相続した不動産を売却した場合の3,000万円特別控除の適用可否について解説
投稿日:2025年07月11日
はじめに
相続した実家などの不動産を売却した場合、税金がどのようにかかるのか不安に思われる方も多いのではないでしょうか。特に「3,000万円の特別控除が使えるのかどうか」は大きなポイントです。この記事では、相続により取得した不動産を売却する際に検討すべき特例制度について、わかりやすく解説します。
譲渡所得の基本と特例制度
不動産を売却して得た利益は「譲渡所得」として課税対象になります。ただし、譲渡所得については通常の所得税よりも税率が低い「分離課税」が適用されるほか、税負担を軽減するための特例も用意されています。
特に有名なものが、以下の二つの特別控除制度です。
・居住用財産の譲渡所得の特別控除(措法35条1項)
・被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除(措法35条3項)
居住用財産の譲渡所得の特別控除(措法35条1項)
この特例は、自分自身が住んでいた住宅を売却する場合に適用できる制度です。要件を満たせば、譲渡所得から最高3,000万円が控除されます。
適用要件
・売却する家屋および土地が、譲渡者本人の居住用であったこと
・住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
注意点
相続で取得した不動産でも、自分が住んでいなければこの特例は原則適用できません。
被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除(措法35条3項)
こちらは、被相続人が住んでいた家を相続した人が売却する場合に適用される特例です。
主な適用要件
・日本国内にある家屋であること・相続開始直前に被相続人が住んでいたこと(老人ホームの場合も一定要件でOK)
・相続から譲渡までの間、家屋や土地を事業・貸付・居住に使っていないこと(無償で親族に貸していた場合もNG)
・昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること
・相続開始直前に他の人が同居していなかったこと
・家屋とその敷地両方を相続していること
・譲渡価額が1億円以下であること
・相続から3年以内に譲渡すること
この特例も、適用されれば譲渡所得から最大3,000万円が控除されます。
共有名義の不動産を売却する場合の取扱い
不動産が共有名義である場合、各共有者が個別にそれぞれの特例の適用要件を満たしているかを確認する必要があります。
例:共有者AさんとBさんのケース
Aさん:自分が住んでいた→措法35条1項(居住用)
Bさん:相続で取得→措法35条3項(相続財産)
このように、それぞれの持ち分について、異なる特例を適用することができます。ただし、同一年中に同一人が両方の特例を使う場合は、合計で3,000万円が上限となります。
相続税の取得費加算との選択適用
相続により取得した不動産を売却する際には、「相続税の取得費加算の特例(措法39条)」との選択適用になります。
・相続税の一部を取得費に加算することで譲渡所得を減らす仕組み
・控除額とどちらが有利か、シミュレーションして選ぶことが重要
生前に売却するか、相続後に売却するかで税金が変わる
不動産を売却するタイミングによっても、適用できる特例や課税額に違いが出てきます。
たとえば、本人が住んでいた住宅を生前に売却する場合は、居住用財産の譲渡所得の特別控除(措法35条1項)や、買換え特例などが利用でき、税金を大幅に抑えられる可能性があります。
一方、相続後に不動産を売却する場合は、相続人が居住していない限り、居住用財産の特別控除(措法35条1項)は使えず、相続財産の譲渡所得特例(措法35条3項)の厳しい要件を満たす必要があります。
そのため、「どうせ売るなら、生前に売っておいた方が税金的に有利」というケースも多くあります。不動産を売却する時期については、家族とよく話し合い、計画的に検討することが大切です。
まとめ
相続した不動産を売却する際の税務上の扱いには、多くの注意点があります。
・「自分が住んでいたか」か「被相続人が住んでいたか」によって使える特例が異なる
・共有者ごとに個別に判断が必要
・譲渡価額や利用状況など細かな要件を確認する必要がある
・相続税の取得費加算との選択にも注意
・生前に売却するか相続後に売却するかでも税額に差が出る
このように、相続不動産の売却に関する税務は複雑ですので、実際に売却を検討する場合には専門家と相談することをおすすめします。
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この記事の監修

税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。