「mとMは別人です」──額と率、ふたつのものさしの話
投稿日:2026年05月15日

朝4時起きの名古屋の税理士の丸山です。
先日、ある経営者の方から、こんなメッセージをいただきました。
「丸山さん、MQ会計の本を読んでいると『M』と『m』が出てきますが、これは同じものなんでしょうか?大文字と小文字でなにか意味の違いがあるんですか?」
私は、そのメッセージを読みながら、思わず姿勢を正しました。
鋭いところに気づかれたな──と思ったからです。
たしかに、MQ会計の式に出てくる「M」と「m」は、見た目はそっくりです。
でも、二つは別の景色を映している記号で、ここを混ぜてしまうと、社長の判断がぼんやりとしてしまうのです。
今日は、この「M」と「m」の違いを、もう一度きちんと並べてみたいと思っています。
記号の話のようで、じつは経営判断の入り口の話だからです。
M は1個あたりの「金額」、m は売価に対する「率」
『利益が見える戦略MQ会計』のなかでは、「M」と「m」は、こんなふうに使い分けられています。
M = P − V
大文字の M は、商品1個あたりの粗利の「金額」。
たとえば、価格 P が 1,000円、仕入れ V が 600円なら、1個売るごとに残るのは 400円。
これが、M です。単位は「円」です。
そして、
m = M ÷ P
小文字の m は、その M が、価格 P のうち何割を占めているかという「率」。
さきほどの例なら、400円 ÷ 1,000円 = 40%。
これが、m です。単位は「%」です。
M と m。
名前はそっくりですが、片方は「いくら残るか」を映し、もう片方は「価格のうち何割が残るか」を映しています。
ものさしそのものが、別物なのです。
M は「絶対額の景色」、m は「体質の景色」
私は社長さんとの面談で、よく M と m を別々に並べてみせます。
M は、1個売れたら手元に何円残るか、という絶対額の景色です。
家賃も、社員の給料も、税金も、率では払えません。最後はすべて「円」で出ていきます。
だから M は、社長にとって、生活実感に近い数字なのです。
一方、m は、価格と原価のバランスがどれだけ健全か、という体質の景色です。
業界の中で粗利率が薄ければ、いくら数を売っても、忙しさのわりに残りません。
だから m は、会社の体質を映す血圧計のような数字だと感じています。
絶対額の景色 M と、体質の景色 m。
どちらか片方だけを見ていると、社長の判断は、だんだん怪しくなってきます。
たとえば、ある町のパン屋さんで
ここで、ひとつ具体例を並べてみます。
名古屋のとある町にある、小さなパン屋さんを思い浮かべてください。
看板商品のクリームパンは、1個 300円。
原材料費 V は、1個あたり 100円。
すると、
M = 300 − 100 = 200円
これが、クリームパン1個あたりの粗利の金額です。
そして、
m = 200 ÷ 300 = 約66.7%
価格のうち、約3分の2が粗利として残っている。これが、このパンの粗利率です。
「うちのクリームパンは1個200円も残るんですよ」と社長が誇るとき、語られているのは M の話。
「うちのクリームパンは粗利率がいいんですよ、約7割残ります」と語られるとき、語られているのは m の話。
同じ商品の同じ数字を、別のものさしで見ている、ということなのです。
Q が動くと、景色が変わる
ここで、「Q」(販売数量)の話に少しだけ踏み込みます。
クリームパンを1日に200個売り切るとすると、
M × Q = 200円 × 200個 = 4万円
これが、1日あたりの粗利総額(MQ)です。
ひと月25日営業なら、月の MQ は 100万円。
お店の家賃も、職人さんの給料も、電気代も、ここから出ていきます。
ここで近所にライバル店ができて、Q が 200個 から 150個 に落ちた、と仮定します。
M は変わりません。1個あたり 200円のままです。
m も変わりません。約66.7%のままです。
ところが、MQ はどうでしょうか。
200円 × 150個 = 3万円
月で見れば、100万円 → 75万円。
たった50個の差で、月の粗利は 25万円も痩せてしまいました。
家賃や人件費は、ほとんど変わらないのに、です。
M も m も、Q が動いてもびくともしない。
でも、MQ は大きく動く。
これが「Q が動くと景色が変わる」ということの正体だと、私は受け取っています。
額と率、両方を机に並べる
中小企業の社長さんとお話していて思うのは、多くの方が、M(額)か m(率)か、どちらか片方ばかりに目が向いてしまっている、ということです。
m(率)ばかり見ていると、「うちは粗利率が高いから大丈夫」という安心感が先に立ちます。
でも、M が小さく、Q も伸びていなければ、MQ(総額)は痩せたまま。家賃や給料は、率では払えないのです。
M(額)ばかり見ていると、「1個あたりこれだけ残る」という個別の景色に目を奪われます。
でも、もし m が業界水準より薄ければ、価格戦略の余地が小さく、競争に振り回されやすくなります。
M と m、両方を、机の上に並べて眺める。
それから、Q を掛けて MQ で全体を見る。
たったそれだけで、来期の打ち手の質が、ずいぶん変わってくる──と感じています。
値札の前で、ふたつのものさしを当ててみる
今日お伝えしたかったのは、ひとつだけです。
「M は額、m は率。ふたつは別のものさし」ということです。
今度、ご自分のお店や工場で、看板商品を1つ手に取ってみてください。
そして値札を眺めながら、頭の中でそっと、こう書き足してみる。
P − V = M(1個あたり、何円残るか)
M ÷ P = m(価格のうち、何割残るか)
このふたつのものさしを、同じ商品に当ててみる。
それだけで、見えてくるものが、ずいぶん変わってくるはずです。
次回は、この M を一見正しそうに小さくしてしまう判断 ──「値引きはなぜ恐ろしいか」というテーマを、数字でじっくり見ていきたいと思っています。
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この記事の監修
税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。


