その株、いつまで“他人”が持っていますか?──少数株主を整理する6つの手法と、税負担が分かれる場所
投稿日:2026年09月08日

おはようございます。
朝4時起きの名古屋の税理士丸山です。
「うちの会社、実は私の持分が8割しかないんです」
事業承継やM&Aのご相談では、この一言が出てくることが少なくありません。
先代が功労のあった従業員へ渡した株。
親戚に頼んで持ってもらった株。
その方が亡くなり、面識のないご子息へ相続された株。
日常の経営では表面化しません。
ところが、いざ会社を次の世代へ渡す、あるいは第三者へ譲る場面になった瞬間、この2割が交渉を止めます。
買い手は「100%でなければ買わない」と言い、後継者は反対されれば身動きが取れなくなります。
今回は「分散した株式をどう集約するか」を、①手法の選択肢、②税負担が分かれる場所、③組織再編税制上の落とし穴、という3つの視点から整理します。
【目次】
1.少数株主の整理は「元気なうち」にしかできない
2.株式集約には6つのルートがある
3.同じ1株1,200円でも、手取りは変わる
4.見落とされやすい3つの論点
1.少数株主の整理は「元気なうち」にしかできない
少数株主の問題が厄介なのは、時間とともに必ず悪化する点です。
株主が1人亡くなれば、相続によって株主は2人、3人へと増えます。
世代が変われば会社への思い入れも薄れ、「創業家に協力しよう」という感情が消えたとき、株式はただの財産となり、価格交渉の対象になります。
逆に言えば、社長が現役で、相手も先代を知っている今が、最も話のまとまりやすいタイミングです。
先送りするほど当事者は増え、価格は上がり、選べる手法は減ります。
10年後にどういう資本構成でいたいのかを決め、そこから逆算して今動くべきかを判断してください。
2.株式集約には6つのルートがある
P社が子会社S社株式を80%持ち、残り20%を4人の少数株主(各5%)が保有しているとします。
この20%を金銭で買い取り100%子会社にしたい。
手法は大きく6つです。
【相手の同意が必要なもの】
手法1:親会社(オーナー)が買い取る
手法2:会社自身が買い取る(自己株式の取得)
【相手の同意がなくても進められるもの】
手法3:株式売渡請求(議決権の90%以上を確保したうえで、残りを強制取得する)
手法4:現金株式交換(株式交換の対価として金銭を交付する)
手法5:株式併合による集約(生じた1株未満の端数を親会社が買い取る)
手法6:株式併合による集約(端数を会社自身が買い取る)
最大の分岐点はここです。
手法1・2は相手が「売りません」と言えば終わりますが、手法3〜6は会社法上の手続を踏めば同意がなくても完了できます。
ただし手法3は議決権の90%以上、手法4〜6は株主総会の特別決議が前提です。
つまり「まず任意交渉で買えるところまで買い、残りを法的手続で締める」という二段構えが、実務上もっとも現実的です。
3.同じ1株1,200円でも、手取りは変わる
ここからが経営判断に直結する部分です。
S社株式の時価を1株1,200円、少数株主は各5株(収入6,000円)とします。
取得価額は甲氏(個人)500円、乙氏(個人)5,000円、A社(法人)500円、B社(法人)5,000円。
自己株式取得直前の資本金等の額は10,000円とします。
このときの税負担額(法人税等の実効税率30%で試算)は次のとおりです。
■甲氏(個人):手法2以外=1,117円/手法2=2,719円
■乙氏(個人):手法2以外=203円/手法2=2,719円
■A社(法人):手法2以外=1,650円/手法2=1,320円
■B社(法人):手法2以外=300円/手法2=▲30円
同じ株を同じ値段で買い取っているのに、負担が真逆に振れています。
原因は「みなし配当」です。
会社自身が買い取る手法2では、交付金銭のうち資本金等の額に対応する部分を超える金額(この例では5,500円)が配当とみなされます。
非上場株式の配当は個人にとって総合課税で、配当控除を考慮した実質最高税率は約49.4%。
株式譲渡なら申告分離課税の20.315%です。
ところが法人株主では逆転します。
受取配当の一部が益金不算入となるためです(保有割合5%以下なら非支配目的株式等として20%)。
さらに取得価額の高い乙氏は、手法2だと譲渡損失が他の所得と通算できず切り捨てられ、甲氏と同じ負担になります。
実務上の答えは「全員を同じ手法で処理しない」ことです。
法人株主からは自己株式取得で買い取り、個人株主には株式売渡請求を用いる。
組み合わせれば、買い手の支出を増やさずに相手の手取りを最大化でき、価格交渉のカードにもなります。
4.見落とされやすい3つの論点
スキームを決める前に必ず確認いただきたい点を3つ挙げます。
第一に、適格判定です。
手法3〜6は法人税法上の「株式交換等」に該当し、適格でなければ対象会社の一定の資産に時価評価課税が及びます。
支配関係者間なら、金銭等不交付要件・支配関係継続要件・従業者継続従事要件・事業継続要件を満たせば適格です。
なお、株式売渡請求の対価、3分の2以上を保有する場合の株式交換の対価、株式併合で生じた端数の対価は、いずれも金銭等不交付要件の「金銭等」から除かれています。
「現金を払うのだから非適格だろう」という思い込みは、まず疑ってください。
第二に、順序です。
株式交換等のうち株式交換以外の手法は、その前に支配関係がなければ適格になり得ません。
ゼロから一気に100%を取りにいく設計は成立しません。
第三に、周辺コストです。
手法2・6以外は非課税資産の譲渡等に該当し、対価の5%が課税売上割合の分母に算入されるため、譲渡側が法人だと控除できない消費税が生じ得ます。
また自己株式の取得は資本金等の額を減少させ、住民税均等割や事業税資本割の水準が変わることもあります。
株式の集約は、税務の問題であると同時に「この会社を誰と一緒に前へ進めるのか」という経営そのものの問題です。
手法を誤れば相手の手取りは目減りし、しこりが残ります。
設計が的確であれば、同じ支出でも納得していただけます。
当事務所では、株式の分散状況の棚卸しから株価評価、手法ごとの税負担シミュレーション、会社法上の手続、実行後のグループ体制の設計まで一気通貫でご支援しています。
「そろそろ整理しておきたい」という段階で構いません。
むしろその段階のほうが、選べる手は多く残っています。
私たちの経営理念は「ともに未来を描く」です。
社長が描きたい10年後の姿から逆算し、今どの一手を打つべきかを、ともに考えさせていただきます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な経営判断を行うものではありません。
実際のご判断に際しては、税理士・会計士等の専門家へご相談ください。
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この記事の監修
税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。


