「お客様の要求を満たすのが、社長の仕事」──「面倒なお客さん」を、値打ちに変える話
投稿日:2026年08月19日

朝4時起きの名古屋の税理士の丸山です。
先日、顧問先の応接室でお茶をいただいていたら、社長さんが一枚のFAXを机にぽんと置いて、小さくため息をつかれました。
「丸山さん、これ、うちのいちばん手のかかるお客さんからの注文書でね」
見せていただくと、細かい但し書きがびっしりでした。
納期はこう、梱包はこう、検品はここまで、と。
「うちはメーカーやのに、こんな細かい注文までのんどったら、身がもちませんわ」
そう言って、少し困った顔で笑われました。
私はその一枚を、しばらく黙って眺めていました。
「面倒なお客さん」は、コストなのか
社長さんの言い分は、よくわかります。
要望が細かいお客さんほど、手間がかかる。
検品を増やせば人が要りますし、特別な梱包をすれば材料も時間もかかります。
数字で言えば、Vが上がり、Fも膨らむ。
だから「面倒なお客さん」は、そのまま「コストのかさむお客さん」に見えてしまうのです。
でも私は、その一枚を眺めながら、少しだけ違うことを考えていました。
この細かい但し書きは、裏を返せば「ここまでやってくれるなら、この値段を払う」という、お客さんご自身の声でもある──と。
一倉定さんの、もう一つの言葉
以前このブログで、一倉定(いちくらさだむ)さんの「会社をつぶすのは社長一人である」という言葉をご紹介しました。
その一倉さんが、繰り返し説かれた言葉が、もう一つあります。
「お客様の要求を満たすことが、社長の仕事である」
一倉さんは、会社の中をどう管理するかよりも先に、まず外を──つまりお客様のほうを見よ、と言い続けた方でした。
利益は社内の頑張りから湧いてくるのではなく、お客様の要求に応えたご褒美として、外からいただくものだ、と。
私はこの言葉を、いつものMQ会計の式の上に、そっと重ねてみます。
要求に応えることが、Pの足元を支えている
おなじみの企業方程式は、こうでした。
PQ = VQ + F + G
このいちばん左にあるP、商品1個あたりの値段。
これは、社長が机の上で勝手に決められる数字ではありません。
「その値段を払ってもいい」と、お客様がうなずいてくれて、はじめて成り立つ数字です。
では、お客様は何にうなずくのか。
値段そのものにではなく、「自分の要求が、どれだけ満たされているか」にうなずくのです。
納期、品質、あの細かい但し書き。
そこに応えているからこそ、Pが保てている。
つまり、お客様の要求に応えるとは、Pという数字の足元を支える行為なのです。
Pが支えられれば、1個あたりの粗利M(=P−V)が残り、そこにQを掛けたMQが生まれ、Fを払って、Gが手元に残る。
MQ = F + G
利益Gの、いちばん奥の水源をたどっていくと、そこには必ず「満たされたお客様の要求」が湧いている。
私は、そう感じています。
ここまで来ると、値段の話と、お客様に喜んでいただく話は、別々のものではなくなります。
よい仕事をしてお客様の要求に深く応えるほど、Pは無理なく保て、ときには上げることさえできる。
値上げの本当の入口は、値札の上ではなく、お客様の満足の側にあるのだと、私は思っています。
「面倒」の中身を、二つに分けてみる
とはいえ、どんな要求にも応えればいい、という話ではありません。
大事なのは、「面倒」の中身を二つに分けて眺めることだと思うのです。
一つは、お客様が本当に値打ちを感じている要求。
ここに応えれば、Pが上がるか、少なくとも下がらずに済みます。
応えるほどMの源になる要求です。
もう一つは、お客様自身もさほど値打ちを感じていない、こちらが気を回しすぎているだけの手間。
これはVとFを食うだけで、Pにはつながりません。
同じ「面倒」でも、前者はMを生む種、後者はただのコスト。
社長の仕事は、この二つを見分けて、前者にうんと応え、後者はお客様と相談してそっと手放していくことなのだと思います。
さて、あの社長さんです。
私は「この但し書き、お客さんはどこにいちばんお金を払ってくれていますか」と、一つずつ一緒に見ていきました。
すると、手間のかかる特別な梱包は、実はお客さんのほうも「そこまでは要らん」と思っていたことがわかりました。
逆に、几帳面な検品こそが、そのお客さんが他社ではなくこの会社を選び続けている、いちばんの理由だったのです。
社長さんは腕を組んで、こう言われました。
「うちは、いちばん値打ちのあるところで手を抜いて、要らんところで汗をかいとったのかもしれませんな」
その日から、その会社では「面倒なお客さん」という言い方が、少しだけ減ったそうです。
「うるさいお客さん」は、実は会社をいちばん鍛えてくれている先生なのかもしれません。
その要求の一つひとつが、値段の理由になり、粗利の源になり、めぐりめぐって利益になっていく。
次にお客様から少し無理な注文が届いたとき、すぐに「面倒だ」と手を止める前に、「この要求は、うちのPを支えてくれている声だろうか」と、一度だけ問うてみる。
その小さな問いが、会社の値打ちを静かに厚くしていくのだと、私は思っています。
次回は、また工場の現場に戻って、カイゼンで浮いた時間や手間が、実際にいくらの粗利(MQ)に化けたのかを、きちんと勘定してみる話を、と思っています。
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この記事の監修
税理士
丸山会計事務所代表 丸山 和秀(1986年生まれ)
税制支援20年以上、不動産税務、事業承継&M&A、法人資産税、設備投資時の優遇税制を得意とする。
「ともに未来を描く」を経営理念として、お客様と一緒に未来を描くことができる、提案型の“攻める税理士”として、経営ビジョンやニーズに寄り添い、適切なタイミングで、お客様のお悩みを解決するご提案を行う。


