社長個人の土地・借金が、M&Aを止める ― 売却前に整える「会社との境界線」

投稿日:2026年09月01日

社長個人の土地・借金が、M&Aを止める ― 売却前に整える「会社との境界線」

おはようございます。
朝4時起きの名古屋の税理士丸山です。

「株価はいくらになるのか」「株式譲渡と事業譲渡のどちらが得か」――M&Aのご相談で真っ先に出てくるのは、たいていこの手のお金とスキームの話です。
ところが実際に交渉を止めたり、価格を大きく引き下げたりする原因は、意外なほど「会社と社長個人がごちゃ混ぜになっている部分」に潜んでいます。
社長個人から会社への貸し借り、社長名義のまま会社が使っている土地、会社に紛れ込んだ私的な経費。
買い手はこれらを『不確実性』と見て、値引きや破談のカードに使います。


今日は、売却を意識し始めた経営者に向けて、①なぜ混在が嫌われるのか、②何を整理すべきか、③いつから動くべきか、の3つの視点で整理します。

目次 ―

1. なぜ「個人と会社の混在」が値引き・破談を招くのか

2. 論点①役員借入金・貸付金 ―― 相続財産にもなる社内の貸し借り

3. 論点②個人所有の事業用不動産 ―― 借地権と「無償返還の届出書」

4. 逆算で動く ―― 3〜5年前から整える売却前の準備

1. なぜ「個人と会社の混在」が値引き・破談を招くのか

買い手が買うのは、あくまで「会社」という箱です。

 
ところが中小企業では、社長個人と会社の財布が長年ひとつのように運用されてきたケースが少なくありません。
社長がポケットマネーで会社の資金繰りを支え、逆に会社のお金で私的な支出をまかなう。
創業期にはやむを得ない面もありますが、この『混在』は買い手にとって将来のリスクそのものです。
デューデリジェンス(DD、買収前の詳細調査)で混在が見つかれば、『他にも見えていない問題があるのではないか』という不信につながり、価格の引き下げや、最悪の場合は交渉離脱の口実になります。

 
逆に言えば、境界線がきれいに引かれた会社ほど、買い手は安心して評価でき、価格も付きやすくなります。
整理は『守り』ではなく、手取りを増やす『攻め』の準備なのです。

2. 論点①役員借入金・貸付金 ―― 相続財産にもなる社内の貸し借り

最も多いのが、社長から会社への貸し借りです。
資金繰りが厳しいときに社長が会社へお金を入れ、余裕ができても返さないまま累積したものが「役員借入金」です。
会社から見れば負債ですが、社長個人から見れば『貸付金』という財産で、そのまま相続財産にもなります。
買い手はこの債務を嫌い、買収価格から差し引こうとします。

 

たとえば会社に社長からの借入が3,000万円あるとします。
買い手はこの3,000万円を実質的な負担と見て価格を下げるか、クロージング前の解消を求めてきます。
解消の方法は主に三つ。

 
①手元資金や保険の解約で返済する、

②DES(デット・エクイティ・スワップ=貸付金を資本に振り替える現物出資)、

③社長が債権を放棄する、です。

 
ただし③は会社に同額の債務免除益が立ち、法人税の対象になります。
繰越欠損金があれば相殺できますが、ここは税理士と必ず事前に試算すべきポイントです。
DESも、債務超過の状態で行うと免除益課税の論点が出るため注意が要ります。

3. 論点②個人所有の事業用不動産 ―― 借地権と「無償返還の届出書」

次に多いのが、社長個人が所有する土地の上に、会社の工場や店舗が建っているケースです。
一見ありふれた形ですが、税務上は会社が『借地権』を自動的に持つことになり、放置すると借地権の認定課税という思わぬ問題を招きます。

 
ここで効いてくるのが『土地の無償返還に関する届出書』です。
これを税務署に提出してあれば借地権の問題を避けやすくなりますが、そもそも賃貸借契約すら結んでいないケースも実務では珍しくありません。

 

買い手の視点では、事業の心臓部である土地が売り手個人のものだと、『社長の相続が起きたら賃貸借契約を切られ、事業が続けられなくなるのでは』という不安が残ります。
対策は、契約書と届出書を整えて安定性を担保するか、時間をかけて会社へ集約するかです。

 
ただし個人から会社への不動産移転は譲渡益への課税が重くなる場合があり、拙速に動くとかえって税負担が膨らみます。
『どちらが最終的に手取りを最大化するか』を、出口から逆算して選ぶ必要があります。

4. 逆算で動く ―― 3〜5年前から整える売却前の準備

これらの整理に共通するのは、『直前では間に合わない』ということです。
役員借入金の解消も、不動産の移転も、私的経費の切り分けも、税負担を抑えながら進めるには数年単位の時間が要ります。
理想は、売却を具体的に考える3〜5年前から、貸付金・借入金の残高、無償返還の届出書の有無、事業用不動産の名義と契約書、私的経費や名義株の有無を棚卸ししておくことです。

 

ここで大切なのは、『今すぐ制度が使えるか』ではなく、『最終的にどういう形で会社を引き渡し、いくら手元に残したいか』から逆算する発想です。
株式譲渡益にかかる税率はおよそ20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)。
手取りは、この税率だけでなく、混在をどれだけ整理できているかでも大きく変わります。

 
『会社と個人の境界を整えること』は、価格交渉を有利にし、成約までの時間を縮める、いわば最も地味で確実な磨き上げなのです。

むすびに ―― ともに未来を描く

当事務所では、税務申告にとどまらず、事業承継やM&A、組織再編を見据えた『会社と個人の境界線』の整理を、出口から逆算してご一緒に設計しています。
役員借入金や個人所有不動産のように、気づいたときには動きにくくなっている論点こそ、早い段階での一手が効きます。

 
私たちは『ともに未来を描く』という理念のもと、単なる正解の提示ではなく、社長にとって実行できる次の一歩までご提案します。
会社の出口をぼんやりとでも考え始めた今こそ、一度ご相談ください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な経営判断を行うものではありません。
実際のご判断に際しては、税理士・会計士等の専門家へご相談ください。

 

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この記事の監修

丸山会計事務所 税理士 代表 丸山和秀

税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)

税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。

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