二代先まで承継先を指定 受益者連続信託と遺留分の備え
投稿日:2026年08月09日

朝4時起きの税理士、丸山です。
本日は「受益者連続信託を使って、二代先まで財産の承継先を決める方法」についてお話しします。
「遺言さえ書いておけば、財産は自分の望んだ通りに渡せる」——多くのオーナー様がそう考えています。
しかし遺言で指定できるのは、次に誰へ渡すかという一代限りだけ。
あなたの財産を受け取った配偶者や子が、その先を誰に渡すかまではコントロールできません。
実はここに、資産家の相続で最も揉める落とし穴が潜んでいます。
遺言では「その先」を決められない
例えばオーナーのAさんが、賃貸ビルを妻に相続させる遺言を残したとします。
ところが妻が亡くなる二次相続では、そのビルは妻の相続人——妻の兄弟や、前の結婚での子など——に渡り、Aさんの血筋から離れてしまうことがあります。
子のいないご夫婦、再婚や連れ子のいるご家庭、同族会社の株式を承継する場面では特に深刻です。
遺言は一次相続までしか指定できず、二代先の承継先までは担保できないのです。
受益者連続信託なら二代先まで指定できる
そこで有効なのが、家族信託の一種である「受益者連続型信託」です。
①はじめはAさん自身が受益者、②Aさん死亡後は妻、③妻死亡後は長男、というように、受益権の承継先を数世代先まで一つの信託契約で決められます。
信託法上は、信託設定から30年を経過した後に新たに受益権を得た人が死亡するまで有効という「30年ルール」があり、実務上は二代・三代先の設計が可能です。
さらに、Aさんが認知症で判断能力を失っても、受託者である長男が賃貸経営を続けられるため、修繕・建替え・売却といった意思決定が凍結しません。
仮に成年後見人を立てると、月2〜6万円の報酬を10年支払えば240〜720万円のコストがかかります。
信託ならこの負担を避けつつ、承継設計まで一体で組める点が大きな強みです。
番外編:財産を託される「長男(受託者)」の重い責任と分別管理義務
オーナーの認知症対策として極めて有効な家族信託ですが、管理を任される受託者(長男)には法律上、重い責任が伴います。
最も重要なのが「分別管理義務」です。
長男自身の個人の財産と、信託されたお父様の財産(家賃収入や経費など)は、専用の信託口座等を作成して厳格に分けて管理し、毎年帳簿を作成して報告しなければなりません。
成年後見人のような毎月のコストはかかりませんが、受託者となるご家族にはそれなりの事務負担が発生するという「実務のリアル」も、事前によく話し合っておく必要があります。
イメージしやすいよう数字で見てみましょう。
評価額1億円の賃貸ビルを持つAさんが、妻・長男・二男の3人を遺すケースです。
遺言だけなら妻に渡した後の二代目は指定できませんが、受益者連続信託なら『妻→長男→長男の子』と血筋に沿って承継先を固定できます。
加えて賃貸ビルは相続税評価で時価より2〜3割低く評価されやすく、貸家建付地・貸家の評価減を使えば1億円の時価が7,000万円前後まで圧縮されることも珍しくありません。
承継先の指定と評価圧縮を同時に狙えるのが、不動産オーナーにとっての信託の妙味です。
+αの視点:信託を使っても「相続税」の支払いは回避できない
よくある勘違いとして、「信託を使えば、次世代に無税で財産を引き継げる」というものがありますが、これは誤りです。
受益者連続信託において、受益権が「Aさん→妻→長男」と移っていく場合、その権利が移転したタイミングごとに、通常の相続と同じように「相続税(または贈与税)」がしっかりと課税されます(相続税法第9条の2等)。
信託はあくまで「財産の行き先と管理権をコントロールする手法」であり、税金をゼロにする魔法ではありません。
だからこそ、各世代で発生する相続税の「納税資金」をあらかじめシミュレーションしておくことが不可欠なのです。
遺留分という「見落とされる地雷」
ただし信託は万能ではありません。
法定相続人が最低限受け取れる取り分である「遺留分」は、信託を使っても侵害できないからです。
長男にすべての受益権を集中させると、他のお子さんから遺留分侵害額請求——不足分を現金で支払えという請求——を受けるおそれがあります。
近年の裁判例でも、遺留分を潜脱する目的とみなされ信託の一部が無効とされたケースがあります。
対策は三つ。
①遺留分に相当する金融資産をあらかじめ別枠で確保しておく、②生命保険を活用して代償金の原資をつくる、③受益権の一部を他の相続人にも配分してバランスを取る、といった設計です。
「作って終わり」ではなく、遺留分まで織り込んで初めて実務に耐える信託になります。
先ほどのAさんの例で言えば、長男に受益権を集中させると二男の遺留分はおよそ2,500万円(法定相続分の半分が目安)。
この2,500万円を現金や生命保険であらかじめ用意しておけば、二男へ代償金を渡してもビル自体は分割されず、経営を長男に一本化できます。
逆に準備を怠ると、遺留分の請求に応じるためにビルを売らざるを得ない、という本末転倒も起こり得ます。
+αの視点:現金がないからと「別の不動産」で遺留分を払うと譲渡税がかかる罠
「2,500万円の遺留分を現金で払えないから、代わりに自分が持っている『別の土地(現物)』を渡して解決しよう」と考える方がいらっしゃいますが、ここにも恐ろしい罠が口を開けています。
金銭債権となった遺留分侵害額を、代わりの不動産で支払う(代物弁済)と、税務上は「その土地を時価で売却して、そのお金で遺留分を支払った」とみなされます。
その結果、遺留分を払った長男に対して、予期せぬ多額の「譲渡所得税」が課税されてしまうのです。
遺留分対策は「現金(または生命保険)」で用意するのが絶対の鉄則です。
「攻める税理士」は承継の設計図まで描く
信託・遺言・生命保険・贈与——これらは単独ではなく、組み合わせて初めて力を発揮します。
丸山会計事務所は、相続税を試算するだけでなく、「誰に・いつ・どの順番で・いくらの税負担で」承継するかという設計図を、お客様とともに描きます。
経営理念は「ともに未来を描く」。
二代先・三代先のご家族の姿まで見据え、遺留分・納税資金・認知症リスクを同時に潰していく——それが私たち攻める税理士の強みです。
もちろん、節税効果以上の報酬がかかる提案はいたしません。
まとめ
遺言は一代限りの指定しかできませんが、受益者連続信託を使えば二代先まで承継先を決められ、認知症による経営の凍結も防げます。
ただし遺留分という地雷を外すには、金融資産や生命保険で代償原資を用意する設計が欠かせません。
「誰にどう遺すか」を数世代先まで描くことが、争いのない資産承継への第一歩です。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務相談については専門家にご確認ください。
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この記事の監修
税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。


