一部だけ売りたい ― 事業譲渡と会社分割、どちらが手取りを残しますか?
投稿日:2026年08月30日

おはようございます。
朝4時起きの名古屋の税理士丸山です。
「会社は続けたいが、この事業だけは手放したい」「後継者のいる本業と、そうでない事業を分けて考えたい」――規模を問わず、経営者からこうしたご相談が増えています。
会社をまるごと売る(株式譲渡)のか、事業だけを切り出して売る(事業譲渡・会社分割)のか。
実は同じ「売却」でも、選ぶ手法によって手元に残る金額も、買い手が背負う税金も大きく変わります。
本稿では、①スキームの選び方、②“税務上ののれん”という買い手目線、③適格・非適格と欠損金――の3つの視点で、判断の勘所を整理します。
目次
1. まず全体像 ―「売り方」で税金の出方が変わる
2. 事業譲渡 ― 買い手の“税務上ののれん”がカギ
3. 会社分割 ― 消費税ゼロとグループ内の損益繰延べ
4.「適格・非適格」と欠損金 ―“非適格=損”とは限らない
1. まず全体像 ―「売り方」で税金の出方が変わる
事業の売却には、大きく3つの型があります。
会社を株式ごと売る「株式譲渡」、資産・負債・契約を個別に移す「事業譲渡」、そして事業を包括的に切り出す「会社分割(+株式譲渡)」です。
株式譲渡は最もシンプルですが、会社に不要な資産や隠れた負債も一緒に付いてきます。
事業譲渡は欲しいものだけを選べる反面、取引先との契約や許認可を一つずつ結び直す手間がかかります。
会社分割は権利義務を“まるごと”承継できるため手続きは軽い一方、設計を誤ると想定外の課税を招きます。
まずは「何を、誰に、いくらで、なぜ渡すのか」を言語化することが出発点です。
手段ありきで走り出さないことが、結果的にいちばんの節税につながります。
2. 事業譲渡 ― 買い手の“税務上ののれん”がカギ
買い手の立場で見逃せないのが「資産調整勘定」、いわゆる“税務上ののれん”です。
非適格の事業譲渡などで、支払った対価が受け入れる純資産の時価を上回ると、その差額をのれんとして計上でき、原則として60か月(5年)にわたり毎期均等に損金へ算入できます。
たとえば時価純資産1億円の事業を1.2億円で買えば、差額2,000万円が5年かけて費用化され、買い手の税負担を継続的に軽くします。
ここが重要で、この効果は株式を買う方法では一切生じません。
同じ「事業を手に入れる」でも、株式で買うか事業として買うかで、買い手の税引後コストは大きく変わるのです。
売り手にとっても、買い手のこのメリットは価格交渉の材料になります。
3. 会社分割 ― 消費税ゼロとグループ内の損益繰延べ
会社分割ならではの利点が消費税です。
事業譲渡は資産の譲渡として消費税の課税対象となり、棚卸資産やのれん相当部分に消費税が乗ります。
これに対し会社分割は組織法上の行為であり、消費税は課税対象外(不課税)です。
動かす金額が大きいほど、この差は資金繰りに効いてきます。
さらにグループ内での再編なら、完全支配関係にある法人間で一定の資産を移した場合、その譲渡損益は課税が繰り延べられます(グループ法人税制)。
つまり親子・兄弟会社の間で事業を移すだけなら、その時点では譲渡益に税金がかからないケースが多いのです。
ただし後日、再譲渡や関係解消が起きると、繰り延べた利益が一気に実現する点には注意が必要です。
4.「適格・非適格」と欠損金 ―“非適格=損”とは限らない
組織再編には「適格」と「非適格」があり、適格であれば資産を簿価のまま引き継ぎ、含み益への課税が生じません。
ただし“適格=常に有利”ではありません。
支配関係が生じてから5年以内で、みなし共同事業要件を満たさない適格再編では、引き継いだ繰越欠損金や含み損の使用に制限がかかります。
逆に、あえて非適格を選んだほうが、前述の“のれん”を作れたり、欠損金を柔軟に使えたりと、有利になる場面もあります。
「非適格は避けよう」という思い込みは禁物です。
自社の欠損金の有無、含み損益、そして5年ルール――これらを一つずつ確認し、“わが社にとって”どちらが得かという観点で判断することが肝心です。
おわりに ― ともに未来を描く
当事務所では、会社を「どう続け、どう次へ渡すか」という経営者の想いを起点に、合併・会社分割・事業譲渡・M&Aといった組織再編のスキーム選定から、税務・会計、そして実行後の体制づくりまでを一貫してご支援しています。
数字の損得だけでなく、「その事業を誰に託し、どんな会社を残したいか」までを一緒に描くのが私たちの役割です。
経営理念に掲げる「ともに未来を描く」の言葉どおり、選択肢を並べて終わりにするのではなく、社長にとって最良の一手を、伴走しながら見つけてまいります。
事業の切り出しや承継をお考えの際は、構想段階でのご相談こそ効果的です。
どうぞお気軽にお声がけください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な経営判断を行うものではありません。
実際のご判断に際しては、税理士・会計士等の専門家へご相談ください。
▼経営に役立つ情報をもっと知りたい方は
→ メルマガ登録はこちら
→ 丸山会計へのお問い合わせはこちら
この記事の監修
税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。


