「経営は逆算だ」──ある社長さんと数字を見直した話
投稿日:2026年05月07日

朝4時起きの名古屋の税理士の丸山です。
先日、長くお付き合いのある社長さんと、決算後の打ち合わせをしていました。
「丸山さん、今期は過去最高の売上だったんですよ。社員もよく頑張ってくれました」
そう嬉しそうに話されたあと、少し声のトーンが下がって、こう続きました。
「……なのに、なぜか手元にお金が残らなくてね」
私は試算表を眺めながら、深くうなずいていました。
似たような言葉を、これまでに何度聞いてきたことか。
売上は伸びている。社員もよく動いている。それなのに利益が残らない。
これは社長の努力が足りないから起きていることでは、ないのです。
「考える順番」が、逆になっているだけ──。
私はそう思っています。
経営判断は、売上から組み立てると利益が消える
多くの会社で、経営計画はこんなふうに作られています。
「来期の売上は1億2,000万円を目指そう」
「経費は今年並みに見て、だいたい1億1,000万円」
「だから利益は1,000万円くらい残る、はず」
一見、すじが通って見えます。
でも、この計算には大きな落とし穴があるのです。
このやり方だと、利益は「最後に残ったもの」になります。
売上が下振れすれば削られるのは利益。経費が膨らんでも食われるのは利益。
しわ寄せが、いつも最後の一行に来てしまうのです。
「経営は逆算だ」──一倉定さんの言葉
戦後、5,000社を超える中小企業を指導したと言われる経営コンサルタントに、一倉定(いちくらさだむ)さんという方がいらっしゃいました。
歯に衣着せぬ言葉で、社長を本気で叱り、本気で励ました方です。
その一倉さんが、繰り返し説かれた言葉があります。
「経営は逆算だ」
私はこの言葉に出会ったとき、ハッとしました。
利益は「結果」ではなくて、「先に決めるもの」なのだ──と。
税金、銀行への返済、設備投資、社員への還元、社長自身の生活と次への挑戦。
これらは全部、利益から出ていきます。
だから利益は、後から残るものに任せてはいけない。先に置くべき数字なのだと、私は感じています。
PQ=VQ+F+G ──たったひとつの企業方程式
私の手元に、何度も読み返している一冊の本があります。
西順一郎先生が編著された『利益が見える戦略MQ会計』という本です。
この本の真ん中に、たったひとつの式がぽつんと置かれています。
PQ = VQ + F + G
ちょっと記号が多いので、ひとつずつほぐしていきます。
Pは商品1個あたりの価格、Vは1個あたりの変動費(仕入れなど)、Qは販売数量。
だから PQ は売上高、VQ は変動費の総額になります。
Fは「Fixed cost」で固定費。Gは「Gain」、つまり利益のことです。
そして、PからVを引いた1個あたりの粗利を「M」と呼び、そこにQを掛けた粗利総額を「MQ」と呼びます。
ちょっと具体的に、1本100円で売っている缶コーヒーで考えてみます。
仕入れに60円かかっているなら、1本売るごとの粗利M(粗利)は40円。
これを10本売れば、売上PQは1,000円、変動費VQは600円、粗利総額MQは400円になります。
さらに、固定費Fが300円、ほしい利益Gが100円だとすると、ちょうどMQ=F+Gで400円が成り立つ──。
図にすると、こんな景色です。

この図のいいところは、「M×Q=MQ」と「F+G=MQ」の両方が、ひとつの面積として同時に見えることだと、私は感じています。
左の「単品」と中央の「数量」を掛け合わせると、右の「全体」になる。
そして全体の中で、粗利MQ(黄色い部分)はそのまま固定費Fと利益Gの合計になっている。
この方程式を組み替えると、こうなります。
MQ = F + G
「ほしい利益」と「出ていく固定費」を足したものが、来期に稼がなければならない粗利の総額。
当たり前のように見えて、ここを「先に決める」かどうかで、計画の景色がまるで変わってくるのです。
ある社長さんの数字を、一緒に見直してみた
冒頭の社長さんと、この式を使って数字を並べ直してみました。
「来期、利益はいくら残したいですか」
私がそう聞くと、社長さんはしばらく考えてから、「1,000万円は残したい」とおっしゃいました。
固定費は、ざっくり年間3,000万円。
すると、必要なMQは、
G(1,000万円)+ F(3,000万円)= MQ 4,000万円
「この4,000万円の粗利を、どの商品で、いくらで、何個売って取りにいくか」
ここまで決まると、ようやく売上の話が意味を持ちはじめます。
たとえば粗利率(m率)が40%の会社なら、必要な売上高(PQ)は4,000万円÷40%で、ちょうど1億円。
月にならせば、830万円ほどの売上を取りにいけばよい、という見当がつきます。
社長さんはぽつりとこう言われました。
「あぁ、こうやって考えるんですね。今までずっと、売上ばっかり追っかけてました」
私は、その言葉に深くうなずいていました。
『利益が見える戦略MQ会計』には、「経営計画は30分でできる」という章があります。
①利益Gを決める。②固定費Fを決める。③目標MQを出す。④売上PQに換算する。
たった4ステップ。一般的な手順とは、まさに逆向きの順番です。
机の上で覚えるより、体で覚えるほうが早い
今日お伝えしたかったのは、たったひとつ。
「利益は残るものではなく、先に決めるもの」だということです。
次回は、この「PQ=VQ+F+G」という式そのものを、もう少しじっくり掘り下げてみたいと思っています。
最後に、もうひとつだけ。
MQ会計は、本を読んだり式を眺めたりするだけだと、なかなかピンと来ないところがあります。
私自身、頭でわかった気になっていたのは、最初のうちだけでした。
景色が変わったのは、「MG(マネジメントゲーム)」という研修に出会ってからです。
MGは、戦略MQ会計を体系化された西順一郎先生が考案された経営シミュレーションで、参加者ひとりひとりが社長役となって、仕入れ・製造・販売・決算を、何期も繰り返し体験するゲームです。
自分の手で意思決定を重ねていくと、「PQ=VQ+F+G」がただの式ではなく、生きた感覚として腹に落ちてくる──。
そんな不思議な研修だと、私は感じています。
全国いろいろな場所で開かれていますので、もしご興味があれば、私もMGの研修情報をお伝えできますので、お気軽にお声がけください。
押し売りするつもりは、まったくありません。
ただ、一度体験すると景色が変わる、ということだけ、お伝えしておきたかったのです。
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この記事の監修
税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。


