「売上を、真ん中から降ろした人」──西順一郎先生とMQ会計が生まれた頃の話
投稿日:2026年10月01日

朝4時起きの名古屋の税理士丸山です。
先日、名古屋駅の近くの書店で、経営書の棚の前に立っていました。
隣に、スーツ姿の若い方がいらっしゃって、一冊の本を手に取り、ぱらぱらとめくって、棚に戻されました。
その本が、『利益が見える戦略MQ会計』でした。
「記号ばっかりで、むずかしそう」
そんな顔をされていたように、私には見えました。
声をかけるわけにもいかず、私はその背中を見送りながら、ふと思ったのです。
この式は、誰が、どんな思いで、この形にたどり着いたのだろう、と。
今日は、いつもの「数字の話」を少しお休みして、この式を作られた方のことを書いてみたいと思います。
ゲームが先に生まれた
MQ会計を体系化されたのは、西順一郎先生という方です。
もともとはソニーにお勤めで、社内の教育を担当されていたと伺っています。
面白いのは、順番です。
理論が先にあって、そこからゲームができたのではありません。
先に「MG(マネジメントゲーム)」というゲームが生まれ、そのあとから会計の体系が形になっていったのです。
MGが生まれたのが1976年。
参加者ひとりひとりが社長になり、仕入れて、作って、売って、決算する。
それを何期も繰り返す研修です。
ゲームですから、参加者は一日に何度も決算をします。
そして、そのたびに「なぜ自分の会社は儲からなかったのか」を、自分の手で確かめることになります。
ここで、ひとつの壁にぶつかったのだと思います。
決算書の形のままでは、それが見えないのです。
売上高、売上原価、販管費、営業利益、経常利益──。
この並びは、税務署や銀行に報告するためには、よくできています。
けれど、「次の期に、何をどう変えれば儲かるのか」は、この並びからは読み取れません。
決算書は、行動の順番で書かれていないからです。
真ん中に、粗利を置いた
そこで西先生が考えられたのが、勘定科目をいったん全部ほどいて、たった5つの記号に組み直すことでした。
PQ = VQ + F + G
価格P、変動費V、数量Q、固定費F、利益G。
この5つだけで、会社の一年を書いてしまう。
そして、この式には、もうひとつの顔があります。
MQ = F + G
粗利MQが、固定費Fを払い、残りが利益Gになる。
この形にした瞬間、会社の真ん中に座っていたのが「売上」から「粗利」に入れ替わったのです。
私はこの本を初めて読んだとき、ここに一番驚きました。
決算書では、売上がいつも一番上の行にいます。
それが当たり前だと、税理士の私自身、疑ったことがありませんでした。
でも、考えてみれば、売上の中には仕入れ代金が混ざっています。
1,000円で売っても、650円は仕入れ先に払うお金です。
会社に残るのは350円だけ。
給料を払い、家賃を払い、税金を払い、社長の暮らしを支えるのは、この350円のほうなのです。
だから、会社が本当に見張るべき数字は、売上ではなく粗利MQ。
西先生は、それを「式の形」で言い切ってしまわれた。
私は、そう受け止めています。
1981年頃に、この考え方は「STRAC(ストラック)」という名前で世に出て、のちに「MQ会計」と呼ばれるようになったと聞いています。
名前は変わりましたが、真ん中に粗利を置く、という骨組みは、いまも変わっていません。
なぜ「ゲームから」だったのか
私は、この式が「研究室」ではなく「ゲームの卓上」から生まれたことに、意味があると思っています。
ゲームでは、参加者は一日に何回も意思決定をします。
値段をいくらにするか。
何個作るか。
人を雇うか。
機械を買うか。
そのとき、決算書の形の数字は、まったく役に立ちません。
「経常利益率が下がった」と言われても、次の一手は決まらないのです。
役に立つのは、「1個あたりの粗利Mが薄くなった」「数量Qが足りない」「固定費Fが重すぎる」という言葉のほうです。
なぜなら、それはそのまま「次にどこへ手をかけるか」の話だからです。
つまりこの式は、「報告するための形」ではなく「決めるための形」として生まれた。
生まれた場所が、そうさせたのだと私は思います。
半世紀近く前に、そのことに気づいた方がいた──。
書店の棚の前で、私はそんなことを考えていました。
記号は、こわくない
あのとき本を棚に戻した若い方に、もし声をかけられたなら、私はこう言いたかったのです。
「記号は5つしかありません。
しかも、全部、社長が明日から動かせる数字です」
P・V・Q・F・G。
この5つは、誰かが難しく見せるために作ったものではなくて、社長が毎日の判断をしやすくするために、ぎりぎりまで削ぎ落とされた結果なのです。
私は、この式を作られた方の「削ぎ落とした側の苦労」を、これからも忘れずに、社長さんたちにお届けしていきたいと感じています。
次回は、また数字の話に戻ります。
「人件費は、コストなのか、投資なのか」──サービス業の固定費Fを、少し違う角度から眺めてみたいと思っています。
この記事の監修
税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。


