きましょう。
『知らなかったことで損をした』を、私たちはなくしたいのです。
まとめ
遺言と生前贈与だけでは、認知症による賃貸経営の『生前凍結』は防げません。
家族信託を元気なうちに組成すれば、受託者が修繕・建替え・売却を止めずに実行でき、受益者連続で二次相続まで承継先を指定できます。
ただし損益通算禁止という税務の落とし穴があり、どの物件を信託に入れるかの設計が成否を分けます。
専門家と一緒に、早めの準備を進めましょう。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務相談については専門家にご確認ください。
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この記事の監修
税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。


