空き家でも減価償却は可能か?「事業の用に供する」要件と証拠保存の実務
投稿日:2026年03月05日
4時起き税理士の丸山です。今回は、空き家の減価償却についてです。

結論:現在空室であっても、物理的に賃貸可能な状態にあり、
かつ継続的に入居者募集を行っている事実があれば、
減価償却費の計上は可能です。
判断基準は、税務上の「事業の用に供した」かどうかにあります。
単なる所有では足りず、賃貸事業として使用を開始している客観的事実が必要です。
1. 事実関係の整理
本件の前提事実は以下のとおりです。
- 現在は空室である
- 物理的には即入居可能な状態である
- 不動産会社を通じて継続的に入居者を募集している
- 募集広告(マイソク、インターネット掲載等)の記録が存在する
税務上、減価償却を開始するためには、その資産が「事業の用に供された」時点が基準となります。
不動産賃貸業における「事業の用に供する」とは、単に取得・完成しただけでは足りず、
「本来の用途・用法に従って現実に使用開始すること」を意味します。
つまり、
- 建物が完成している
- 内装工事等が完了している
- 入居可能な状態である
- 客観的に募集が開始されている
これらが揃って初めて、減価償却開始の要件を満たします。
2. 税務上の論点
論点①:「空室=未使用」ではない
減価償却が否認される典型例は以下です。
- 建物は完成しているが、募集を行っていない
- 自己使用予定で放置している
- 内装工事中で入居不可
- 使用開始時期を証明できない
これらは「事業の用に供した」とは言えない状態です。
一方で、
入居者が長期間決まらない場合であっても、「募集を行っている継続的な事実」があれば、事業の用に供したとみなされる。
という整理になります。
つまり、空室かどうかは本質ではありません。
本質は、
「収益を得るための使用を開始しているか」
です。
論点②:使用開始時期の確定
減価償却費は、使用開始月から月割計算されます。
例えば:
- 3月取得
- 4月1日から募集開始
- 7月入居決定
この場合、減価償却は4月から計上可能です。
入居決定月ではありません。
ここを誤ると、減価償却開始時期のズレ=所得修正の対象になります。
論点③:証拠資料の保存義務
税務調査で必ず確認されるのが、
「いつ事業の用に供したのか」
です。
実務上必要な証拠は以下。
- 募集図面(マイソク)
- ポータルサイト掲載履歴
- 管理会社との募集依頼契約書
- 募集開始メール
- 募集広告のスクリーンショット
- 募集条件変更履歴
重要なのは“継続性”の証明です。
単発の広告では足りません。
3. 不動産経営への影響
① 初年度の損益に直結
例えば:
- 建物価格:5,000万円
- 建物割合:70%(3,500万円)
- 耐用年数:22年
- 年間償却費:約159万円
もし4か月分否認されれば、
- 約53万円の経費減少
- 所得税・住民税で約20万円超の税負担増(税率40%想定)
開始月の1か月のズレが税額に直結します。
② 法人化判断への影響
法人化を検討しているオーナーにとって、
- 償却開始時期
- 取得時期
- 決算期との関係
は、初年度赤字設計に直結します。
償却が想定より後ろ倒しになると、
- 損益計画が崩れる
- 役員報酬設計が狂う
- 融資評価が悪化する
という連鎖が生じます。
③ 相続対策との接続
減価償却は、
- 所得圧縮
- 現金留保
- 純資産圧縮
に影響します。
開始時期が遅れると、
- 純資産増加
- 株価上昇
- 相続税評価上昇
という形で承継コストが上がる可能性があります。
4. 想定されるリスク
リスク①:形式だけの募集
広告を一瞬だけ出して削除するなど、
実態を伴わない形式的募集は否認リスクが高い。
税務署は、
- 募集期間
- 問い合わせ履歴
- 内見実績
まで確認する場合があります。
リスク②:修繕中の誤認
原状回復工事中やリフォーム中は、
- 物理的に入居不可
- 使用開始前
と判断される可能性が高い。
この期間は償却不可です。
リスク③:証拠未保存
最も多いのはこれです。
「募集していましたが、資料は残っていません」
これは実務上、ほぼ防御不能です。
5. 戦略的判断のポイント
① 取得後、即日募集開始
決済日=募集開始日
に近づける。
空白期間を作らない。
② 募集証拠を体系保存
- フォルダ管理
- 年月別保存
- PDF化
- クラウド保存
税務調査は3〜5年後に来ます。
今の記録が将来の防御になります。
③ 管理会社任せにしない
管理会社が広告を出していても、
証拠はオーナー保管が原則です。
④ 募集条件の合理性
極端に高い賃料設定で放置している場合、
本資料から合理的に導ける判断として、
「実質的に募集していない」と評価される可能性があります。
市場賃料との乖離は避けるべきです。
まとめ
- 空室であっても減価償却は可能
- 判断基準は「事業の用に供したか」
- 継続的募集があれば認められる
- 募集開始月から償却可能
- 証拠保存が最重要
空室は問題ではない。問題は“証明できるかどうか”です。
減価償却は単なる経費計上ではありません。
- 所得設計
- 法人化設計
- 相続設計
- 承継戦略
すべてに連動する基盤項目です。
空室期間の扱いを軽視することは、
長期資産戦略を軽視することと同義です。
記録を残す。
開始日を明確にする。
継続性を証明する。
これが、不動産オーナーの防御力です。
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この記事の監修
税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。


