会社を売るとき、なぜ社長は安く買い叩かれるのか-M&A売却で損をしない3つの視点

投稿日:2026年07月06日

会社を売るとき、なぜ社長は安く買い叩かれるのか-M&A売却で損をしない3つの視点

朝4時起きの名古屋の税理士丸山です。

 

「そろそろ会社を譲ろうか」と考え始めた経営者から、よくこんな相談を受けます。
「仲介会社から株価を無料で算定してもらったら4億円と言われたのに、いざ交渉が進むと2億円台まで下がってしまった」。
なぜ、このようなことが起きるのでしょうか。
M&Aは経営者にとって一生に一度あるかどうかの取引です。
相手は何件も手がけてきたプロ。
同じ土俵で戦えば、知らないうちに足元を見られてしまいます
本稿では、後継者不在に悩む中小企業の社長が会社を安売りしないために、①売却プロセスの全体像、②社長が不利になる理由、③相手選びの落とし穴という3つの視点を整理します。

目次

1.M&A売却の全体プロセスを知り、主導権を握る

2.なぜ社長は価格交渉で不利になるのか

3.「相対取引」より「競争入札」で価値を最大化する

4.アドバイザー選びと契約に潜む落とし穴

1.M&A売却の全体プロセスを知り、主導権を握る

会社の第三者承継(M&A)は、思いつきで相手を決めるものではなく、決まった段取りがあります
おおまかには、

(STEP1)売却の意思決定と事業の磨き上げ、

(STEP2)仲介会社またはFAの選定と契約、

(STEP3)譲渡側を特定できない「ノンネームシート」で候補先を打診し、関心を示した相手と秘密保持契約を結んで情報開示、

(STEP4)買い手による事業価値の評価と経営者同士の面談、

(STEP5)条件交渉と意向表明書(LOI)の受領、

(STEP6)基本合意書の締結、

(STEP7)デューデリジェンス(買い手による調査)、

(STEP8)最終契約とクロージング、という流れをたどります。

 

ここで意識していただきたいのは、価格や条件が事実上決まるのはSTEP5の意向表明書の段階だということです。
意向表明書には、譲渡価額・譲渡スキーム・取引実行後の運営方針・今後の進め方の4点が記載されます。
この紙が複数の買い手から出てくるか、1社からしか出てこないかで、その後の交渉力が大きく変わります
プロセス全体を頭に入れておくだけで、「今、自分はどの局面にいて、何を握っておくべきか」が見えてきます。

2.なぜ社長は価格交渉で不利になるのか

冒頭の「4億円が2億円台に」という話には、構造的な理由が3つあります

 

第一に、情報の非対称です。
非上場株式には上場株のような市場価格が存在せず、適正価額は売り手と買い手の交渉によってしか決まりません
買い手は何件も案件を比較してきたプロ、売り手は初めての素人。
この時点ですでに不利なのです。
しかも「株価算定無料サービス」で示される金額は、あくまで教科書的な計算式に数字を当てはめた参考値にすぎず、実際に支払う買い手の評価とは別物です。

 

第二に、候補が1社しかいない状態です。
相手が1社だけの「相対取引」では、断れば取引が消えるため、提示された条件をのまざるを得ません
すぐに引退したい高齢の経営者ほど、時間的な余裕がなく足元を見られます。

 

第三に、デューデリジェンス後の減額交渉です。
調査で簿外債務や契約上の問題が見つかると、最終段階で「この分は値引きを」と迫られやすい。
基本合意で高く見えても、最後に削られるのです。
対策は、事前に事業を磨き上げて指摘材料を減らし、できるだけ多くの買い手候補と並走しておくことに尽きます。

3.「相対取引」より「競争入札」で価値を最大化する

譲渡価額を引き上げる最も確実な方法は、買い手に競争してもらうことです。
交渉の進め方には、特定の1社と一対一で進める「相対取引」と、複数の候補先に同時に提案して条件を競わせる「競争入札」があります。
相対取引は短期間でまとまり情報漏洩リスクも低い半面、競争相手がいないため価格は下がりがちです。
一方、競争入札は複数社から意向表明書を集めて比べるため、譲渡価額が最大化されやすくなります

 

数字で考えると分かりやすいでしょう。
仮に手取りの差が5,000万円生じたとして、株式譲渡の譲渡益には約20%(正確には20.315%)の分離課税がかかりますから、税引後でも4,000万円近い差になります。
相手を1社に絞り込む前に、M&A仲介会社だけでなく、事業承継・引継ぎ支援センターや金融機関、顧問税理士など複数の情報源から候補を集めることが、この差を生む分かれ道になります。
なお、競争入札を本気で進めるなら、両者の間に立つ仲介ではなく、売り手だけの味方として交渉窓口を担うFA(ファイナンシャル・アドバイザー)の起用も検討に値します。

4.アドバイザー選びと契約に潜む落とし穴

最後に、最も見落とされがちな「誰に任せるか」の問題です。
M&Aの専門家には、売り手・買い手の双方に助言する「仲介」と、片側だけを支援する「FA」があります。
仲介は双方から報酬を受け取れるため業者にとって収益性が高い反面、「高く売りたい売り手」と「安く買いたい買い手」の利益を同時に実現することはできず、構造的に利益相反を抱えます
銀行や証券会社が金融庁の監督下でFA業務に限られるのに対し、M&A仲介会社はその監督外にあるという違いも知っておきたい点です。

 

特に契約書では、「当社以外の専門家の助言を受けてはならない」といった、セカンドオピニオンを封じる条項が入っていないかを必ず確認してください。
こうした条項は削除を依頼してよいものです。
あわせて、成約金額に応じて料率が決まるレーマン方式の手数料体系、最低報酬額、専任期間も契約前にチェックしましょう。
国が定める「中小M&Aガイドライン」に準拠した事業者かどうかも、信頼できる相手を見分けるひとつの目安になります。
迷ったときは、契約前に第三者の専門家へ意見を求めることをためらわないでください

おわりに ― ともに未来を描くために

M&Aは、単に会社を「売る」取引ではありません
社長が育ててきた事業と従業員の未来を、次の経営者へ託す事業承継そのものです。
だからこそ、税金の手取り計算だけでなく、プロセス設計・組織再編・相手との条件交渉までを一体で見渡せる伴走者が必要になります。
当事務所では、税務顧問の枠を超えて、事業承継・組織再編・M&A支援まで含めてサポートしています。
経営理念に掲げる「ともに未来を描く」という言葉のとおり、社長が納得して次の一歩を踏み出せるよう、出口戦略の段階から並走いたします。
会社の譲渡を少しでもお考えなら、交渉が動き出す前の早い段階で、ぜひ一度ご相談ください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な経営判断を行うものではありません。
実際のご判断に際しては、税理士・会計士等の専門家へご相談ください。

 

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この記事の監修

丸山会計事務所 税理士 代表 丸山和秀

税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)

税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。

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