その値上げ、相手の「社内稟議」まで設計していますか?

投稿日:2026年09月26日

その値上げ、相手の「社内稟議」まで設計していますか?

おはようございます。

朝4時起きの名古屋の税理士丸山です。

 

原材料、電気代、外注費、そして人件費。
値上げしなければ利益が残らないことは分かっている。
ところが交渉に行くと、担当者は「上に確認します」と持ち帰り、そのまま何か月も返事が来ない。
そんなご相談が増えています。

 

止まっている場所は、目の前の担当者ではなく、その先の「相手の社内」です。
値上げは担当者一人では決められず、上司、設計、経理、経営層という見えない承認者の稟議を通らなければ成立しません。

 
今日は、この稟議から逆算する三つの視点を整理します。
①調達担当者は何で評価されているかを知る、②根拠を相手の評価項目に「翻訳」する、③値上げ後の「約束」と報告で次回を楽にする、の三つです。

目次

1. 調達担当者は「笑顔で」値上げを受け入れない

2. 根拠を相手の評価項目に「翻訳」する

3. 最強の武器はA4一枚の「相手の社内資料」

4. 値上げは「約束手形」——履行と報告で次が決まる

1. 調達担当者は「笑顔で」値上げを受け入れない

買い手の調達部門は、コスト削減を主要なKPIとして評価されています。
したがって、どれほど筋の通った値上げでも、担当者が喜んで受け入れることは絶対にありません。
目指す「納得」とは、相手が笑顔になることではなく、「客観的な事実に基づけば合理的で、受け入れざるを得ない」と冷静に判断してもらう状態です。

 

見落としがちなのは、優秀な調達担当者ほど価格以外の四つの軸で取引先を見ている点です。

 
第一に安定供給。
欠品でラインを止めるのは調達の最大の失点です。

 
第二に品質。
不良の再発と解析の遅れは、担当者が社内で板挟みになる原因です。

 
第三に将来性。
「5年後も存続し、設備更新に応えてくれるか」。
廃業による代替先探しは、調達がもっとも嫌うシナリオです。

 
第四に担当者の信頼性。
悪い報告を早く誠実に出す会社かどうかです。

 

相手が恐れているのは、値上げより「安く買った結果、供給が止まる・品質が落ちる・会社が消える」ことです。
この不安を減らす値上げなら、担当者は社内で説明できます。

2. 根拠を相手の評価項目に「翻訳」する

よくある失敗は、「材料が上がったので」と自社都合から説明を始めることです。
相手にとってそれは「御社の事情」にすぎません。
必要なのは、根拠を相手の評価項目に沿ったメリットへ言い換える作業です。

 

安定供給なら、「現行価格でも供給は続けられますが、5年後の設備更新の社内承認が下りません。
今回の改定で更新が可能になり、以降の安定供給をお約束できます」。
品質なら、「改定と同時に検査機器を導入し、不良率を0.1%から0.05%へ半減させます」。
いずれも、値上げが相手の不安を減らす投資だと示しています。
もちろん、実行できない約束は禁物です。

 

さらに強いのが、総所有コスト(TCO)での説明です。
単価100万円のモーターを105万円に上げても、電力効率が20%高く年間電気代200万円のうち40万円を節約できるなら、5年間で200万円の差。
5万円の値上げは初年度で回収されます。
購入価格の裏にある運用コストまで金額で見せると、交渉は「価格」から「価値」の話に移ります。

3. 最強の武器はA4一枚の「相手の社内資料」

背後の上司や経営層を説得するのは担当者の仕事です。
私たちがすべきは、その担当者を「社内プレゼンの勝者」にすることです。

 

具体的には、交渉の最終段階で「ご参考まで」とA4一枚のサマリーを渡します。
構成は四段。
①根拠となる客観データ(原材料市況、最低賃金の推移など)、

②改定後も競争力が保たれるトータルコストの試算、

③複数の選択肢、

④品質維持と安定供給、ひいては相手の事業継続に不可欠だという結論。
担当者はこの一枚を上司に見せるだけで説明でき、私たちの主張を自分の言葉で社内に語ってくれます。

 

③の選択肢は、顧客ごとにA・B・Cの三案を先に決めておきます。
Aは満額回答。
Bは現実的な着地点で、半年後5%・1年後にさらに5%の段階的値上げや、価格据え置きの代わりに緊急対応を有料メニュー化する「価値交換」。
Cは今回は見送るが、半年後の再交渉を約束してもらう最低限ゴールです。

 
もう一つ、単価を変えず年度末の協力金や一括報奨金をゼロにする案も有効です。
相手は単価を守ったと社内に報告でき、自社は利益を取り戻せる。
「価格」と「利益」を切り離す発想
です。

4. 値上げは「約束手形」——履行と報告で次が決まる

値上げが通ると営業は安堵しますが、相手には「ふっかけられたのではないか」という不安が残っています。
値上げとは、信頼を担保に未来の価値を前借りする、約束手形を切る行為です。

 

だから、約束したことを議事録に明記し、自社のKPIにしてください。
「不良率を半減する」と言ったなら、3か月後に「100ppmが50ppmになりました」とデータで報告する。
「設備更新で安定供給」と言ったなら、納期遵守率を示す。
この報告は、担当者が上司に「私が承認した取引先は約束を守っている」と胸を張る資料にもなります。
実行だけでは不十分で、報告してはじめて約束は完結します
。

 

最後に、原材料が下落局面に入ったときの振る舞いです。
上げるときはすぐ来るが、下がっても何も言ってこない取引先を、調達は忘れません。
市況が下がったら、言われる前に「来月から単価を2%引き下げます」と自ら連絡する。
これができる会社は、次の値上げで「この会社なら理由があってのことだ」と受け止めてもらえます。
値上げの成否は、前回の後始末で半分決まっています
。

おわりに

値上げが止まるのは、交渉が下手だからではなく、相手の社内で稟議を通す材料をこちらが用意していないからです。
御社の値上げ依頼書は、相手の担当者がそのまま上司に見せられる形になっていますか。

当事務所では、税務申告や記帳にとどまらず、取引先別の採算把握、値上げ幅の算定、A・B・Cプランの整理、値上げ後の効果検証まで、経営者の意思決定に踏み込んだご支援を行っています。
「値上げしたいが、相手の担当者が動いてくれない」という段階からで構いません。

丸山会計事務所は、経営理念に「ともに未来を描く」を掲げています。
三年後、五年後にどんな取引先と、どんな条件で仕事をしていたいのか。
そこから逆算して、今日の一手を一緒に決めていく。
それが私たちの仕事だと考えています。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別具体的な経営判断を行うものではありません。
実際のご判断に際しては、税理士・会計士等の専門家へご相談ください。

 

 

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この記事の監修

丸山会計事務所 税理士 代表 丸山和秀

税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)

税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。

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