【もう悩まない!】事業承継の遺留分対策、事前放棄と民法特例ってどう違うの?
投稿日:2025年04月15日
「うちの会社、息子に継がせたいんだけど、兄弟たちの遺留分が心配…」 「個人でやってきたこの店、娘に託したいけど、相続でもめないか不安だ…」
中小企業の経営者や個人事業主の皆さん、事業承継のこんなお悩み、よく聞きます。せっかく後継者に事業を託したいのに、遺された家族間の争いごとや、思いがけない金銭負担が発生してしまうのは避けたいですよね。
そんな時に出てくるのが、「遺留分の事前放棄」と「遺留分に関する民法の特例(民法特例)」という二つの制度。名前は似ているけれど、内容は結構違うんです。
今回は、この二つの制度の違いを、中学生にも分かるくらいでも経営者の皆さんに役立つようにしっかり解説していきます!
まずは知っておきたい!遺留分って何?

遺留分(いりゅうぶん)というのは、兄弟姉妹以外の相続人に法律で保障された、最低限の財産を受け取れる権利のことです。
例えば、お父さんが「全ての財産を長男に相続させる!」という遺言書を残したとしても、他の相続人(配偶者や他の子どもたち)には、遺産の一定割合を受け取る権利があるんですね。
もしこの遺留分が侵害された場合、侵害された人は、多く財産を受け取った人に「遺留分をちょうだい!」とお金を請求できるんです。
これが事業承継の現場で問題になるのは、後継者に自社株や事業用資産を集中させたい場合に、他の相続人の遺留分を侵害してしまう可能性があるから。
そうなると、後継者は遺留分を支払うために、せっかく引き継いだ株や資産を売却しなければならなくなるかもしれないんです。
これでは、スムーズな事業承継とは言えませんよね。
対策その1:遺留分の事前放棄

遺留分の事前放棄というのは、相続が起こる前に、相続人が自分の遺留分を放棄することです。
これをしておけば、遺言書などで特定の相続人に多くの財産を相続させても、遺留分を請求される心配がなくなります。
ただし、この遺留分の事前放棄には、ちょっと使いにくい点があるんです。
家庭裁判所の許可が必要:遺留分を放棄したい相続人本人が、家庭裁判所に申し立てをして、許可を得なければなりません。
これは、放棄する人にとって結構な手間になります。
・一部放棄は原則不可:遺留分の全部を放棄するか、特定の財産の全部について放棄するしかなく、例えば「自社株の価値のうち〇〇円を超える部分については遺留分を請求しない」といった、柔軟な対応が難しいんです。
・後継者の努力による価値上昇は考慮されない:自社株のように、後継者の頑張りで価値が上がったとしても、事前放棄した人はその価値上昇分に対しても遺留分を主張できなくなってしまう可能性があります。
対策その2:遺留分に関する民法の特例(民法特例)

そこで登場するのが、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)」に基づく「遺留分に関する民法の特例(民法特例)」です。
これは、会社や個人事業の事業承継をもっとスムーズにするために作られた特別なルールなんです。
この民法特例を使うと、後継者を含む推定相続人全員の合意があれば、先代経営者から後継者に贈与された自社株や事業用資産について、以下の二つの特例が利用できます。
- 除外合意:後継者が贈与などによって取得した自社株や事業用資産の価額を、遺留分を計算する際の財産から除外することができます。つまり、この株や資産については、他の相続人は遺留分を請求できなくなるんです。
- 固定合意(会社の経営承継の場合のみ):後継者が贈与などによって取得した自社株の価額を、合意した時点の価額に固定することができます。相続開始時に株価が上がっていたとしても、遺留分を計算する際の価額は合意時のままなので、後継者は安心して経営に専念できます。この合意時の価額は、税理士や弁護士などの専門家による証明が必要です。
これらの特例は、一つだけを利用することも、両方を組み合わせて利用することも可能です。
ただし、この民法特例を利用するためには、いくつかの要件があり、経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可が必要になります。
一目でわかる!遺留分の事前放棄 vs 民法特例

・会社の経営承継の場合:中小企業者であり、3年以上継続して事業を行っている非上場企業で、後継者が議決権の過半数を持ち、会社の代表者であること、などの要件があります。
・会社の経営承継の場合:中小企業者であり、3年以上継続して事業を行っている非上場企業で、後継者が議決権の過半数を持ち、会社の代表者であること、などの要件があります。
どちらを選ぶ?
遺留分の事前放棄と民法特例、どちらが良いかは、それぞれの状況によって異なります。
・遺留分の事前放棄は、特定の相続人に遺産を集中させたいという被相続人の意思が明確で、かつ他の相続人が遺留分を放棄することに納得している場合に有効な手段となりえます。しかし、手続きの煩雑さや柔軟性の低さがネックとなる場合があります。
・一方、民法特例は、事業承継を円滑に進めることを目的としており、推定相続人全員の合意を前提に、より柔軟な遺留分対策を講じることができます。特に、後継者の努力によって会社の価値が向上する場合や、複数の相続人がいる場合に、相続人間の公平性を保ちつつ事業承継を進めたい場合に有効です。
ただし、利用するためには一定の要件を満たし、経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可を得る必要があるため、計画的に手続きを進める必要があります。
まとめ

項目 | 遺留分の事前放棄 | 遺留分に関する民法の特例(民法特例) |
目的 | 特定の相続人の遺留分請求権をなくす | 事業承継の円滑化、後継者への財産集中と相続対策 |
誰の意思? | 放棄したい相続人単独 | 推定相続人全員と後継者の合意 |
手続き | 家庭裁判所の許可 | 経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可 |
対象財産 | 全ての財産または特定の財産の全部 | 後継者が贈与等で取得した自社株・事業用資産 |
柔軟性 | 比較的低い(一部放棄は原則不可) | 比較的高い(除外合意と固定合意の組み合わせが可能) |
後継者の努力による価値上昇 | 考慮されない | 固定合意の場合、遺留分に影響しない(会社の経営承継の場合のみ) |
こんな時におすすめ | 相続人全員が納得している場合 | 事業承継を円滑に進めたい、相続人間で公平性を図りたい場合 |
事業承継は、経営者にとって最も重要な決断の一つです。遺留分対策をしっかり行うことで、後継者へのスムーズなバトンタッチと、その後の親族間の良好な関係を築くことができます。
「うちの場合はどうしたらいいんだろう?」と悩んだら、まずは専門家に相談してみるのがおすすめです。
事業承継についてもっと詳しく聞きたい場合は、丸山会計までお気軽にお問い合わせください。
この記事の監修

税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。